第82話 詩芙音独演会の開演
――烏丸山の元採掘場(続きの続き)
曲がりくねった坑道の壁に激突したロジカル・シフォンは頭を抱えながら倒れ、弓なりに丸まって動けない。悲痛のうめき声が坑道の中に響いている。壁に擦ったコスチュームは無惨に破け、背中の光翼は一部がもげて微かに光る羽が舞い上がる。
立ち上がれシフォン!
膝の砂を叩き落とせば、ほうら元通り。
擦り傷も痛いの痛いの飛んでけ、だ!
「ううう、痛いよ……。詩芙音ちゃんの爆弾発言が爆発するなんて酷い……」
<あいたた。融合してるから私だって痛いんだよ〜。気をつけてね、シフォン>
「えー、気を付けるの、私じゃなくない!?」
<あは☆>
自分の内側に存在するもう一人の少女、野伊間詩芙音に文句を云う鈴偶智優。今、二人は一つの身体に融合し、真・魔法少女ロジカル・シフォンに変身しているのだ。
二人の意識は別々に存在し、会話をしているが傍から見ると魔法少女のコスプレした少年(?)がブツブツと呟きながら暴れているようにしか見えないのは当事者には秘密だ!
「噂を書き換えるってどういうことなの、詩芙音ちゃん?」
<うーん、話せば長くなるんだけど……>
言葉とは裏腹にニコニコ、ノリノリで詩芙音は話し始める。
<えーっと、何から話し始めよっかな〜。え?何々?巻きでお願いします?いや〜、結論から話せって云うけど結論だけ聞いても分からないでしょ!理解できなくて説明を求めるのはアナタでしょ!って話。え?話が反れてる?そうかな〜、まあそんなに焦らないでシフォン>
<私が『ロジックの魔女』って覚えてくれてる?だよね〜、一回聞いたら忘れられないよね。でも何が『ロジック』なのかイマイチ分からないでしょ?イマイチどころじゃない、って。ヤダな〜、そんなんだからロムにボンヤリしてるって云われるんだよ>
<あのね、『魔女』っていうのはセカイを解釈し、行使する力を持つ存在なの。私は『ロジック』っていう原理原則を用いてセカイを解釈し、魔法を発生させることができるの。そうね〜、全ての魔女の手の内は知らないけど例えばミルは『色彩』によってセカイを解釈できるわ。あと『空間』とか、まあ色々あると思うよ>
<ほら、巻いたらこんがらがった。シフォンは可愛いんだから〜。このほっぺたをぷにぷに触るの、病みつきね!でね、『魔女機関モーダル』っていうのは私が所属している組織なんだけど。色々な魔女が集まって『グリモワール』っていう魔導書を作るのが目的なの。『グリモワール』って何って?ふふふ。ひ・み・つ>
<『グリモワール』の両極に位置する存在が何だか分かる?うーん、違うな〜。漫画でも絵の多い小説でもないよ。ヒント!人づたいに広がり、不確定で形が定まらないもの、人が好む都合が良い虚飾。無意味な嘘。時には誰かを傷つけたり、何かを壊したりできるもの。良し悪し別にして、人間の強力な想いが込められた呪い。そう、当たりだよシフォン!それこそが『噂』よ!>
<あはは、シフォンは優しいね〜。でもそんなロクでもない『噂』ほど広まりやすいし、消えにくいでしょ?人間の業だから仕方ないと思うよ。でねでね、この『噂』ってやつが曲者で真実の情報を捻じ曲げて都合の良い嘘に書き換えちゃうんだよね、困ったことに。あー、困ってますよ。楽しんでないない。ロムみたいに説教臭いね、影響受けちゃったかな?>
<話を戻すね。戻るかな?まいっか、あははは。『噂を操るもの』は人類の歴史の中で常に存在していたの。そして『グリモワール』の創生を邪魔してきた、ってロムは説明していたわ。残念ながら私はロムほど長生きしていないから大昔のことは分からないけど、少なくとも私が舞金小に転校してきた時から、何かがおかしいと思っていたよ。ああ、何か邪魔されそうだなってね。うん、そう。当たり!『黄昏時の告解室』がまさに『噂』だね>
<やだな〜、私だって口を開けて楽しんでたわけじゃないよ。確かに楽しんでるけどね。ふふふふふふ。それを証拠に『噂』を逆手に取る実験してたんだよ〜。それが見事に大成功!!まさかあんなにクッキリと『噂』が実体化して作用するなんて思わなかったよ〜。ちょー楽しいの!え?ずるい?だってシフォンはシフォンでハイキングを楽しんでたじゃーん。私、我慢してたんだよぅ。うん、そう。実験ってのは『恋占い』のことだよ>
<『恋占い』の噂を流してみたら偽物の私が一人歩きして占いを始めるじゃない。じゃあ噂を書き換えたらどうなるのか興味津々よ!!どうなったと思う、シフォン??実験の結果はね〜、『噂』の中身が変われば実体化するモノも変わるってこと!世紀の大発見にノーベル賞が貰えるかもしれないね。わくわく。うん、ノーベル幻想賞!だから……>
<都合の悪い『噂』だったら都合良く書き換えちゃえばいーじゃん!っていう話だよぅ。あは☆>
ロジカルシフォンは坑道の地面に手をつきorzに項垂れている……
「ううう、何だかずっと詩芙音独演会だった気がする……」
<何云ってるのシフォンちゃん?ずっと会話しながら説明してたじゃない。やだな〜、途中から聞いてなかったんでしょ。もう、そういうところがボンヤリなんだよ〜>
「いや。たぶん。今回はボンヤリではない、はず」
気を取り直し、気合を入れて立ち上がるシフォン。激突のダメージよりも大きなダメージを負ったようだが大丈夫だろうか?ちょっとアレなバディだけど頑張れシフォン!
「何となく分かったような、分からないようなだけど大丈夫だよね?」
<うん、大丈夫大丈夫!大丈V!!>
「突破口は分かったんだけど『噂』を書き換えるなんてすぐにできないんじゃないかな?どうやったら良いのか検討もつかないよ……」
<だーかーらー、大丈Vだって!今から呼び出すね。未流!未流!!>
魔女同士の会話手段でもある念話で『色彩の魔女』安蘭未流を呼び出す。既に出口近くまで来ているのだろう。外で戦う未流の鮮明な声がすぐに返ってきた。
<詩芙音姉さま、今どちらに!?ん??変だな。にっくき智優の声に聞こえるぞ>
<そりゃそうよ。今は智優ちゃんと融合して一体だもん。それより……>
<はわぁーーーーーーーーーーーーー!い、一体って一体どういうことですの!?>
<どうでも良いっしょ。それより……>
<良くない!ですわぁぁー!!>
<煩い黙れ!!!!!!!>
きーーーん。未流は詩芙音の一喝で鼓膜を破りそうになり思わず耳を抑えてしまう。
<さっきまでの元気無い感じは何処に行ったのよ、マッタク!それよりも『マンアカ』を使う時が来たから準備して!ねえ、聞こえてるの未流!!>
聞きたくても聞こえていないと思われるが……
対『噂』の最終兵器『マンアカ』とは如何に!?




