第80話 シフォンVS最凶の敵
――烏丸山の元採掘場
少し前に発生した大きな揺れは収まり、天井の崩落は止まったようだ。崩れ落ちた岩の下から小さなうめき声が聞こえてくる。
その傍らで先ほどから苦悶の表情を浮かべ、ブツブツと呟いている男がいる。深く被った兜の奥に見える瞳は視線が定まらず、何かを伝えようと大きな身振り手振りで言葉ならざる言葉を叫んでいる。だが其処には男が一人だけ。男が何をしているのか分かる者はいなかった。
男の名前は宇部兼依。
平安時代の末期、権力者に逆らい反乱を起こし、討ち取られた男。
死してなお彷徨い、鬼に変わりて都に災いをもたらし、権力者たちを鏖にした男。
退治された後、『英霊』として崇められ鎮魂されたはずの魂。
男の振る舞いは『英霊』とはかけ離れたものだった……
「何か!何かあるはずだ!私が蘇った理由が!!今は分からなくても必ず見つかるはずだ。そうだ、また乱を起こして世を正すのだ!」
<正すべき世は既に終わり、今は平和となったのだ。それをお前は徒に平和の世を乱そうとしているのだということが何故、分からない!>
「知ったことか!私には何もできないのだ!兵を率いて権力者の専横を止めることくらいしか!」
跪き、拳を振り上げて岩を強打する。生きている者ならば傷の一つも付くところだろうが、『噂』によって復活した男は生きているわけでも死んでいるわけでもなく、ただ存在するだけ。そのようなモノが血を流すわけもなかった……
<自暴自棄。または混乱。やれやれ、これが自分かと思うと嫌になる。だが何とかせねば日の本の国の安定を崩しかねん>
男は天井を睨みつけながら呟く。
「先ほどから山の外が騒がしいと思ったら先ほど生き埋めにした『榛綱』の贋物が外にもいるじゃないか。どうりで私の兵が討たれてしまうわけだ。どおれ、儂が直々に相手をしてやるか!」
ゆらりと立ち上がるとフラフラしながら坑道へ向かって歩き始めた。……その時!
「待て!赤城おじさんと藍銅ちゃんの妹をイジメた奴!許さないんだから!!」
採掘場の空洞に元気の良い声が響き渡る。
パツンパツンの髪型にちょこんと乗った魔女帽子。背中の光翼をはためかせると光る羽が舞い上がる。片手を腰にあて、もう一方の手を前に突き出して男を指差す。勇ましいポーズと裏腹に露出度の高い衣装を隠すように薄いヴェールを纏う。
まるで少年のような凛々しい少女!
真・演算魔法少女ロジカル☆シフォンだ!!
睨み合うのかと思いきや理性を失った男は長い太刀を抜くと嬌声を上げながらシフォンに斬り込んでくる!先ほどまでの陰鬱な雰囲気から一転し、恋しき人を見つけたかのような笑みを浮かべて。
「きゃ!!何なのコイツ!!」
慌ててシフォンは演算魔法を唱えて想像の短刀を実体化させて男の太刀を受け止める。
「そうだ!お前を待っていたのだ!さあ、殺し合いの時間だ、楽しませてくれよ!!」
目にも止まらぬ早さで打ち込まれる剣戟をかわし、短刀で受け、隙に斬りつけるが男の身体には一切、傷がつかない。太刀を受けるたびに力で押し込まれて後退を続ける……
「くぅー、こんなことしてる場合じゃないのに。赤城おじさんを早く助けなきゃいけないのに!」
「二人のことなら心配しなくても良いぞ」
シフォンと一緒にセカイの狭間から飛び出してきた黒猫ロムの声。
「で、でも落石を持ち上げてどかさなきゃ……」
剣戟の合間にロムの声がした方をチラ見すると信じられない光景が。筋骨隆々とした黒い巨人が岩を取り除き、赤城少佐とトゥエルブを救出しているではないか!
「助かったけど、この巨人は一体どこから来たの??あ、あれ?えっ??」
黒い巨人が振り返りグーに親指を立ててオッケーサインを作る。その首から上は……、ロムの顔!ロムがトランスフォームした化物が巨人の正体だった。
「くっくっく!変身できるの、秘密じゃぞ」
「なんじゃそりゃーーーーーーーー!!」
「やれやれ舐められたものだな」
男の言葉が聞こえた瞬間、シフォンの脇腹に蹴りがヒットしてふっ飛ばされ、岩の壁に激突する。
「がはっ!!油断した……」
「かっかっかっかっか!!今は儂とお前の戦い。他の者なぞ無視していれば良いものを」
「そうはいかない!大切な人たちを守るために私はいるのだから!!」
「相変わらず甘っちょろいことをいう!!」
「相変わらずって何!?」
男の答えを聞く前に再び太刀がシフォンを襲う。剣筋がシフォンを掠める瞬間、光翼を広げて天井へ退避したのだった。
「短剣でダメならばもっと強い武器で戦うしかない!」
そう叫ぶと短剣から手を離し、新たな武器を実体化させようとする。だが男は生まれた隙を逃すはずもない。太刀を構えたまま跳躍し、そのままシフォンへ突撃しようとする!
砂埃が上がり、辺りが見えなくなる。
「むう。人を斬った時と手応えが違うな。確かに直撃したはずだが、私の太刀を防いだというのか?面白い、面白いぞ」
砂埃の向こうにいるシフォンに向かって太刀を構え直す。やがて砂埃が晴れてシフォンの姿が見えてくるはずが……
「何じゃあれは?随分、大きな盾があったものだわい」
天井には巨大なタワーシールドが浮かんでいた。いや勝手に浮かんでいるのではない。逆さになって天井に張り付いたシフォンが盾を構えているのだ。
コンスタントシールド、かつて巨大な影を倒した時に使った攻守一体の武器。
そしてコンスタントシールドを天井へガツンとぶつけると盾の反対側から巨大な剣が飛び出す。
「面白い!ソレは武器なのか!ならば受けてやろう、私の太刀で!」
「強がってもダメなんだからね!止められないんだからね!!せぇーっの、コンスタントソードだー!!」
天井から足を離すとコンスタントソードを振りかぶり、男の立つ場所を目がけて落下する。華奢な身体の倍以上ある盾の重さを乗せて男に向かって一撃を浴びせる。
ぱきん
コンスタントソードを受け止めた太刀はあっけなく折れ、男の身体を真っ二つに斬り開く。
「やったか!?」
着地し、振り返ると其処には……
一刀両断したはずの男が元の姿のまま首をコキコキと鳴らしていた。
「やれやれ、武器の重みで斬るとは芸がないな。そんな技で儂を倒せるなどと思ってくれるなよ!」
「確かにコンスタントソードで倒したはずなのに復活している……。なんて化物なの!私は一体、どうしたら??」
得体の知れない敵の強さに絶望し、打ち拉がれていると身体の中から詩芙音の声が聞こえてくる。
<やっほー、頑張ってるね!>
「頑張ってるけど全然ダメ!勝てる気がしないよ。どうしよう詩芙音ちゃ〜ん」
<あのね、あのね。敵の構造体解析、終わったの〜>
「え!?じゃあ敵の弱点、分かったの?」
詩芙音の思い掛けない言葉に反応してシフォンはぱっと明るい表情に変わる。
「……弱点、無い」
「は?」
「解析結果を確認したけど、弱点は無いってよー」
「えーーーー!?じゃあ、倒せないじゃーん!どうすれば良いの??」
<うーん、どうしよっかな〜。あは☆>
最凶の敵を倒す術は見つかるのだろうか?




