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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第57話 ASS、緊急出動の要請

――夜、有栖川重工業舞金試験場の控室


 俺のコードネームは赤城。本名を捨てた男。


 いつもは冗談が飛び交うアットホームな隊員たちの表情が重い。有栖川セキュリティサービス(通称ASS)へ極秘作戦の通達があったのは2時間前。『セカイの邪馬ちゃん』で手羽先を肴にピッチャーのビールで乾杯していたところで水を差されたのだった。


「最近、我々の出動が多いですな。今回も前回と同じような遠足でしょうか?」


 隊の副長、加賀チーフが俺に語りかける。


「さあな。だが我々が必要とされるなら、恐れずに何処へでも赴くだけさ」

「全くその通りですな、少佐」


 沈黙のまま他メンバーが頷く。


 ここにいるメンバーは殆どが元自衛官だ。各々の事情があるのだろうが一時は高潔な志を胸に抱いて戦場を駆け抜けた者たち。同じ自衛官として彼らの使命感の高さは折り紙付きだと自負している。


 最近、我々の仲間になった蒼龍。ひょろりとした高身長でサラリとした髪型にメガネを掛け、いかにもインテリと感じさせる風貌の男。M県警察所属の特殊急襲部隊(通称SAT)に所属していたイケメンがASSに籍を移すことになったのか?

 理由は単純で要人警護の任務で銃撃の盾になり殉職しかけ、たまたま運ばれた有栖川重工業の関連病院で身体の一部を義体化することで生き返り、今に至る。ただそれだけだ。


 誰かのために自分の命を捨てる行動が取れる気概が気に入られてメンバーに可愛がられている。ああ、可愛がられるといってもソッチ方面の話ではないがな。


 要するに命の価値は、ソレをどう使うかが重要で俺たちは使い方を心得ているのさ。


 がちゃり


 控室の扉が開くと有栖川ありすがわ東彦はるひこ上席研究員と、その部下たちが入室する。東彦の顔にいつもの気味悪い微笑みはなく、口は苦しそうに歪み、尋常ではない事態を物語っていた。


「急な呼び出しで申し訳ない。緊急事態が発生した。先日、出動してもらった烏丸山に『異形』の発生を検知したのだ」

「『異形』といいますと?」

「それは現地で確認しなければ分からん。今まで出現した『異形』と同じかもしれないし、全く別物かもしれない。とにかく今回は数が多いんだ」

「詳しくお願いします」

 

 東彦の部下たちはテーブルに烏丸山の地図を広げる。


「現時点で確認できている出現ポイントはこの4箇所だ」


 指し棒を伸ばして地図を指して説明を続ける。


「最初に観測された場所は1箇所だったが、瞬く間に増えて4箇所。今後も増えていく可能性がある」


 ASSメンバー達は黙って東彦の説明に耳を傾けている。それぞれの表情は固く、目は小さな炎が揺れるような熱気が感じられた。現状を把握し、経験に照らし合わせ戦場をシミュレーションしているかのようだった。


「今はかろうじて移動していないが、今後は山を下りて市街へ向かう可能性がある。一般人に被害が出る前に殲滅する必要がある」

「つまり一刻の猶予もない、そういうことですな?」

「ああ」


 加賀チーフの顔を見ると俺の視線に気付いたのか、こちらを見てニヤリと笑い返す。


「おい、遠足前に縮こまってるなよ!萎びた心は揉んで奮い立たせろ!」

「加賀チーフ、揉んで奮い立つのはイチモツです!」


 メンバーから笑い声が上がる。たとえ乾いた笑いでも人間らしい表情が作れるうちは生き残れる。


「状況は分かりました。これから烏丸山へ急行し『異形』の対処を行います。私を含めた隊員8人がツーマンセルに分かれて4箇所を叩く。それで良いですかな?」

「赤城くん、助かるよ」


 東彦の言葉には重みがあった。普段はマッドサイエンティストで得体の知れない男だが、人の命が関わる場面では至極まともにやり取りが行える。それが東彦の本来の姿、鬼殺しの有栖川一族なのかもしれない。


「だが我々が出動するにしても万が一の保険は欲しいですな。住民に被害が合ってからでは遅いですよ」

「ああ。それについても既に行動を開始している。重陽ちょうようくん」


 東彦の部下とは異なる容貌の男が前に出る。


「どうも。地質学を研究している野伊間のいま重陽ちょうようといいます」


 灰色のボタンダウンのシャツに紺色のジャケットを羽織る男がメガネを持ち上げながら我々に挨拶をする。


「1昨年前から続くM県翔北市の微震を調査し続けた結果、震源は烏丸山にあることが判明しました。ご存知か分かりませんが、烏丸山は休火山なんですよ」

「おいおい、まさか烏丸山が噴火するなんて云わないだろうな?」


 奇想天外な話の切り口に私は思わずツッコミを入れてしまう。


「そのまさかです。有栖川さんのおっしゃる『異形』の出現に合わせたかのように休火山の活性化が検知されています。『異形』は私の専門外で分かりませんが、同調しているとしか思えません」

「うん。江戸時代に残された記録では『異形』の出現と大地震が重なったことがあったよ。重陽くんの意見は当たらずとも遠からずかもしれないね」


 二人は知り合いなのだろうか?会話が他人同士とは思えない雰囲気を醸し出している。


「で、その休火山の活性化がどう関係するんです?」

「これから烏丸山噴火の予防措置として近隣住民の緊急避難宣言を出します」

「おいおい、いくら有栖川重工業でも……」

「もちろん宣言は省庁を通して発議され、内閣総理大臣が決定します。そのためのコネクションを私は持っているのです」

「……」


 野伊間重陽。有栖川東彦とは違う立場で日本国民の安全を憂う男。迷いの無い表情から意志の強さが伝わってきた。


「おい、聞いたか皆んな。遠足のお膳立ては万端、あとは俺たちの頑張り次第ってことだ」

「私は赤城少佐に従いますよ。さっさと終わらせて手羽先を食べたいですな」

「「「自分もです!」」」

「加賀チーフがピッチャーを何杯空けるか勝負途中でした。結果が分かるまで死ねません!」

「人で勝手に賭けをするな馬鹿者!俺が乗れないじゃないか!!」


 加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、祥鳳、龍驤。

 隊員たちの笑い声が響く。

 笑顔の絶えない強者達に俺も笑ってしまう。


「隊員、準備急げ!」

「「「「「「「ラジャ!」」」」」」」


 なぜか先日知り合った少年の笑顔を思い出した。接する人間を明るい気持ちにさせるような純粋な笑顔だった。俺の巨体に小さな拳で挑む少年。また会えるならば何か格闘技を教えてあげたいと思う。


 寝ぼけて俺のことをパパと間違えた少年。

 また会えるさ。生きて帰れるなら……


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