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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
77/90

第77話 3人からの贈り物

――駄菓子屋『美しき夢追い人』の続き


 黒猫ロムは静かに告げる。


「そろそろ戦場へ向かう時だぞ、急ぎなさい。そして他の子は元の場所に帰るんじゃよ」


 せっかく真・演算魔法少女ロジカル☆シフォンへの『融合変身』に成功したというのに感動する暇もなく次なるステージに急かされる。


「分かってるけど……」


 シフォンの勇姿に釘付けの神埼かんざきしおりは先ほどから周りをぐるぐる回りながらその目に焼き付けようと必死である。


「智優ちゃん、良い!すごく可愛いよ!!やっぱり素材が良いから似合うな〜。あ、もうちょっと近くで見ても良いかな?スマホがあったら写真に収めて永久保存するのに超残念!」

「いやいや、良いわけ無いだろ、神埼!早く鈴偶を送り出してやらないと助かる命も助からなくなるぞ」


 ちらっ


 花田はなだとおるは栞の肩を掴み暴走を制しようとするが、シフォンの力強い姿が気になる様子でチラ見が止められない。


 もう一人の男子。辻村つじむら拓人たくとは刺激のキャパシティを軽くオーバーしてしまったようで先ほどから鼻血が止まらず、ティッシュを詰めては替え、詰めては替えを繰り返していた。


 ……だが。


 これから始まる戦いへの恐怖を振り払うようにシフォンの震えは止まらない。異形を倒す力を手に入れたとはいえ強大な敵と戦うのは小学6年生には重い使命なのだろう。力を込めて両手の拳を握り締め、血が滲むほど唇は痛々しい限りだった。


<智優ちゃん、頑張ろう!みんな応援しているよ!!>


 シフォンの身体の内側から詩芙音しふぉんが優しく語り掛ける。幾つもの戦場を駆け抜けたであろう『ロジックの魔女』の力強い応援がシフォンの気持ちを鼓舞していく!


「わたし……。わたし、そんなに強くないっ!!」


 あらん限りの声でシフォンが叫ぶ。


 浮かれていた3人はシフォンの大きな声に驚き黙ってしまう。だがシフォンの表情を見て全てを察したのだろう。栞は透と拓人にアイコンタクトを送り、透も拓人も考えは同じで黙って頷く。



 透はつかつかとシフォンの前に歩いていき、いきなりシフォンの手を強く握り締め、語りかける。


「鈴偶、お前だったら大丈夫だよ。何回も俺のこと倒しただろ?俺よりケンカが強いんだから『英霊』なんてものに負けるわけないだろ。もっと自信を持てよ」

「…………」


 シフォンは涙目になりながら首を横に振って透の云うことを否定する。


「これは俺からの贈り物『勇気』だぜ。俺は弱いけど『勇気』は誰にも負けねー!だから大丈夫だって!!」


 シフォンの手がほんのりと輝いていく。透は細い腕でガッツポーズを作り後ろに下がる。



「物語の英雄は決して諦めない。諦めないから最後に勝利する。俺が薦めた小説はそんなストーリーばかりだったろ?」


 透と入れ替わるように拓人がシフォンの前に進みながら語りかける。涙でぐしゃぐしゃになった顔でシフォンは小さく頷く。


「この物語はお前が英雄なんだから諦めちゃダメだろ?俺は君に『知恵』をプレゼントするよ。相手のことが分かれば怖いものなんてない。違うかな?」


 拓人は地面に片膝をついて壊れものを包むようにシフォンの手を握る。先ほどの光は手から肩まで広がり、光の強さを増していく。


「全てが終わったら全員笑顔でエンディングだね。俺の英雄はいつも笑顔じゃなきゃダメだよ」


 拓人は不器用に笑顔を作り、下がっていく。最後に栞がシフォンに近付いていく。



「私の王子様は力強くていつでも私のことを守ってくれるの。でも悔しいのは私だけじゃなくて周りのみんなを助けてあげちゃうの。いつも嫉妬してるんだから」


 栞の糾弾に困ったような表情を浮かべるシフォン。先ほどまで溢れていた涙はとまり、瞳には力強さを取り戻しつつある。そんなシフォンの表情を確認すると栞はふわりと抱擁する。


「私の王子様に弱気なんて似合わないわ。いつでも元気に明るくみんなを守ってくれなきゃね。本当に大好き。みんなも智優ちゃんのこと、大好きなんだよ」


 優しい光はシフォンの全身に広がり輝きを増していく。


「私からの贈り物は『愛』。みんなを代表して私からパワーを送るね。だから笑って!笑ってる智優ちゃんは最強なんだから!!」


 栞が離れるとシフォンはくしゃくしゃの笑顔で両手を空高く上げて叫ぶ!


「ありがとう栞ちゃん!透も拓人もね!!みんなからもらったチカラで私、頑張る!!」



 黒猫ロムが詠唱を行うと駄菓子屋の壁に鎖が絡んだ鉄格子の扉が現れる。


「じゃあ、智優ちゃん、私たち先に戻るけど頑張ってね!今度、赤城おじさんも一緒にみんなでハイキングしよ!!」

「俺も俺も!だが、その前に戻ったら今度は負けねーぞ!!」

「先に戻って面白い本読んでるよ。また一緒に物語のこと、話し合おう!それとみんなで遊びたい、かな」

「おっ!成長したじゃん拓人〜。誰のおかげだ??」

「すくなくともお前のおかげじゃないよ、透!」

「じゃあ、また会おうね!」


 栞とシフォンは指切りげんまんする。3人はワイワイ騒ぎながら扉を開けてするりと消えてしまった。扉が閉まった跡には扉の形は消えてレトロなポスターが貼られた壁だけが残っていた。



 鼻水をすすって目を擦り、ほっぺたを自ら叩いて気合を入れるとシフォンは力強く叫ぶ!


「行こう!詩芙音ちゃん!!私、頑張るよ!」

<うん、行こう行こう!!バトルがお待ちかね〜>

「負けないぞー!」

<えいえいおー!>

「えいえいおー!」

<そのノリだよ〜。あは☆>


 駄菓子屋のカウンター奥に備えた別の扉に向かって進むと、迷わずノブを回して扉の向こうへ飛び込むのだった。そしてシフォンの後ろを黒猫ロムが尻尾を立てて軽やかに着いていく。



 向かう先は烏丸山。『英霊』を倒し、みんなを助けるためにシフォンは戦うのだ!


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