第67話 太刀を構えた少女たち
――ガルダ級戦略輸送機『ブハサット』格納庫
……アズ・トゥエルブ Aliceシステム起動完了
小さな倉庫に相当する広さの格納庫で対異形用アンドロイド、アズの量産型は保管用ユニットから目覚めていく。オリジナルと同様に人工着色料で染めたような赤い髪のショートボブが揺れる。寝ぼけ眼を擦るような仕草で欠伸する11体のアンドロイド。
原色のクレヨンを思わせる青色の瞳と真っ黄色のカチューシャ。すらりと伸びた細身の身体に赤青黄の色合いは見通しの良い田舎道に連なる11本の信号機を連想させるのだった。
「本当にポンコツそっくりだわ。大丈夫なのかしら?」
傍に控えていた安蘭未流はお腹を押さえながら呟く。額には脂汗が浮かび、顔色は真っ青を通り越して白色だ。
「ワタシと同じく異形を退治できる太刀『鬼恋丸榛綱』のレプリカと、その真価を発揮するために必要な恋力を備えた妹だから大丈夫ダヨ!」
アンドロイドたちの元になったオリジナル機、有栖川藍銅は得意満面の笑みで応える。
「でも何だか全員、寝ぼけてない?覇気が感じられないというか」
「未流ちゃん、気にし過ぎダヨ〜。本気でやればできる子、間違いない!」
「うーん。だ、大丈夫、なの?ぐっ!」
やればできる子が、やれたためし無し!
そんな公理すらも思い出せないほどの腹痛が襲う。未流は首を傾げて考えようとするが体調不良で頭が回らず十分な思考を行うことができなかった。そして考えている暇も無く、艦内放送が現在の状況を伝える。
<本機は5分後に降下ポイントの上空を通過予定。準備を願う>
「ミンナ、準備は良いカーー!」
一斉に藍銅の妹たちが藍銅の方を向き頷く。どうやらアンドロイド同士の意思疎通は円滑のようだった。
ゆっくりと輸送機の後部ハッチが開くと上空の冷気が艦内に入り込んでくる。刺さるような冷たさが未流の身体(主にお腹)を刺激する。
「ぐぅーーー。やっぱり、私、行けない、かも……」
「ん?未流チャン、更に体調が悪そうダナ。でも大丈夫!藍銅&シスターズがちゃっちゃと終わらせるからネ!」
「いや、そういう、ことじゃなくて……」
未流は魔力が上手く制御できないゆえに空中で長時間静止することができない。それを知ってか藍銅は抱っこ紐のようなベルトを装備するとテキパキと未流を自分の身体に固定していく。抵抗する力が出ないほどの腹痛と藍銅の手際良さが相まってあっという間に2つの身体は1つに結びついてしまった。
「んぎゃ!コレ、身動きが、取れないですわ!」
「きつくても我慢、我慢!コノ前みたいに未流を落下させることがないから大丈夫ダヨ!」
「いや、今日はそんなことを心配している、んじゃなくて……」
「イイ、妹たちヨ!これから戦場に降りたらバトル開始ダヨ!有栖川セキュリティサービス(通称ASS)のおっさん達が頑張ってるから、私たちはすぐにサポートしマス。絶対に彼らを死なせないようにガンバロー、オー!!」
「オー!」
藍銅が手を上げてポーズを取ると妹たちも同じポーズを取る。姉の号令に従う妹たちの姿は微笑ましい光景だった。
「ワタシたちは近接戦闘を担当スル!鬼恋丸榛綱ヨーイ!」
藍銅の指示に従い胸部を開くと体内から鬼恋丸榛綱のレプリカを抜き出す。レプリカとはいえ本物と同じ成分の鋼を用い、平安時代の刀工技術を再現して鍛え上げられた太刀だ。11人の華奢な少女が美しい刃紋と透明な輝きを放つ太刀を構える光景は精巧に作られたフィギュアが動きだしたようだった。
やがて一人、また一人と夜の空に飛び立っていく。少女の姿はあっという間に小さくなり烏丸山の中へ消えていく。
「未流ちゃん、そろそろ私たちも出撃ダヨ!」
「……ひゃい」
押し寄せては引く腹痛の波に憔悴しきった未流は死んだ表情で頷く。もう少し、もう少しだけ我慢すれば、そんな淡い期待だけが未流の正気を保たせていた。
「セーの、ゴーーー!!」
「ひーーーっ!!」
藍銅の身体は輸送機の格納庫から離れて空中に放り出される。その直後、背部に格納された推進機を開放して自力飛行を開始する。腹部側に未流を抱えているというのに安定した姿勢を保ち、烏丸山の状況を目視確認する。
地上全域監視システム『ジャヤンタ』から受信した周辺の地図情報と目視データを整合して現場仕様の地図データを再構築する。その時間、わずか3秒。藍銅の内蔵するAliceシステムの優秀さを物語る計算速度だった。
<アズ・ツー、配置に付きましタ>
アズ・ツーからの連絡を皮切りに全妹から配置完了の連絡が入る。藍銅は妹たちが内蔵した個体信号と地図データを照合して位置情報のトレースを開始する。量産型アズは無事に藍銅の管制下に入り、戦闘準備万端となった。
「コチラ藍銅。量産型アズの管制塔デス。赤城少佐、聞こえますカ?」
藍銅はASSが装備するヘッドギアの通信網に割り込み隊長の赤城少佐に呼び掛ける。
「こちら赤城、聞こえているよ」
「量産型アズ、配置完了。これから戦闘を始めます。人間の消耗を避け、回復を図るため、ASSは移動を止めて近隣の敵の迎撃に集中してくだサイ」
「ふぃー、助かった!運動し過ぎで吐きそうだったぜ。で、どうするね?」
「で、未流ちゃん、どうする?」
判断を委ねられた未流は苦しい表情のままカッと目を開き、叫ぶ。
「どーするも、こーするも、無い!人間とアンドロイドでツーマンセル、スリーマンセルの組み直し!!アンドロイドは近接戦、人間は射撃支援!おっさんたちはポンコツ妹に弾を当てないように注意なさい!」
「ははは、指揮官殿は難しいことを云うな。でもラジャーだ。おい、おっさんたち。聞こえたか??」
通信回線越しにASSおっさん’sの元気良い声が聞こえる。どうやら一人の脱落者もなく、モグラ叩きを続けられたようだ。
きゅー、きゅるきゅるきゅるん
「……ぐぅ。藍銅は状況を把握して適宜移動を指示。おっさん達はポンコツ妹からはぐれないように追い掛けなさい」
「ラジャー!」
「こちらもラジャーだ。それにしても指揮官どの。声が震えているが体調が悪いのか?背中を預けるんだ。元気に頼むぜ」
赤城少佐の近くに舞い降りた三色の少女。
一瞬だけ赤城と視線を合わせると太刀を振りかぶり、武者のような異形に向かって斬り込むのだった。彼女に息を合わせるように赤城は三色の少女に当たらないように援護射撃して敵を牽制する。
こうして烏丸山の攻防戦は第2ステージを開始した。演算魔法少女ロジカル☆シフォンの到着を今か、今かと待つように異形との攻防は続くのだった。




