第68話 アズ・トゥエルブ
――烏丸山内部、廃鉱山の坑道
有栖川セキュリティサービス(通称ASS)の異形対策係を率いる隊長、赤城少佐はバックパックから新しい弾薬を取り出し自動小銃へ詰め替えている。
傍に控える対異形用の量産型アンドロイド、アズ・トゥエルブは仄暗い坑道の先を自らのライトで照らし、異形の強襲を警戒している。
「ちょっと待ってくれよ、トゥエルブ。すぐに終わるからな。今までぶっ放してた弾が天井に当たったら俺たちは坑道に生き埋めだ。そうなりたくはないだろ?」
「ワタシは赤城少佐を信頼していマス」
トゥエルブは冷たい光を放つ太刀『鬼恋丸榛綱』レプリカを構えながら、無機質な受け答えをする。オリジナルのアンドロイド、有栖川藍銅から経験や知識、隣人の感情の変化など膨大なデータを受け継いだはずなのだが、妹アンドロイドからは人間らしさは感じない。
そもそもオリジナルにも人間らしさが無かったのか、トゥエルブという個体の特徴なのか、赤城少佐には分からなかった。ただ、背中を預けることができる強さを持った仲間という直感しかなかった。直感による判断で数多の戦場から帰還した赤城少佐にとって不足はなかった。
「よおし、コイツを腰に巻いたら準備完了!っと。おぅ、待たせたな、相棒」
「ワタシは問題ありません。姉サン、進みますのでトレースをお願いしマス」
トゥエルブは坑道の外に控える管制塔、藍銅へ語り掛ける。
「赤城少佐、坑道内のマップを更新しました。進みまショウ」
「おうよ!道案内、頼んだぜ!」
赤城少佐は弾を詰め替え終わった自動小銃を構え、周囲に注意を払いながらトゥエルブに従って坑道を進み始めた。
ここで彼らが坑道を進軍する前の話に触れておきたい。
烏丸山で開始した異形の影とASSの戦いは膠着状態に陥ったと思われた。だが物資を補給するうちに異形の影の出現ポイントが増えていることが分かり、形勢は逆転してしまった。
ASSの隊員8人はツーマンセルで4チームに分かれて異形の出現ポイントで迎撃を行っていたが、出現ポイントが増えたことでツーマンセルを崩して個別に迎撃を行う作戦に変更した。
ASSが身体の一部を義体化した屈強な元自衛官や元SPで構成されていようと所詮は人間。長引く戦いに消耗は避けられず、不利になるのは時間の問題だった。
それは対異形アンドロイドを投入しても同じこと。異形が発生する元を断たなければ勝利は得られない、総司令たる有栖川東彦はそう判断したのだった。
「つまり俺と嬢ちゃんは別働隊で異形の元を探り、そこを叩くってわけだな?」
赤城少佐は前方で異形に斬り込みを行うトゥエルブに当たらないように照準を修正し、牽制射撃を行う。
「そうなるね〜。優秀な管制塔どのが指揮してくれるから量産型アズの運用は順調でね。赤城少佐は敵の元を断つ行動に集中してもらいたいんだよ」
「簡単に云ってくれるな。元を断つと云っても何処か検討がつかないぞ」
「それは量産型が内蔵している異形探索センサーが示す最も強いモノなんじゃないかな〜。すまない、推測でしかないんだけどね」
「まあ、群れを率いるのは力が強いモノってのは分かるぜ」
撃ち終わったマガジンを外し、腰のパックから新しいマガジンを取り出して装填する。
「だってよ、嬢ちゃん!坑道の中に行けるかい?」
「ワタシの認識コードはアズ・トゥエルブ」
「???」
「ダカラ、トゥエルブ……」
「すまない、トゥエルブ。で、どうだい?」
「藍銅姉さんに聞いてミル」
太刀を振り回す手は止まらず器用に会話している。高性能であることは一目瞭然であるが、アンドロイドが呼称に拘ることがあるのだろうか?赤城少佐は不思議なもんだと科学の発展に関心しながら照準の先を睨み、トリガーを引き続けた。
「赤城少佐、藍銅姉さんはダイジョウブと云っているゾ」
「だそうだ、総司令どの。5分後に突入する。坑道内部は無線通信ができないかもしれない。うちの兵隊に気遣いを頼むぜ」
「了解だ!了解したぞ、少佐!!……危険な役割ですまないな」
「っは!!死の商人らしくないぜ」
「かね?くっくっく!」
正確に5分後。赤城少佐とアズ・トゥエルブは坑道の入口を塞ぐ異形の影を撃ち倒すと、影が湧き出る坑道の中へと侵入するのだった。
「総司令どの、坑道に入ったぞ。おい、有栖川さんよ。ありゃりゃ、ASS装備の無線は使えないな。そっちはどうだい、トゥエルブ?」
「コチラは順調。藍銅姉さんの声も位置データも届いてマス」
坑道の中は狭く、冷たい空気が流れている。空気の流れを感じるということは赤城少佐たちが侵入した穴は何処か別の穴に繋がっているのだろう。
坑道の表面はゴツゴツとした岩が剥き出しになっている。断面を見ると歪ながら釣鐘のような形をしていて、自然が作り上げた造形ではないことを物語っていた。便利な電動工具が無い時代のこと、長い時間と労力をかけて手彫りで掘ったのだろう。
歩を進めると坑道は天井が低くなったり高くなったりを繰り返し、やがて開けた場所に出る。そこには横や下、時折には上に小穴が開いており、更に奥に進めるようになっている。
「赤城少佐、敵デス!」
「またかよ!!」
そう愚痴ると自動小銃で牽制射撃を行い、トゥエルブは低姿勢で敵の懐に飛び込み、斬り倒す。二人は長年寄り添い戦ったパートナーかのようなコンビネーションで進むのだった。
小穴から襲ってくる異形の影を何体も倒しながら赤城少佐とトゥエルブは坑道の奥へ奥へと進む。
「藍銅姉さん、聞こえマス。コチラ順調。ハイ、もうすぐゴールですネ」
「ゴールだって?じゃあ敵ボスの登場ってわけだ。痺れるね〜」
「赤城少佐、大丈夫デス。ワタシが守りマス」
赤城少佐は何も云わず笑う。
採掘ポイントに辿り着くと空間は一際大きく開け、何人もの労働者が働けるような場所になっていた。ゴールと思われた採掘ポイントは誰もいない、何もない行き止まりのように思われた。だが……
「ここがゴールだって?ただ広いだけで何もないな?敵はどこから湧いてくるんだ??」
意外なゴールに気が抜けた赤城少佐はヘッドギアをずらして肉眼で辺りを見回す。トゥエルブも管制塔であるオリジナル・アズに問い合わせをしているようだ。
(やれやれ。洞窟探検は無駄な徒労で終わりというわけか。じゃあ敵さんはどっから湧いて出るんだろうな。待てよ、この山は坑道を利用して戦を行った古戦場だぞ。じゃあ、この場所の役割は……)
「トゥエルブ、後退だ!!」
「……赤城少佐?」
――兵よ、判断が遅いな――
誰もいないはずの採掘ポイントで第三者の声が聞こえた。
赤城少佐がトゥエルブを抱え、この場所から逃げようとした時、天井からミシッという何かが割れた音が聞こえてきた。
崩落した天井の岩。
山が揺れるような音。
坑道内に巻き上がる砂煙。
トゥエルブを庇うようにして岩の下敷きになった赤城少佐。二人はピクリとも動けない。
異形の影を生み出す源。英霊、宇部兼依は静かに侵入者の末路を眺めていたのだった。
――さあ楓御前よ、どうする?私は待っているぞ。千歳、百歳、想いが果てるまで――




