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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第66話 消費期限すら切れてるわ!

――有栖川重工業舞金試験場 滑走路付近


 夜間の離陸に備えて滑走路には誘導灯が灯り、漆黒の闇を照らしている。


 有栖川重工業舞金試験場は総動員で巨大な飛行艇の離陸準備を行っている。飛行艇は民間人を運ぶジャンボジェット機の胴体だけを膨らませて肥満化させたような風体だ。


 飛空艇の名前はガルダ級戦略輸送機『ブハサット』


 あまりに胴体が大きくなり全長とのバランスが取れなくなった無様な格好のため、ガルダと呼ぶには不釣り合い機体だった。喩えるなら巨大な肥満ひよこといったところか。


 有栖川セキュリティサービス(通称ASS)を戦地へ誘った大型輸送ヘリでは運べない兵器があるため、肥満ひよこの登場というわけだ。


 研究所から運び出された11個のユニットが慎重に飛空艇の後部ハッチに運び込まれている。ユニットの正体は対異形用アンドロイド、アズの量産型アズ・ツーからアズ・トゥエルブである。



 搬入作業を眺める三人の姿がある。搬入作業を照らす照明を浴びて滑走路に影を伸ばす。


「ねえ、藍銅あずちゃん。妹分を戦いに巻き込んで平気なの?」

「未流ちゃんは優しいですネ。私たちは異形と戦うために生まれた兵器だから平気デス!」

「生まれた理由、か……」


 誰にでもあると錯覚するけど、意外と見つからない理想。生まれた理由。


 異形と戦うためのアンドロイドとはいえ、自分が生まれた明確な理由を持っている彼女たちは幸せなのかもしれない。


(だからといって無駄死にできない。私が頑張らなくてはいけないですわ)


 藍銅は微笑みながら未流の頭を撫でる。


「あまり気負わず、勝つことだけ考えて下サイ。『鬼恋丸榛綱おにこいまるはるつな』と恋データさえあれば私の代わりは幾らでも作れますカラ」

「っ!そういうことじゃない、でしょうが!」

「ワタシ、学校に行ってみんなと遊んだり、ハイキングしたり、とても楽しかったデス。だから満足デス!」


 傍に立つ有栖川ありすがわ東彦はるひこは黙って傷だらけの眼鏡を鼻の上に持ち上げている。その横顔から感情を読み取ることはできない。


しおりちゃんの恋データをたくさん集めて強くなりマシタ。妹たちにも分けてあげたから全員最強デース」

「もう、バカ!私の許可なく壊れたら承知しないんだからね!!」


 未流は鼻をすすりながら藍銅に抱きつく。


(……あれ?)


 未流が透明の糸を引きながら藍銅から離れると


「恋データって辻村つじむら拓人たくとくんは含まれるの?」

「含まれるわけないデース」

「へ?だって鈴偶りんぐう智優ちゆにメロメロだから恋データにバッチリなんじゃ……」


 二人の会話を聞いていた東彦が口を挟む。


「まあ、人には色々な好みがあるから仕方ないね〜。でもアズの収集していた恋データは男の子と女の子の恋だから、拓人くんの恋はちょっと対象外。てへ☆」


 妖精の見えるアラサー・マッドサイエンティストが頬を染めながらテヘペロする。未流は車に轢かれた蛙を憐れむような表情で反論した。


「だーかーらー。拓人は男で、智優は女なんだからバッチリ対象ですわ!」

「ん?その鈴偶って子は男じゃ……」


 東彦は汚れた白衣の袖を捲りハンドヘルドコンピュータの操作を始める。先ほどまで見せていた人を喰う態度は消え失せ、計算ミスの原因を究明する科学者の顔に変わっていた。


「Aliceシステム、ログ解析。そうだな、恋データを収集している時のエラーは、エラーは?無し。一体、どういうことだ?藍銅、何か分かるか?」

「恋データ収集機能、エラー発生履歴無シ。性別判断機能、エラー発生履歴アリ。ご確認クダサイ」

「はぁ、性別判断機能でエラーなんて起きないはず……。ありゃ、起きてた……」

「エラーってどういうことですの??」

「鈴偶智優くんの性別判断でエラーが起きたからデフォルト値を採用して男で登録されてる……」


「じゃあ集めた恋データって……」




 格納作業が始まって30分経過。ようやくアズ・トゥエルブを保管しているユニットの格納作業が完了し、後部ハッチが閉められた。


 ガルダ級戦略輸送機『ブハサット』のジェットエンジンが暖まり、プロペラが回転を始め、滑走路の離陸方向へ巨大な機体の向きを変える。


 耳をつんざくようなエンジン音が周辺に鳴り響く。舞金試験場の敷地は国際空港なみに広大であるものの今から飛び立つ巨大な飛空艇のエンジン音は押さえきれず、騒音公害を巻き散らかす。だが公害の被害を受けるはずの住人は避難を完了しているため、鬼城と化した街に虚しく響くだけだった。


 量産型アズのユニットが並ぶ飛空艇の格納庫の一角で二人の少女が床に体育座りしている。


「ふーん、じゃあアンタと妹分は戦術データリンクとやらで繋がっているってわけね」

「ハイ!みんな一心同体デス!」

「つまりアンタが妹分に指示を送れば、その通り動くのね?でも妹分同士は繋がっていない」

「そうデス!」


(スター型ネットワークというわけか。ますますポンコツが墜ちないことが重要ってことね)


「いい、ポンコツ?私たちは上空で戦局を監視して地上に降りた妹分に逐次、指示を送り、情報収集を行うわよ」

「ラジャ!未流ちゃん、指揮を頼んダ!」

「ばーか。私とポンコツ、二人で指揮官だよ」


 拳と拳を軽くぶつける二人。


(生き残ったらみんなで遊ぼう。そうだ、今度の女子会は私たちも参加してやるんだから!)


「ふふふ……」

「ドウシタ、未流チャン?」

「なんでもないわ」


 艦内に放送が鳴り響く。


<離陸準備完了。離陸準備完了。これより当機は離陸体勢に入る。各員は離陸に備えたし。繰り返す……>


 未流と藍銅は格納庫内に備え付けられたシートに座りベルトで身体を固定する。辺りの騒音が一際大きくなると強い力でシートに押し込められる。


 ベルトが少しずれて未流のお腹を強く締める。すると……


 きゅるきゅるきゅる〜〜〜


(あ、あれ?痛い……)


 腹部から鳴る不気味な音と不快な痛みに汗が滲み出てくる。


 きゅ〜〜〜


「ドウシタ、未流チャン?顔色が悪いヨ」

「ぽ、ポンコツ……。東彦と繋がる……?」


 ざ、ざざ


「どうした、未流くん?異常事態かね?」

「……あ、あの『すぎのこ村』って」

「あー、ご褒美かね!?安心したまえ、まだ在庫はあるから生還したら幾らでも振る舞おう!」

「……い、いや。じゃなくて」

「先ほどから苦しそうな声色だが大丈夫かね?」

「……ま、まさか本物とか?」

「くっくっく!私が偽物なんて振る舞うと思ってるのか?正真正銘、販売していた当時の本物だよ。嫌だな〜」


「消費期限すら切れてるわ!ですわ!!」




 巨大な翼は闇夜に舞い上がって揺れ、12体の少女型アンドロイドを戦地へ導く。たとえ辿り着く果てがヴァルハラだとしても、少女たちは迷いなく其処へ向かうだろう。


 何故ならば異形と戦うことが、彼女たちが生まれた理由なのだから。


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