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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第71話 お面の少女を追い掛けて

――オモテとウラの狭間の世界


 ちりーん、ちりーん

 風鈴の鳴る音が響く。

 金属と硝子が触れる透明な音。


 扉を抜けた先はお祭りの屋台が並んでいた。無人の屋台が見えなくなるほど連なり、風車が飾られている。時折、強い風が吹くと一斉に風車が回り出す。


 神埼かんざきしおり花田はなだとおる辻村つじむら拓人たくとは今までいた場所と異なる空間に唖然として辺りを見回している。


「ここが、智優ちゆちゃんの心が作り出した世界なの?お祭りのように見えるけど誰もいないし、静か過ぎるね」


 栞は腕を組んで首を傾げる。そこではじめて素の腕と腕が絡んだことを知り、自分の姿を確認して驚く。紫陽花柄の浴衣、白い鼻の緒の下駄、夏祭りで着たような鮮やかな衣装。


「場所が変わっただけじゃない。俺たちの格好も変わっちまったみたいだな」


 透は甚平の右袖に左手を突っ込み、右手でアゴをさすりながら呟く。


「もしかしたら鈴偶りんぐうの思い出なのかもしれないな。ほら、お祭りって楽しいから思い出に残るからさ」


 拓人はポンっと手を叩きながら云う。透と同じく甚平を羽織っている。二人ともヤンチャで粋な少年といった風体だ。


「智優ちゃんのこと、探そ。時間がないって云ってたよ」

「あー、そうだな。でもどうやって探してよいやら。とりあえず手分けしてウロウロするか?」

「周りを見ろ、二人とも。屋台の先には何もないよ」


 二人が拓人が指差す先を見ると屋台の先は真っ暗闇で進めば闇に飲まれてしまいそうな気配が感じられた。


「探すとしてもこの道を真っ直ぐ進むか、戻るかの二択しかないね」

「じゃあ、ジャンケンして負けたヤツがダッシュするか!?」

「もう、馬鹿なこと云ってないで真面目に考えてよね、透くん!」


 プンプンしながら透に抗議する栞、その横で思案に拭ける拓人。


 ちりーん、ちりーん

 再び風鈴の音が聞こえてくる。


 少し離れたところに誰かいる。ヒーローのお面を被り、金魚柄の浴衣を着た姿。すらりと伸びた手足は日に焼けて真っ黒で、髪の毛は男の子みたいにつんつん。お面に隠れて素顔が見えないけれども鈴偶智優のように見える。


 お面の少女は手を拱いている。


「ねえ、あれ……。智優ちゃん!?」

「あの手足、そうかもしれない!俺は何回も殴られてるからアイツの身体だったら分かるんだ!」

「殴られるのは自業自得だろうが、まったく。でもそんな気がする」

「おーい、智優ちゃん?智優ちゃんなの?返事をしてよー」


 中性的な声色の笑いが木霊し、お面の少女は背中を向けると軽やかに駆け出した。


「待って!ねえ、追い掛けよう!!」

「「おう!」」



 3人は夢中で追い掛けるがヒラリヒラリと舞うお面の少女に追い付くことができない。走っている間も無人の屋台が続いている。


 風車は回る。くるくる回る。


 透は無我夢中で走り続けた。息が切れ肺が痛くなるくらい走り続けた。今、智優に追いつかなければ取り返しがつかないことになる、そんな脅迫観念が透の背中を押すのだった。やがて、自分一人が追い掛けていることに気付き、立ち止まる。


 中腰になって肩で息をして呼吸を整えようとするが、動悸が収まる気配がない。


「クソ!あいつ、どうしちゃったんだよ、らしくねえ!!」


――ふふふ、あはは。足が遅いんじゃない?


「そんなことねえよ!お前がさっさと行っちまうから追い付けねえんだろが」


――身体弱いのに頑張る意味あるのかな?


「意味なんてねーよ!全てことに意味なんてねーよ!でもお前に追いつかなきゃ、このままどっかに行っちまうだろ!」


――ふふ、心配性。どっちでもいーじゃん


「よくねーよ!だって俺は負けっぱなしなんだぜ!勝つまで逃さねーよ」


――うふ。それだけ?追い掛ける理由はそれだけ?


「う!」


 透は言葉に詰まり、顔を真赤にする。素直になれない少年の心の中には本当の想いがちらついている。


――私ね、嫌なコトがあったから逃げるの。もう行くね。透と喧嘩ごっこ、楽しかったよ


「嫌なコトから逃げた先にだって嫌なコトはあんだろうが!逃げるなよ!俺が力になるから!友だちだろが」


――うーん、イマイチね


「しゅきだから!大しゅきだから!!」


 喉が切れて血が出そうな勢いで叫ぶとお面の少女は立ち止まり、透の方を向いて微笑んでいた。最後の力を振り絞って少女に近づこうとすると辺りは霞がかかり透の姿は消えていくのだった。




 拓人は必死で走っている。足が早い方ではないが今日ばかりは透と栞を押しのけて走り出した。お面の少女に追いつかなければいけない。追い付けなければもう二度と智優に会えなくなる、そんな予感が拓人を駆り立てる。


 お面の少女に追いつき、手が届きそうになるとヒラリとかわされ、遥か前方に行ってしまう。再度、追い掛けてお面の少女の浴衣を掴もうとするが矢張り捕まえることができない。


 何回か繰り返しているうちに足が限界を迎えてしまい、一歩も動けなくなってしまう。


「クソ、動け足!」


 太腿を叩いても叩いても痙攣は収まらずプルプルと震え続けた。


――もう終わり?


「待ってろ、今動けるように」


――頑張っても無駄なんじゃない?


「無駄……、ってことはないよ。貸した小説の主人公、頑張って運命を覆しただろ?」


――小説なんて空想の世界でしょ?現実なんて嫌なコトばかり


「そうだよ……。嫌なことばかり、だよ。でも逃げられないだろ。生きてるんだからさ」


――私は逃げるよ。嫌なコトから、逃げるよ


「俺が協力するよ!一緒なら嫌なことだって解決できるよ!だから……」


――友だちだから?


 拓人は勇気を出す。今まで読んだ小説の主人公を思い出し、彼らから勇気を貰って叫ぶ。


「好きだから!俺の好きは友だち以上、恋人未満だから!」


 お面の少女は微笑みながら拓人に手を差し伸べる。一歩も動けない拓人は必死で手を伸ばして少女の手を掴もうとするが、手が届く前に押し寄せた水に飲まれて進まなくなってしまう。


 水の中で目を開けて少女を探そうとすると、目と鼻の先にお面があった。手を掴んだ感触があったと思ったのだが、飲み込んだ水が身体中を満たして息を吐き出せなくなると意識を失い、真偽を確かめることはできなかった。



 ちりーん、ちりーん

 未だ風鈴の音は鳴り止まない……



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