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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第78話 鬼と少女の出会い

――烏丸山内の中心部、採掘場


 崩れ落ちた天井の大岩の上に立ち高らかに笑う男がいる。


 無骨で飾り気の無い甲冑を身に着け、長く反った太刀を備えている。雄々しい姿をしているかと思いきや甲冑には無数の刀の傷跡があり、何本もの矢が刺さり折れている。生きている人間ならばとうの昔に死んでいるであろう傷を負う男は未だに健在で身体を震わせながら笑っている。


「くっくっく!『榛綱はるつな』の贋物なんぞ相手にならんな!!」


 その目は虚ろ。誰に云うわけでもなく、一人呟き自分に聞かせているようだった。


<お前は何がしたいのだ?復讐ならばとうの昔に終わったのだろう?>

「何も終わっていない!儂の乾きは癒えてはおらん!」


 男の内部に在るもう一人の自分が語りかけ、それに応えるように叫ぶのだった。


宇部そらべの兼依かねよりの反乱は敗れて終わったのだ。今から足掻こうとも結果は変わらないよ。1500年の月日の中で藤原家の一族は失脚し、分かれて消え、今では細々と残っているだけだ。もはや復讐相手にもならんよ>

「それじゃあ私は何に対して報復すれば良いのだ!?」


 男は足元の岩を掴むと坑道の壁に向かって投げつける。岩は綺麗な弧を描き、壁に衝突して崩れていった。岩の砕ける音が坑道の中に虚しく鳴り響く。


「儂はどうすれば良いのだ!?」

<…………>




 反乱が失敗に終わり兼依が死んだ後、都では奇妙な噂が流れていた。


――宇部兼依は鬼になって都を襲い、恨み深い藤原の一族を鏖にする


 勝者である藤原一族は根拠の無い噂を一笑するが、その頃から都の中で少しづつ、少しづつ奇妙な事件が起き始める。


 ある年は雨が降り止まず川が氾濫し、

 ある年は蝗虫が大量に飛来して田畑を食い荒らし、

 ある年は冬が終わらず花が咲かない春を迎えた。


 誰もがおかしいと思い始めていたちょうどその時に藤原一族の有力者が住む屋敷に落雷があり、屋敷ごと燃えて絶えるという事件が起こった。


 その事件をきっかけに噂は脚色されて更に広まり……


 結果、本物の鬼が生まれた。

 そう生前は宇部兼依と呼ばれた鬼が。




<また鬼と化して罪のない人々を殺めるというのか?馬鹿馬鹿しい!せっかく『英霊』として祀られたというのに何が不満だというのだ>

「儂は、儂は『英霊』なんて臨んでいない!儂はかえでが。楓御前かえでごぜんが欲しかった。ただそれだけだ!」


 もう一人の男はため息をつく。

 まるで駄々っ子を宥めあぐねて苦しんでいる親のような気持ちなのだろう。困惑と哀れみが滲み出る表情でもう一人の自分自身を見つめていた。


<楓御前は既に亡くなったのだ。お前は自分の気持ちに納得をして結末を選んだのだろう?1500年前の出来事に未練を懐き続けるのか?>

「私は納得などしていない!楓御前はいる。私は感じるのだ。彼女の存在を!」




 都に鬼が現れてから3年が経過していた。強い力を持つ陰陽師や僧侶、武士たちが挙って鬼の退治を行おうとしたが鬼の力は強大で討伐は成功するどころか屍の山を築くだけだった。その間も都では天変地異が起こり、宇部を反乱へ追いやり滅ぼした藤原家の有力者たちが次々と死んでいった。


 やがて表立った有力者が全て死に絶えた。


 これで鬼の怒りも鎮まり、都に平和が戻るだろうと誰しも考えていた矢先に大門で火事があり、都の半分が焼失する事態が起きてしまうのだった。逃げ惑う都の人々が真っ赤に燃え上がる空を見上げると巨大な鬼の影が映り恐れ慄いた。


 誰かが何とかしなければ都が滅んでしまう!


 人々は何とかして鬼の怒りを鎮めようと考案したのが……、藤原一族の娘を生贄に捧げることだった。そして生贄に選ばれたのは勢力の弱い分家の末娘だった。



 そして鬼と娘が初めて会った時のこと。


 烏丸山の山頂まで下男は背中に『荷』を担ぎ登った。『荷』は静かに山の風景を眺めていた。まるで他人事のように。山頂に着くと下男は『荷』を降ろし足早に退散して下山した。


 『荷』は少女だった。


 少女は立ち上がると目的の場所に向かって急ぎ歩いた。


「私は鬼様の怒りを鎮めるために参りました藤原一族の娘。私の身はどのようになろうとも構いません。どうか私の身をもって怒りを鎮めては頂けないでしょうか?」


 烏丸山の頂上の大岩に胡座をかき背中を見せている鬼に向かって少女は跪き懇願する。齢は12歳くらいだろうか。髪は短く、背丈はすらりと伸びて手足も長い。衣こそ女子のものであるが見目は美しき男子そのものであった。


「娘だと!?笑わせる。お前はどう見ても男ではないか!さては油断を誘って懐の刃で儂を倒す気か!」


 鬼の恫喝に辺りの空気は震え、少女に圧を掛ける。だが少女は大声にも動じず毅然とした眼差しで鬼を見つめる。


 真っ直ぐな視線に鬼は苛立ち、少女の傍に近寄ると腕を掴んで華奢な身体を引っ張り上げた。そしてもう片方の手で腰に手を回しぐいっと鬼の身体に引き寄せる。


「童子よ!儂が怖くないのか!?」

「いえ……。それよりも童子ではなく童女……」

「何をぶつぶつ云っておるか?ならばお前が恐怖で狂うまで儂の傍に置いてやろう。逃げ出すならば食い殺す!分かったな!」

「……童女なんだけど」

「分かったら返事をせんか!男らしくない!!それとも恐れで言葉も出ないか?がっはっは!!」


 鬼の言葉に臆すること無く、大きく息を吸う。

 すぅーーーー。はい、せーっの!!


「私は童女だーーーーーーーー!!!!!」


 そして鬼と少女の奇妙な生活が始まった。

 少女の名前は『楓御前かえでごぜん』といった。


 鬼にとって扱いづらい少女は腫物を触るようなもの。力でねじ伏せようにも恐れない。脅しにも屈せず献身に鬼の世話をする。喰ってしまうのは簡単だったが、それでは自分が少女に負けたようで気に入らない。いつか屈服させてやろうと躍起になっているうちに少女の存在は鬼の中で大きくなっていったのだった。



 鬼の災いが無くなり、幾年の歳月が過ぎた。


 都の人々から鬼の記憶が薄れてしまっていた。そして都を救うために犠牲となった少女がいたことも。


 今では少女と一緒にいられることが幸せだった。だが少女にとって幸せなのだろうか?幸福な時間が過ぎるにつれて鬼の抱く疑問は大きくなり続けていく。


 少女も人間。いつかは年老いて死んでいく。

 かたや自分は鬼。少女と別れた後はどうなるのだろうか?再び都に災いをもたらすのか?馬鹿馬鹿しい。既に怒りの炎も消え、今は少女を想う気持ちだけしか残っていない。


 少女から大切な時間を受け取った。十分に満たされたのではないか?足るを知る時が来たのではないか?


 鬼は悩み苦しみ、結論に至る。


「ふん!儂が退治されれば楓が此処に留まる意味なんて無くなるではないか」


 傍らでスヤスヤと寝息を立てる少女の髪を撫でると鬼は呟くのだった……


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