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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第60話 消えた智優ちゃん

――緊急事態宣言の放送後


 私こと、神埼かんざきしおりは状況を理解するのに苦しんでいる。


 昨晩の緊急事態宣言の発表を受けて浮足立っていたのは大人たちだけではなかった。まさに青天の霹靂でどうしたら良いか分からず少し混乱したけど、ニュースが終わると同時くらいに連絡網の電話が鳴り響き、私たち小学生は普段通りに登校して授業を受けるように行動指示を受けたのだった。


 烏丸山がすぐに噴火したりしないこと、避難にも準備が必要であること、などを考えたうえでの判断なのだろう。


 まるでテレビドラマのような展開に私は驚くばかりだ。あ、ドラマといえば『宵闇坂迷宮』は……。当然、延期ですよね。しょぼーん。



 普段と異なるのは今朝の登校が一人だったことくらい。今朝は先日休みだった詩芙音しふぉんちゃんに加えて智優ちゆちゃん、未流みるちゃん、そして藍銅あずちゃんまでもお休みという異常事態だった。登校時間になっても待っても集まらない友だちに不安を覚えながらトボトボと一人学校へ歩くのだった。


 教室に入ってもソコに彼女たちの姿は無い。代わりに他の子たちがソワソワしながら想像や憶測で盛り上がっていた。


 ランドセルから今日の授業の教科書とノートを取り出して棚に置き、席につく。一番仲が良い友だちがいないだけで教室は別世界のように感じられ、自分が置いてきぼりになったような気持ちになってしまうのだった。


「なあ、神埼?」


 智優ちゃんの隣の席から辻村つじむら拓人たくとくんが私に声を掛ける。


「おはよ、拓人くん」

「ああ、おはよう、神崎さん。昨日の緊急事態宣言、ビックリだったよね?」

「ええ、ビックリ。待ちに待ったテレビドラマが延期になって更にビックリだわ」

「それってドラマの方が重要だったとか?」

「もー、うるさし!今朝は機嫌悪いの!いつもみたいに優しくできないよ!」

「いつも優しくな……、なんでもありません」


 声を荒げて対応すると拓人くんは勢いを失って小さくなってしまう。男の子なんだからしっかりしなさいよ、まったく!


「智優ちゃんのことでしょ?」

「――それ」

「今朝は集合場所に来なかったからお休みだと思うよ。昨日は元気そうだったけど風邪でも引いたのかな?そういえば詩芙音ちゃんも休んでたから風邪が流行り始めたのかもよ」


 拓人くんは私の言葉を聞いて納得したように明るい表情が戻ってきた。私同様に智優ちゃんのことが気になるのだろう。


「そうだったんだね。いつも一緒に登校しているのに今朝は神崎さん一人だったから心配になっちゃったよ。鈴偶りんぐうって昨日、妙な感じだったからさー」

「妙な感じって?」

「ほら、何ていうのかな。急に性格が変わちゃったというか、外見は鈴偶なんだけど中身が別物に変わってしまったとでもいうか」

「まるでSF小説みたいなこと云うのね」

「だよね。あははは」


 智優ちゃんに違和感を感じていたのは私だけじゃない。あの違和感は錯覚じゃなかったのかな??


「あ?何だ鈴偶はズル休みか?」


 智優ちゃんの心配をする男の子がもう一人。乱暴な言葉で本音を隠そうとしても好きな女の子を心配しているのがバレバレ。不器用な花田はなだとおるくんがポケットに手を突っ込み身体を揺らせながら智優ちゃんの席に近付いてくる。今朝はアタック(物理的な攻撃の方ね)する相手が不在で手持ち無沙汰の様子だ。


「ズル休みって決まったわけじゃないだろ!」

「あ、何だお前、偉そうに」

「憶測で人の悪口を云うなよ!」

「ムカつく野郎だな、陰キャのくせに」


 立ち上がって抗議をする拓人くんの胸ぐらを掴んで睨みを利かせる透くん。あーもー、男の子はうるさし!


「陰キャは関係ないだろ!」


 拓人くんが胸ぐらを掴んだ腕を乱暴に振り解くと勢い余って透くんは尻餅をついてしまった。


「やったな、この!」


「男子、うるさし!!なにヒートアップしちゃってるの二人とも?今朝は智優ちゃんがいない、事実はそれだけでしょ?少し頭冷やして冷静になったらいかが!?もう6年生なんだから」


 優しく諭すと二人は酷く落ち込んだ顔で黙ってしまった。ふふふふ、私ってば優しいな〜!絶対、優しいって。


「心配だったらお見舞いに行ってみない?智優ちゃんの顔が見れれば安心すると思うの」

「あ?俺は別に鈴偶の心配なんてしてね……」

「行こう!昨日のこともあるし、ぜひ行きたいよ!」

「おい、昨日のことって何だよ?」

「ほら昨日、鈴偶が少し変だったろ?気付いていないのかよ?」

「いや特には」


 云われても何のことか了見を得ない表情の透くんに拓人くんが気になった点を挙げる。


「普段、打撃系の攻撃なのに関節技をキメてたろ?それも合気道のような感じの特殊な技だよ」

「あ?あー、云われてみれば!って云うか俺と鈴偶のバトルなんて良く見てるな?そんなに気になるのか?」


 透くんの指摘が図星だったのか拓人くんは顔を赤らめながら黙ってしまった。ふーん、男の子って単純で分かりやすいな。


「とりま、そういうことで放課後は智優ちゃん宅へお見舞いにレッツゴー」

「「おう!」」


 やっぱ行くんじゃん、透くん。素直になれば良いのにね〜。それにしても智優ちゃん、どうしたんだろ??



 先生もクラスメイトも落ち着かない1日が淡々と過ぎていく。いつ緊急避難を開始するのか誰にも分からない。そもそも火山が噴火するのか、大地震が来るのか、誰も分からない。蛇の生殺しのような時間が延々と過ぎ、気が付けば放課後を告げるチャイムが鳴っているのだった。


「じゃあ、行くよー」


 私が声を掛けるとランドセルを背負った拓人くんが頷く。


 透くんは仲良しの東海林しょうじくんに大げさな身振り手振りで何か説明をしているようだった。東海林くんはニヤニヤしながら頷くばかり。透くんの反応って分かりやすいから親友には気持ちがバレバレなんだろうな〜。説明が終わると顔が真っ赤になっていた。ほら、分かりやすい!



 下校の途中、町往く人たちを眺めると矢張り落ち着かない。小学校だけではなく、町全体が落ち着かなくなっている様子だった。


 馴染みの薄いパーティーの三人は共通の話題を探しながら歩き続けた。けど、そんなに都合の良い話題がすぐに見つかるはずもなく、途切れ途切れの話で場を繋ぎながら目的地の鈴偶家の玄関に辿り着いた。


「へー、ここなんだ。家から近いから今度は直接、本を届けようかな」

「なんでも良いけど早くピンポンしようぜ」

「そだね。じゃ、私が押すね」


 ぴんぽーーん


 あれ、誰も出ないぞ。


 もう一度。ぴんぽーん。


 ピンポンの返事は聞こえてこない。家に誰もいないのかな??


「鈴偶のやつ、寝てるんじゃないのか?」

「そうなのかな〜。重症じゃなければ良いんだけど」


 がちゃり。


 ピンポンの返事の代わりに扉が開く音がした。そこには普段、出張で不在の方が顔を覗かせていた。


「はい?」


 乱れた髪、無精髭、疲れた表情。顔を覗かせたのは智優ちゃんのパパさんだった。


「こんにちは!」

「はい、こんにちは。えーっと」

「神埼です。神埼栞です、おじさま」

「あー、神埼さんの娘さんか!綺麗になったから分からなかったよ!今日は臨時休業で休んでるからこんな格好でゴメンね」


 ジャージの智優ちゃんパパは警戒する表情を解き、微笑む。


「もしかして智優と遊ぶ約束かい?ゴメンね、まだ学校から帰ってないんだよ〜」

「えっ!?智優ちゃん、風邪だったんじゃ?」

「いやいや、風邪じゃないよ〜。今朝、元気に学校に行ったもの」


 不安そうな表情の私達を見て異変に気付いたのか、幾分トーンを落として尋ねる。


「もしかして智優、学校に行ってないの?」

「は、はい!私、てっきり風邪だと思って友だちとお見舞いに来たんです」

「……」


 智優ちゃんパパの表情は段々と険しく変わっていった。朝、学校に行った?一体、どういうことなの??


 得体の知れない不安に駆られる私たちの気持ちを他所に、防災放送のベルが町内に鳴り響くのだった。

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