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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第65話 『すぎのこ村』の恩返し

――舞金小の帰り道


 先日の戦いで傷ついた身体が癒えるまでにはまだまだ時間が掛かる。だが、安蘭あらん未流みる詩芙音しふぉんの言いつけを守り電柱の影に姿を隠して下校中の同級生、神埼かんざきしおり花田はなだとおる辻村つじむら拓人たくとの動向を確認していた。


 もしも彼らが学校を休んでいる鈴偶りんぐう智優ちゆのお見舞いに行かないようならば、お見舞いに行くようにさり気なく誘導するのが未流の役目だ。あくまでさり気なく。


(よしよし、予定通りに行動してくれてますわ。影から見守るだけで詩芙音しふぉん姉さまの指令は達成できそうね。それにしても、体中が痛い!)


 未流は自分の魔法でフィルタして傷を隠しているが、実際は因縁の敵『影を操る者』レディにプスプス刺された傷だらけで満身創痍だった。


(もー、詩芙音姉さまったらセキニン取って下さるかと思いきや「めんご、めんご!」で誤魔化されるし、ほんとズルい!でも姉さまのお役に立てるなら負傷の妹、未流。いつでも頑張りますわー!)


 それを云うなら『不肖』の間違いだろう。


 背の小さな探偵は俊敏な動きであとをつけながら三人のことを観察している。電柱の影に隠れるのだが巨大なツインテールがはみ出して見えており、隠れる意味を成していない尾行だった。


(男子二人はギクシャクしながらも馴染んできているようね。でも神埼栞は何というか、威圧感が半端ない。あんまり巫山戯ていると男子は一喝されるんじゃないかしら??私が云うのも何だけど栞ちゃんの機微に気付いた方が良いと思うよ、二人とも。まあ、云わないけどね)



<未流、三人の動きは順調?>


 念話で野伊間のいま詩芙音しふぉんが話しかけてきた。


<ええ、順調ですわ。もう少しで鈴偶家に到着する予定です>

<そう。なら良かった。コッチはどんどん時間が無くなってきているから巻き進めたいくらいよ。引き続き監視をお願いね>

<はい、お姉さま!!で、でも身体の傷が癒えてなくて……。今度、姉さまのヒーリング魔法で身体も心もケア頂きたい、です!>

<ええ、分かったわ。ヤられたのは私のセキニンだものね>


 未流の勇気を振り絞ったお願いは珍しく詩芙音に届き、快諾された。青天の霹靂というべきか。意外な展開に驚きを隠せない未流だった。


<ねえ、未流。もう少しで新作グリモワールの完成よ。その暁にはヒーリング魔法なんてお安い御用。だから、ね……。頑張って頂戴な>

<お任せください、姉さま!!>


 そこで念話は途切れた。ちょうど三人が智優パパと接触したところだった。


 一通りのやり取りを終え、三人が動き始めると未流は尾行を継続した。このまま野伊間家に向かうならば全て順調。何も手出しをせずにお使い完了となるのだが……。


 すると未流の横に接触スレスレまで接近した黒いワンボックスカーが止まった。


 尾行に夢中で傍の動向が見えていない少女は瞬く間にワンボックスカーのスライドドアの奥に引きずり込まれていくのだった。優しく猿ぐつわを噛まされた未流の目には涙をいっぱいに溜めていたが、助けを求めようとする声は誰にも届くことは無かった。


 こうして不吉なカボチャの馬車に拉致られた未流は連れ去られるのだった。


 何処へ?それはモチのロン!

 有栖川重工業 舞金試験場のある研究所だ!



 揺れる車の中で未流は必死に念話で呼び掛けていた。


<姉さま、詩芙音姉さま!!失敗です。わたくし、失敗しましたわ!>


 未流が幾ら念話で詩芙音へ語りかけても返事は帰ってこない。念話は意識と意識を繋いだダイレクトな会話。意識がシンクロできる二人ならば何処にいても会話できるはずだった。


 だが未流の呼び掛けは届いた感触すらない。

 まるで詩芙音の存在が消えてしまったかのようだ。


 詩芙音は先に『電脳の海』に移り、来訪者を待っている。其処は次元の違う世界。未流の呼び掛けも届くはずがない場所だった……



 やがて車が停まり、身体を支えられて降ろされる。黒いカボチャの馬車は乱暴なのか、丁寧なのか分からない待遇だった。


 まるでCIAに連行されるUMAのように手を繋ぎ、無機質な外壁の建物の中へ連れられていく。


(わ、分からない……。『影を操る者』に私の存在が気付かれたのか?覚悟を決めなけれいけないな。えーっと、自爆魔法は、っと)


 重々しい扉の前に立つと未流の横についていた男がノックをする。扉の中から不気味なテンションの声色で招かれるのだった。



「やあやあ、急にすまないね……」


 ボサボサの髪に傷だらけのメガネ。顔全体で笑顔を作るが目は笑っていない男。有栖川ありすがわ東彦はるひこが高級感溢れるデスクに座り、未流に語り掛けるのだった。


「座ってリラックスして。君は『きのこの山』派?『タケノコの里』派?僕はね〜、気が利くから両方用意したんだよ。さあ、脳に栄養補給しながら話そうよ」

「わたくし、『すぎのこ村』派ですわ!」


「くっくっく!」

 眼鏡の奥で東彦の瞳がキラリと輝く。


「ふん、何がおかしいのかしら?今どきの小学生のハートを掴むには準備不足のようですわね!」

「……あるよ」

「へ??」


 得意満面の顔で東彦は『すぎのこ村』の箱をダイエット・ドクターペッパーの横に置いた。おかしい。威勢よく抵抗したはずが、思いっきり勢いを削がれる形となった。賞味期限、大丈夫……?


「さあ、チョコを口にしながら『お話し』といこうじゃないか。そう警戒しないでくれ給え。何といっても私は『妖精』が見えるほど心優しいアラサーだからねぇ〜」


 未流は訝しげにテーブルに置かれた『すぎのこ村』に手を伸ばし、目の前の男の表情を確認する。口角を吊り上げながら『きのこの山』を咥える様は周囲に不安しか感じさせない迫力があった。


「そ、それで私を誘拐した理由を教えてくださるかしら。こう見えてもわたくし、姉さまの仕事で忙しいのよ!」


 ぱんっ!


 東彦は柏手を打ち、手を揉みながら未流の眼前に迫ってきた。吐き出す息から乾いたごみ溜めのようなタバコの匂いが漂ってくる。


(ひっ!殺される!)


「あー、忘れてた!お茶会を楽しんでいる場合じゃなかったね!うちの藍銅あずのことだよ。こないだ君にお世話になって活躍したらしいじゃない。今、ちょっと立て込んでてさ〜。今回も一緒に組んで戦ってくれないかな?」


(もしかして『噂を操る者』と戦う気なの!?正気じゃないわ、この男。でも詩芙音姉さまがやろうとしていることに繋がるなら手を組むのも一計か……)


 職員らしき白衣の男がノックせずに部屋に入ってきて東彦の耳元で何かを囁く。先ほどまでの和やかさ(?)は一転して妹殺しの敵を討つ兄のような表情に変わる。


「返事を待たずに済まない。戦局が変わり、君の選択肢は無くなったようだ」

「……」

「今から藍銅と一緒に出陣して欲しい。無理や危険は承知だが、我々には守らなければいけない世界がある。これは君にしかできないことなのだ……」


 そう云うと東彦はゴツンと派手な音を立てておデコをテーブルにぶつけて年端もいかない少女に懇願するのだった。そこには自らの責務のためにプライドを捨てた大人がいた。



 『すぎのこ村』の箱に手を伸ばしながら未流は答える。


「べ、別にあんたに頼まれたから協力するんじゃないからネ!『すぎのこ村』の菓子を返すだけなんだから!」

「ふっ!食べたお菓子を返そうと吐かないでくれよ」


 ぱちん!

 東彦は指を鳴らして白衣の男たちを呼ぶ。


「量産型の準備は?両足は付いているだろうな?飾りじゃないんだぞ!」


「へ?量産型って云いまして?」

「うん、量産型。藍銅の量産型を参戦させるよ」

「ポッ!」

「ポッ?」

「ポッ、ポ……」

「ハトポッポ??」

「ポンコツの量産型ですってぇーーーーー!!!」


 未流は飲みかけのダイエット・ドクターペッパーを思い切り吹き出し、東彦の顔面に浴びせるのだった。


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