第83話 #拡散希望 英霊の弱点
――M県翔北市舞金地区、緊急避難所
内閣府からの緊急避難宣言発令を受けて県庁は各市における避難所を指定し、市役所、警察、消防など公的機関を中心に避難活動を開始した。当初は混乱が予想されたが地震の揺れが小さいことや停電、断水などの被害が発生していなかったこともなり大きな混乱もなく指定された避難場所へ移動が完了した。
単独移動が困難な住民は緊急車両をフル稼働させて避難場所へ移動していく。連絡が取れない住民も若干いたものの周辺住民の気配りで声掛けしスムーズに避難を行うことができた。
日本人の民度が高さ故なのか?いやそうではない。まだ実際の被害が無いから落ち着いていられるだけなのだ。水不足、食料不足、電力不足、寒さや暑さなどなど、いづれかを欠き我慢することを強要された瞬間に静寂は崩壊しかねない。まるで避難訓練のような安心感の中に何とも云えない不安感が漂うのだった。
舞金地区の住民は市営体育館が避難場所だった。体育館の中はブルーシートを敷き詰められ、そこにエアベッドやら寝袋が置かれている。避難した住民が思い思いの格好で身体を休めていた。
「さっきから小さい揺れが続くけど大地震なんて本当に来るんだろうかね?」
「地震は最初が一番大きく揺れるっていうじゃない。だから今以上に大きな地震に発展することなんてないと思うんだけど」
「そうだと良いんだけどなー。何も無かったら明日は仕事あるんだろうか?これから帰って明日仕事ってなると辛いな〜」
「まあまあ。今はゆっくり休んで明日に備えてくださいよ。ほらアンタもいつまでもスマホやってないで早く寝なさい!」
「…………」
舞金小6年生の女子グループを束ねる大物、木村朋美は母親の云うことを聞き流してスマホいじりに夢中である。
「ほら、電気なくなったら使えなくなるよ!」
「避難所にモバイルバッテリーが支給されているから当分は大丈夫じゃね?それよりも情報収集が優先だ、っと」
「情報なんてテレビかラジオでも聞けば良いでしょう!」
「分かってないな〜。今どきの最新情報はインターネットよ、インターネット!」
まだ深刻な被害が起きていないため、ほとんどの基地局が稼働しているのだろう。朋美のスマホはバリ3で使用可能な状態だった。
「そろそろ陸上自衛隊がM県に入ってきたみたい。ほら写真、見てみて」
「どれどれ?」
朋美の母親が半信半疑でスマホの画面を覗き込むと其処には国道らしき道に県境を示す道標、そして見たこともないナンバープレートを付け、2車線道路の半分以上を占める横幅の超巨大なトラックが写っていた。
「あーれま、でっかい車ね〜。国道を使って移動ってことは舞金に来るのは当分先だわ。今は困ってないから急がないけど食べ物とか持ってきてくれるのかしら。しかし誰が撮った写真なのかね?」
「たぶん県境の近くの人じゃない。テレビの情報なんかよりずっと新鮮なんだから!」
「ふーん、良く分からないけど便利なもんね〜。それってなんて云うの?」
「Tvitterよ」
「チビッたね〜。あ、寝る前にちゃんとトイレ行きなさいよ。トイレ!」
「もー、分かってるってば!子どもじゃないんだから!!」
避難所を見渡すと誰もがスマホを操作している。薄暗い体育館の中でスマホが点々と光っている。誰よりも早く情報を知りたい、誰も知らない情報を知りたい。情報を求める欲求は生存確率を高めようとする本能なのかもしれない。
「さすがに真新しい情報はないか〜。あれ?烏丸山?宇部?英霊??何だか聞いたような単語がトレンド入りしているわね」
Tvitterは誰かの発信をフォロワーが受け止め、更にそのフォロワーへ伝播していく仕組みを持っている。RTと呼ばれる独特の仕組みである。多くの人にRTされて拡散伝播しているキーワードはランキングされ更に注目を集める。それがランク入りと呼ばれる。
「この大変な状況で物好きがいたもんね。でも大変な状況だからこそ注目されたのかな?どれどれ……」
ぷっ!
拡散伝播している情報を読んで朋美は思わず吹き出してしまう。
「お母さん、見て見て!超ウケるんだけど!」
「今どき、超とか云わないじゃないの?大丈夫なのアンタ?はいはい、見ますよ、見ますって。はあ、どれどれ?」
朋美の母親は受け取ったスマホを目を凝らし、表示された小さな文字を近づけたり遠ざけたりしながら読む。
「えーっと何々?『英霊、宇部兼依の最強説崩れる。恋力を吸収した妖刀 鬼恋丸榛綱には勝てず敗れる。その恋力の元は……』」
「ね!面白いでしょ!?」
「それ日本史の話なの?実在した人をおちょくって何が楽しいんだかサッパリ分からないわ。それより宿題やったの?云われなきゃやらないんだから。アンタは誰に似たんだか。顔もおへちゃで困ったものね〜」
「こんな状況で宿題なんかやれねーし!半分はアンタだし!!中学行ったら盛るから心配ねーし!!」
「コラ!親に向かってアンタとか云わないの!盛るって何?化粧なんかして学校に呼ばれたら承知しないわよ!」
「あー、母さん。あんまり大声出さない方が……。周りの人に迷惑だよ……」
「アンタだけ良識人ぶって何よ!大体、アンタが普段から――」
避難所の一角、賑やかな風景だった。
一体、誰が英霊の弱点の情報を流したのだろうか?そして何故、こんなに早く情報が拡散できたのだろうか?影響力の強い人間が、人の興味を惹く情報をタイムリーに流した。答えはそれに尽きるだろう。
では影響力が強いとはどういうことか?
自分の発言を多くの人間に伝えることができる人間。つまりTvitterならば多くのフォロワーを有しているアルファ・チヴィッタラーと呼ばれる少数のユーザーだろう。
情報拡散、数分前に遡る。
<未流、もうマンアカで情報発信したー?>
<……今、やってますのでお待ちを>
1万人以上のフォロワーを有するアカウントの称号を『マンアカ』という。今こそ未流が地道な内職で育てたマンアカの力を発揮する時!
きゅるきゅる、きゅーーーーー
だが不意に波が訪れ、容赦ない腹痛が未流を襲う!
「はあはあはあ……」
「モウ少しダ。ガンバレ、未流チャン!」
「煩いポンコツ……。云われなくても。はぅ!」
未流は最後の力を振り絞りタップを続ける。
#拡散希望 英霊の弱点
<今、英霊の弱点を発信しま、し……>
<でかした未流!あとはシフォンの勝利で万事解決だよー>
<あとは、任せ、ま……、わ>
<ん?未流、どうしたの??>
果たしてマンアカの影響力は人の噂を書き換えることができるのだろうか!?




