第75話 赤城おじさんを助けなきゃ!
――駄菓子屋『美しき夢追い人』
4人の少年少女たちは店内の一角にあるテーブルに腰を落ち着け項垂れている。
鈴偶智優(本物)の救出に頑張ったヒーローたちは疲れてヘトヘト。智優の姿をした智優(偽)こと、野伊間詩芙音(本物)はニコニコしながら冷蔵庫のスライド蓋を開けて冷やし飴とみかん水を配り、労をねぎらうのだった。
花田透は後ろにふんぞり返って冷やし飴のビンを片手に呟く。
「うへ〜、何だかドッと疲れたぜ!大したことしてないはずなんだけどな。うっ!何だこの味……」
透の呟きに答えるように辻村拓人は透をフォローする。
「透、屋台のなかでお面の少女を頑張って追い掛けてたじゃん。帰り道だって必死で手を引っ張ってさ。こんな時は悪ぶらなくても良いと思うよ。って、おぇっ!摩訶不思議な味……」
神埼栞はみかん水のビンを揺らして口をつけ上品に喉を鳴らすと二人に反論する。
「結局、私の大手柄ってことでしょ!ねえ、智優(本物)ちゃん。私、ちょーちょー頑張ったんだよ!!下駄の鼻緒で足を切ったし名誉の負傷って感じ。あら、美味しいね、このジュース!」
お盆を持った智優(偽)は貧血気味の顔色で笑いながら云う。
「まあまあ、3人とも。力を協力したら智優(本物)ちゃんをココまで連れ戻すことができたんじゃない?誰か1人の力でどうにかなったわけじゃないと思うよ。ねぇ、智優(本物)ちゃん?」
みかん水をぐびぐび飲みながら鈴偶智優こと、詩芙音(偽)は血色の良い顔で元気よく答える。
「うん!みんなの声が聞こえたから戻らなきゃって思ったの。本当はあのままじーちゃんと一緒にいた方が心穏やかだったかも。でもでも、コッチに戻ってみんなと遊びたいって思ったらグイグイ引っ張られたの。みんな、本当にありがとう!」
「まあ、私の智優(本物)救出隊の人選が大成功って感じ!ぶいぶい!」
成功の後のジュースは格別の様子。みな微笑みながら勝利を味わうのだった。
「シフォン、もう猶予がないぞい」
カウンターの影から先ほどの不思議な声が聞こえると智優(偽)は真顔に戻り、状況の説明を始めた。
「バタバタでゴメンだけど時間が無いから説明させて」
4人は智優(偽)の緊迫した雰囲気を察して笑いを止めて向き直った。
「今回の事件の発端は『英霊の復活』の噂がM県全体に広まったことなの。みんなも『英霊の復活』の噂は多少は聞いたことあるよね?」
「ああ、『鬼國蒐集』ブームから生まれた噂でしょ?」
「そうそれ!『鬼國蒐集』よ!」
智優(偽)はお盆片手にビシッと拓人を指差す。
「噂話がなんだっていうんだよ?急に事件とか云われても意味分かんねーな!」
「うん、そうだよね。普通だったら噂なんて意味ない只の街談巷説に過ぎないんだけど」
「今は普通じゃないってことなの、詩芙音(本物)ちゃん?」
「……うん」
理解の悪い透を押しのけるようにして栞が前に乗り出す。ちなみに理解が悪いのは詩芙音(偽)も同じようで「あうあう」と困った顔で会話に参加する機会を伺っていた。
「な、なんのことか分からないけど。まさか噂が現実になっちゃうなんてことないよねー。あはは」
「そのまさかだよ。智優(本物)ちゃん」
「「「「え!?」」」」
得体の知れない話にハテナマークが浮かんでいた4人が一気に真顔になる。
「みんな、信じられないのは承知の上で続けるね」
「……うん」
「『英霊の復活』の噂というのは英霊・宇部兼依が最後に戦った古戦場、烏丸山で英霊の兵士を引き連れて地獄から舞い戻るって話なの。で、その英霊の兵士たちが烏丸山に溢れ出てしまったのがつい1日前の出来事なの」
「マジかよ!?緊急避難宣言が出たタイミングじゃんよ!」
「緊急避難宣言は『英霊の復活』事件と連動して発せられたものだからタイミングはほぼ同時よ」
「なんだそりゃ!避難するわ、自衛隊来るわで大事じゃんか!?」
透は水面下で起きていた出来事の重大さに気付き思わず大声を上げる。他のメンバーも信じられないといった表情でお互いの顔を見合わせる。
「鬼とか異形とか事情を知っている人、有栖川東彦さんが裏で手を回したのね。万が一、英霊の兵士を抑えきれずに街まで下りてしまった時に民間人に被害が出ることを避けるために」
「緊急避難宣言は国が発令したんでしょ?いくら有栖川重工業が日本有数の大企業だとしても簡単に避難宣言なんて出せないはず。ということは国内部に通じてるってことかしら?」
「そう思って間違いないよ、栞ちゃん。でもまあ、判断は間違っていないから仔細は置いておきましょう」
子どもたちの想像できる範疇を遥かに超えた話に引いてしまったようだ。空想の世界で夢物語を求めてワクワクすることはあっても、現実の世界でファンタジーなシチュを展開されても困るのだろう。
「問題は英霊の兵士、私たちは総じて異形と呼んでいるけど。その異形を抑え込むために派遣したのが有栖川セキュリティサービス(通称ASS)の異形対策係。そう赤城さん率いる精鋭部隊よ」
「え、赤城おじさんが派遣!烏丸山で戦っているの?」
「ええ。それに藍銅ちゃん、未流も同じくね」
「「「「えーーーーーーーー!!」」」」
4人は目をぐるぐるさせながら混乱の極み。突然の話で仕方ないこととはいえ、ため息をつくと智優(偽)は念話を使って烏丸山で戦う未流に呼びかける。
<未流、聞こえて?>
<詩芙音(本物)姉さま、音声クリア……>
<もー!頼んだお使いもできずに他所に遊びに行くんだから。ぷんぷん。しかし、元気ない声ね?大丈夫なの?>
<空の空気が冷たくてお腹に……。ぐぅぅ〜〜〜!>
念話越しに聞こえるはずのない音、未流のお腹の具合が聞こえてくるようだった。
きゅ〜〜、きゅるきゅるきゅるん☆
<まあ、応答できるなら気にしないけど。で、現在の状況は?>
<……赤城少佐とアズ・トゥエルブが坑道へ突入しましたわ。でも……>
<でも?>
<岩が崩れるような大きな音がした後、音信不通。バイタルサインは消えていないため無事は確認できていますが>
<何分前の出来事よ!?他のメンバーは助けに行けないの!?>
<30分ほど前ですわ。地上の部隊は異形の発生箇所が増えたために迎撃するのが手一杯で救出には行けず……>
智優(偽)は顔面蒼白になりながらぽつりと呟く。
「まずい……。赤城さんって人、やられて生き埋めになちゃったみたい……」
「えっ!いやだ!赤城おじさんが死んじゃう!死んじゃうよぅ!!」
「智優(本物)ちゃん、落ち着いて!まだバイタルサインはあるって!だから急いで対処しましょう!!」
赤城のピンチを聞いて取り乱す詩芙音(偽)の肩を掴み必死で宥める智優(偽)だった。
「せめて私がロジカル・シフォンに変身できれば良いのに!助けに行けるのにぃ!!」
「……変身、変身、変身……。そうか!方法あるかもよ!!あは☆」
智優(偽)はカウンターの影に視線を送ると黒猫ロムがオッケーサインを作って頷いていた。
勝機はある!諦めなければ必ず!!




