第55話 絶体絶命、新たな敵の出現
――舞金小の屋上
剣豪のような影との勝負は終わった。
私のロジカル演算魔法によって影の主である辻村拓人と切り離された影に戦闘力は残されておらず、いつ消滅してもおかしくない状態だった。それでも最後の力を振り絞って剣を構える姿は拓人本人の不器用な性格を反映しているかのようだった。
私の剣で一刀両断された影は砂のように変わりサラサラと飛び散って消えてしまった。
ちょうどその時、閉鎖された空間の中で重力を無視した速度でゆっくりと崩壊していた舞金小の校舎が地面に到達し、私たちの足場がミシリと崩れ始めた。
私は屋上の端にぶん投げた拓人本人を慌てて回収して担ぎ上げると、校舎の外へ飛び上がるのだった。
「今回も無事に勝つことができて何よりだったわい」
「もうロム!もっと積極的に強力してよね〜。ロムのやる気スイッチを入れるのが面倒だよ……」
「人を動かすのも魔法少女の大事な仕事じゃて」
「そんなの魔法少女の仕事じゃないし、ロムは猫であって人じゃないし、ツッコミどころ満載で。むきぃーーーー」
横を飛ぶ黒猫が「やれやれ」みたいなジェスチャーをした。本当に猫なんだよね??
地面に着地すると担いでいた拓人を降ろした。打ちどころが悪かったようで気絶したまま目を覚ます気配がない。ちなみに脈はあるからシカバネではなかったぞ!
「都合よく気絶してくれてて助かるぞい」
ロムは拓人の身体に触れて状態を確認している。
「ねえ、また記憶操作するの?」
「うむ。色々と都合が悪いモノを見られておるからの」
「拓人ね、さっきちょっと心を開いた気がする。記憶操作したら忘れちゃうのかな?」
「むぅ。消すのはあくまで一時的な記憶だから内面的なモノは消すことはできんの。この少年がもし成長したのならば、記憶を操作しようが心の内面に生まれたモノは消すことはできん」
「良かった〜。私ね、拓人は皆んなと仲良くなれると思うの」
「一人では無理だとしても主が助けてやれば良いことじゃ。心が成長したならば結果は着いてくるじゃろうて」
「そうだよね!」
前向きな気持ちになり笑っていると上空からアズこと有栖川藍銅ちゃんの声が聞こえる。
「おーい、シフォンちゃーん」
「アズちゃん、無事で何より!」
「無事なもんですか!奇襲攻撃の後に敵が現れて大変だったんですのよ!!」
アズの背後にしがみついていた2D詩芙音ちゃん人形(中身は安蘭未流)が抗議の声を上げる。よく見ると二人とも焦げ焦げでボロボロだった。
「ど、どーしたの?大丈夫!?」
アズちゃんはフラフラと着地をするとその場にヘたり込んでしまった。
「むぐー、潰れる〜!」
「あー、未流ちゃん、メンゴメンゴ」
「もう何回、メンゴメンゴって聞けば改善するのよ!ポンコツがヘマするたびに落下して死にそうな思いをするし、散々ですわ!」
アズの背中から這い出して文句を云う未流の姿が微笑ましくて思わず笑ってしまう。急な作戦だったのに二人が連携できたおかげで私は影に勝つことができたのだ。二人は凸凹なのに良いコンビかもしれない。
「ただいま〜」
明るい声が聞こえる方を向くとそこには見るも無惨な姿のカラフル・ミルこと、野伊間詩芙音ちゃんの姿があった。
「ミルちゃん、大丈夫なの!?またボロボロだよ??」
「いやー、前回と同じ敵が変わり映えしない攻撃をしてくるから余裕で倒せると油断してたら応援が現れてこのザマよ。まあ、撃退できたから良しとしましょう!」
さっきまで不満を爆発させていた2D詩芙音ちゃん人形こと未流が青い顔をして身体を震わせている。
「し、詩芙音姉さま……。ソレ、私の身体……」
「あは☆メンゴメンゴ。ちょびっとやられちゃった」
「ちょっとどころじゃないし、大体どうして皆んな私にはメンゴで済まそうとするのー!!」
深夜の舞金小跡地に未流の叫び声を私、詩芙音ちゃん、藍銅ちゃんの笑い声が鳴り響くのだった。
ピキ、ピキ、パキィーーーン
響いた音をキッカケにして維持限界に達した空間がヒビ割れていった。何も無いはずの場所に鏡を割ったようなヒビが伸びていく。一本、二本……、ヒビの数は徐々に増えていき見える範囲全てを覆うとどこからともなく空間は崩れていく。
崩れた箇所の先を見ると先ほど崩壊したはずの舞金小の校舎が元のままに残っている。『空間の魔女』保険医の安藤先生は空間を閉鎖することで暫定的な異世界を作り出し、空間内での魔力供給、身体能力強化のバフや敵の鈍化、魔力削減といったデバフで支援をしてくれている。そして空間を閉鎖する際に元の空間のジャーナルを記憶し、壊れた建物などをジャーナルまで戻してくれるのだ。
空間閉鎖が完全に解けると先ほどまでのバトルでついた傷が1つもない、元の状態の新校舎に戻っていた。
「『空間の魔女』、相変わらず凄い魔法ね」
「安藤先生が助けてくれるから校舎を壊しても安心安心だよ!」
「魔女によって得意な魔法というものはあるの。安藤は空間を操作する魔法に長けておるが戦闘力は無いに等しい。逆に詩芙音は戦闘力に全振りしておるが故に空間魔法は使えん。魔女それぞれということじゃわい」
「得意分野を持たない魔女ってのもいるけどね」
詩芙音ちゃんは未流ちゃんを見つめている。詩芙音ちゃんの視線に気付いた未流ちゃんは驚き、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべて問い掛ける。
「姉さま、姉さま、私の顔を見てどうされたのですか?もしや称賛のお言葉!?」
「いやー、天は二物を与えず。強大過ぎて制御不能な魔力なんて羨ましいわ」
「えへへ。姉さまに褒められるなんて頑張った甲斐がありましたわ!」
「――褒めてないけど、まいっか!」
私は戦いによる消耗で立っているのも限界。詩芙音ちゃんと未流ちゃんのやり取りを笑いながら、倒れそうになるのを必死に堪えていた。
直前まで背後には魔力を感じなかった。
瞬間移動で私の背後に出現した新たな敵から魔の手が伸びる。
ずっ
(あれ?何だろう??)
視線を下ろすと私のみぞおち辺りから伸びた剣先が見える。おかしい、なぜ身体から剣が生えているのだろう?これは……
これは背後から長い刃で貫かれたのだ!!
「ぐっ!」
「えっ!ち、智優ちゃん、どうしたの!?」
「詩芙音よ、新たな敵だ!!」
「ちぃ!!」
詩芙音ちゃんは『色彩の刃』で私の背後にいた敵に斬りつけるが既に敵の姿は無い。
刺された傷口から魔力の放出が止まらず、意識が朦朧となり地べたに崩れ落ちた。
(今度こそ私は死んでしまうのだろうか。詩芙音ちゃんに身体を借りたまま致命傷を負ってしまったけど、大丈夫かな……。頭がぼーっとして身体が冷たくなってきたぞ)
近くで誰かが叫ぶ声がするが、何を云ってるか分からない。
(まあ死んでもいいか。どうせパパと上手くいってないし。仲直りも面倒だし……)
そう思ったのを最後に意識が途切れてしまった。
〈To Be Continued〉




