第56話 天災の予兆
――朝の登校時間、神埼家の前
ちょっと前まで私と智優ちゃんの二人で登校していたのだけど最近、友だちが増えて賑やかな朝が多くなった。
新しい友だちは転校してきた野伊間詩芙音ちゃん、安蘭未流ちゃん、そして有栖川藍銅ちゃん!
もうすぐ中学生だし、地元の中学に進学しても仲良い友だちになる予感がする。
眩しい朝日を手で遮りながら、そんなことを考えていると遠くから智優ちゃんの声が聞こえてくる。
「おはよう、栞ちゃん!待たせちゃった?」
「ううん、今来たところだよ〜」
「遅刻のお詫びに1つだけ望みを叶えちゃおっかな?んー、でも『叶える数を増やす』っていうのはダメだよ」
智優ちゃんはウィンクして私のお巫山戯を軽く流したぞ。あれ?今朝の智優ちゃん、何か違くない??
智優ちゃんの後ろに藍銅ちゃんに腕を掴まれ、息切れした未流ちゃんがヘロヘロになりながら歩いていた。
「もー、痛いってば!腕を掴むな、ポンコツ!!身長差で上に引っ張られて痛いんだよ!!」
「未流ちゃん、歩くの超遅いからつい……、メンゴメンゴ!」
「もうメンゴ禁止!次に云ったらマジで壊すからね!!」
「メ……」
「メ?」
「んご〜。すやすや」
「寝て誤魔化すな、ポンコツが!」
朝からハイテンションの未流ちゃんと藍銅ちゃん、いつの間にか本当に息が合うようになっていた。みんな仲が良いのは良いことだね!!
「未流ちゃん、少し静かに。ね?」
「ひっ!ごめんなさい、ね……」
「ね?」
「ねー。ごめんなさいねー。智優ちゃん」
表情の消えた目で片眉を釣り上げる智優ちゃんの迫力に押されて未流ちゃんは大人しくなってしまった。あれ?やっぱり人間関係もおかしくないかな??
「ところで詩芙音ちゃんがいないけど」
「あー、なんか詩芙音ちゃんは風邪を引いてお休みみたいよ」
「えー、昨日まで元気だったのに大丈夫かな?放課後、お見舞いに行く?」
「へ、お見舞い?」
「い、いいんじゃない。でも色々と気を遣わせちゃうと悪いよー」
「そうかな〜。智優ちゃんの顔、見たいと思うんだけど」
「そうだ!プリントが配られたら届けに行こう。うん、それが良い。それで良いよ」
お見舞いの件を言及する前に智優ちゃんは両手をブンブン振りながら先に行ってしまった。
玄関の下駄箱で靴を履き替えていると同じクラスの木村朋美ちゃんと鳥海佳苗ちゃんが大声で笑いながら盛り上がっている。二人の後ろに続く須藤美波ちゃんは気持ち悪い漫才でも見るような不思議そうな顔をしている。
正直、朋美ちゃんグループは苦手だったけど最近、朋美ちゃんが変わったせいかグループ全体が明るい雰囲気になったんだよね。憑き物が落ちたような。もう少し付き合いやすくなれば学年全体の女子を纏めるくらいの器だと思うんだけどな。
6-2教室に入ると悪ガキの花田透くんが智優ちゃんに掴み掛かる!
スカートめくりブームが過ぎた透くんは智優ちゃんと直接対決すべく毎朝挑戦してるのだけど結果は見るまでもなく鉄拳制裁でボコボコ。痛そうな反面、満足気な顔でやられるのは何故?噂のMっ気ってやつなのかな?
今朝も智優ちゃんにボコボ……、あれ!?
不思議な方向と角度から透くんの手を掴むとヒラリと回って、気付くと透くんは教室の床に組み伏されて全く動けない状態になっていた。
「動くと折るよ」
「くそっ!参った!!腕を上げたなライバルよ!!」
「んー、ライバル以前!」
智優ちゃんが少しだけ手の角度を変えた。
「あーーーーーーーーーーーーー!」
ちーん、合掌。
打撃系が得意だったのに護身術?今朝の智優ちゃんはミステリアスだな〜。まるで。うーん、喉まで出かかってるけど思い出せない。
席に着くとインテリ陰キャの辻村拓人くんが智優ちゃんに話し掛けているので会話に参加した。
「新しい小説読んだんだけどさ」
「どんなの読んだの?」
「前に鈴偶が好きだって云ってた英雄譚。里見八犬伝みたいに英雄が集結して帝国軍を倒す話なんだけど」
「あー。んー。恋愛小説は読まないの?三角、四角、五角。果てはこの小説に三角形は幾つ含まれるでしょう?みたいな?」
「どんな恋愛だよ!角川つばさ文庫はおろか、電撃文庫にもメディアワークス文庫にもそんな小説ないよ!!誰がターゲットなんだよ、全く」
「あは☆」
「見た目と目つきが超悪い男と奥手の女子がバレンタインをキッカケに勘違いで付き合うようになった、なんて恋愛小説でも読んで頭冷やせよ」
「で、イケメン男子が登場して、『この次も三角、三角〜』でしょ?」
「恋愛=三角関係かよ!」
拓人くんは家出から帰還すると今まで以上に元気になっていた。これまで人付き合いに壁一枚の隔てがあるような雰囲気だったが、不器用ながらも本音を出してコミュニケーションを取るようにしたみたい。
すぐに他の人と馴染めるわけじゃないけど私たちがサポートして友だち関係の修復を助けてあげたいと思う。
ん?おかしいな……
いま、智優ちゃんが「あは☆」って云わなかった??
私の中で違和感は膨れ上がるけど、瞬く間に学校は終わり帰路に着いた。
――夜、夕飯を食べ終わった神埼家
私は自室で宿題を終わらせた後、リビングに降りてテレビを眺めていた。ちょうど20時のバラエティが終わったところで21時から始まるテレビドラマ『宵闇坂迷宮』に間に合ったのだった。
このドラマ、メインストーリーはイマイチなんだけど元宝塚女優の主人公とヒロインの微妙な関係が面白いんだよねー。今度、智優ちゃんに説明してあげなくっちゃ。
わくわく。わくわく。わくわく。わくわく。
ソファーで足を組んで大人びたポーズで待っていた栞だったが、ドラマの始まりが待ち切れずに徐々に前のめりの姿勢になっていく。背伸びした所作を身に着けているが中身は小学6年生の女の子。逸る気持ちを抑えられないようだ。
このCMが終われば……
「ニュース速報。たった今、気象庁より緊急発表がありました。番組予定を変更してお届けいたします」
「は?いやいや、いやいや、待って?」
栞の受けた衝撃を無視するようにテレビの映像は長机に座った作業服のような制服を着た大人が一礼する映像に切り替わった。
栞は全身の力が抜けたようにソファーに埋もれる。驚きと怒りが頂点に達して、諦めだけが残りもはや何もする気力も残されていなかった。
「……でありまして、烏丸山の休眠状態だった活火山が危険な状態に変化しており……」
ふぇ?烏丸山?
「……内閣総理大臣の判断を仰ぎ自衛隊が出動予定です。予防的な避難措置ではありますが自治体の指示に従うようにお願いします。くれぐれも安全を優先した……」
はわ!ドラマどころじゃなかった!




