第81話 英霊復活の原因とは?
――烏丸山の元採掘場(続き)
『英霊』こと宇部兼依へ渾身の一撃をお見舞いし倒したと思った矢先、真っ二つに切断したはずの胴体は元に戻っているではないか!
そして『ロジックの魔女』野伊間詩芙音の構造体解析の結果、弱点は無いという新事実!
途方に暮れてしまった一瞬の隙!
ずがん!!
ロジカルシフォンが構えていたコンスタントシールドに強烈な衝撃が走り、巨大な盾ごと地面に叩きつけられ、水を切る小石のように転がり、岩壁に激突する。
ごごごごごごごごごご……
赤城少佐とアズ・トゥエルブを襲った天井落盤で崩れ掛けていた岩が落下し、倒れているシフォンに直撃して生き埋めにする。
新たに築かれた落石跡を見ながら英霊はため息を付いている。
「やれやれ、せっかく戦う相手ができたと思ったら手応えがないな。威勢が良いのは言葉だけか。ツマラン、全くもってツマラン」
太刀の背で肩を叩きながら落石跡を注視しているがシフォンの動きはない。岩に潰されて動けないのだろうか?いや、まさか……
「ふん。相手がいなければ此処にいても仕方ないな。どおれ、次に戦う相手を探しに行くか。そうだ地上に面白そうな連中がおったではないか。そいつらの相手をするか」
太刀をぱちんと鞘に収めると英霊の身体は霧のようなモヤに包まれて宙に浮かび、勢いをつけて出口へ向かって飛び出していった。
<シフォンちゃん……、大丈夫?シフォンちゃん、返事をして>
「………………」
地上の戦局は量産型アズの投入と有栖川藍銅&安蘭未流の管制指揮で巻き返し安定した状態を保っていた。あとは赤城少佐とトゥエルブが異形が吹き出す根源を倒せば一件落着だろう、そんな楽観的なムードが漂っていた。だが英霊の出現で事態は一転する……
烏丸山の上空で静止し戦場を監視する藍銅。そしてその身体に抱っこ紐で縛られた未流が呟く。
「な、何なの?一体何が現れたというの??」
坑道の出入り口の一つから予想もしなかった強大な魔力が吹き出してくる。少しづつ溢れ出た魔力はやがて激しい波となり、やがてピークを迎えて一つの人影が飛び出してくる!
くるくると周りながら烏丸山の端から端まで飛び回り己の姿を顕示する。地上では有栖川セキュリティサービス(ASS)や量産型アズが唖然として飛行する影を確認している。そして異形のものたちはその姿を見て雄叫びを上げて喜びを露わにしていた。
「戦う相手はたくさんおるではないか!楽しませてくれよ!!」
英霊はそう叫ぶと手近にいた量産型アズに太刀を構えて突撃する!
「ASSは後退して!アレに豆鉄砲は通じないですわ!!藍銅、妹たちを1点に集合させて!一体一体戦っては個別撃破されるだけ。とにかく急いでー!!」
「了解シタ!」
だが必死の指揮も虚しく一体、また一体と量産型アズが倒されていく……
<シフォンちゃん、シフォンちゃん!もー、早く起きてよ!!>
「う…………」
崩れた岩の下敷きになったシフォンが苦しそうに目覚める。
「わ、わたしは……」
<ダメージを受けたところをゴメンだけど、急がないとマズそうなの。起きられる??>
「な、なんとか……」
<さっきの男が外に出ちゃって大暴れしてるみたい。早く倒さないと藍銅ちゃんの妹が全滅しちゃいそう。立って!立って!>
「私、頑張る!!」
友だちの妹がピンチと聞いた途端、シフォンは覆いかぶさっていた岩を砕いて立ち上がる!受けたダメージも何処へ行ったやら。傷付いた身体は回復し、破れた衣装もすっかり元通りに戻ったようだ。
「おーい、ボン子!まだ頑張れるかの?」
赤城少佐とトゥエルブを救出し回復魔法をかけていた黒猫ロムがシフォンの方を向いて声を掛ける。
「大丈夫!私、まだ頑張れる!」
傷の癒えない赤城少佐が云う。
「少年、すまない。俺の仲間を守ってくれ……」
「良く見て!少年じゃないってば赤城おじさん!」
「ふっ!」
「『ふっ!』じゃなーーーい!!」
腕と足がもげて外れかけたトゥエルブが懇願する。
「スイマセン。妹たちと姉を助けてくだサイ……」
「友だちも、友だちの妹さんも大事!だから頑張る!!」
力強くガッツポーズからバンザイをするシフォン。まだまだ戦える様子だ。
「ボン子よ。敵は『噂』から生まれたモノじゃ。『噂』によって強さが決まるならば……、じゃよ」
「良く分からないけど、分かったーーー!!」
そういうと光翼を広げて華麗に飛び立つのだった。去った後には美しい羽が舞い、そして消えていく。
「やれやれ。だが二人に頑張ってもらわねばの」
烏丸山の坑道は迷路のように入り組み、細くなったかと思うと太くなり、続く先は上下左右に分かれ、出口がどこか検討もつかない。だがシフォンは内なる詩芙音のナビゲートに従い、猛烈な勢いで無謀な飛行を続けている。
出口はまだか!?焦る気持ちが飛行の姿勢を崩させ、坑道の岩壁に身体を擦ってしまうこともあった。だがシフォンは飛行速度を緩めない。友だちのピンチと聞いてやる気スイッチが入ったのだろう。
少しづつ空気の流れを感じる。あと少し!あと少しで友だちを助けることができるんだ。助ける?どうやって?私はどうやって敵を倒せば良いのだろう?でも、でも……。シフォンは自問自答する。
<シフォン、飛んだままで聞いてくれる?>
「うん。でもどうしたの?詩芙音ちゃん?」
曲がり損ねて壁に激突するところを慌てて避けつつ詩芙音の言葉を待つ。
<ポイントは『噂』ね>
「噂??」
<そう、『噂』。あの敵ってたぶん噂で復活した昔の英雄なの。ほら最近、『鬼國蒐集』っていう小説だかアニメだかが流行っていたじゃない>
「うん。拓人に薦められたやつだ」
<その『鬼國蒐集』に登場した鬼のモデルになったのが英霊と崇め奉られている宇部兼依って人なの。で、さっきの敵はその英霊さまよ>
「えーーー、噂が広まって復活しちゃうの!?」
<ふふふ。噂を馬鹿にしちゃいけないよー。何でも実現しちゃうんだから。それを証拠に流行していた『英霊の復活』の噂が実現しちゃったじゃない>
「そうなの!?」
<まあ、そういうこと。でね、噂の中で英霊は最凶なんて謳っているから、倒しても倒せなくなっちゃったっていう仮説>
「う、うん……。もしそうだとしたら、やっぱり最凶なんじゃ?」
<うふ。うふふふふふ。ふふふふふふふ。ふははははははははぁ!浅いね、智優ちゃん!おっと失礼、シフォンちゃん!!>
詩芙音の甲高い笑い声がシフォンの中で木霊す。耳を塞ごうにも二人は同じ身体の中だから防げない。うううぅ。もうちょっと静かに笑おうよ、詩芙音ちゃーん……。
<噂なんてコッチの都合で書き換えちゃえばいーじゃん!あは☆>
「はーーーーー?どうやって!!??」
驚きのあまり坑道を曲り損なって壁に激突するシフォンだった!




