第54話 不器用な少年の告白
――閉鎖された空間、崩壊途中の校舎屋上
私は影の背後に浮く球体から攻撃を受け、腕を抑えながら激痛に耐えている。鋭い光線が貫いた跡は湿った感触と痺れるような熱の感覚が強くなっていく。
体勢を崩したスキに畳み込まれると思ったが、影は再び剣を鞘に収めてこちらの動きを睨んでいる。私がダメージで怯んだ瞬間がチャンスだったのだが、何故止めを刺しに来なかったのだろうか?とても慎重、悪くいうと受け身のような印象を受けた。
敵が動かなかったことは私にとって幸い。息を整え、魔力を腕の傷に集中させて回復を図ると腕が冷たい感触に包まれ痛みが和らいでいく。
(武器を飛び道具に切り替えるか?このまま剣で戦うか?こちらの飛び道具が撃ち落とされたら隙だらけで一刀両断だ!このまま斬り合うのがベスト!)
そう結論付けた瞬間、私は両手の剣を構え、低空飛行で影に突撃する。影は先ほどの衝撃波は出さずに私の剣とぶつかり合う。
飛行状態を活かして変則的な角度から剣撃を繰り出すが、影は私の剣を綺麗に受け流していく。二人で華麗にダンスを踊るような剣と剣の鍔迫り合いだった。
(何なんだコイツは!?まるで戦いを楽しんでいるようだぞ!!)
そうかと思うと横一閃に異様に長い剣を薙ぎ払われ、危うく真っ二つになるところを後方へ飛び上がってかわす。
やはりだ。飛んだところを球体の射撃で牽制すれば良いのに剣のみで戦っている。この戦いを楽しんでいるのか?再び影と睨み合っていると黒猫ロムが念話で私に語りかけてくる。
<聞こえるか、ボン子?>
<失礼だぞ!ボンヤリしてたら真っ二つだよ!!>
<それは失礼した。真っ二つになる前に構造体解析が完了して何よりだわい>
<分かったの!?>
<うむ、ちとややこしいがの。あの影は自分の理想の姿と実態の乖離から生まれたようだの>
<理想の姿?実態の乖離?>
<うむ。影の主は本来、友だちと話したり、遊んだりしたいのだが、実際は上手く付き合うことができずに自分の中に閉じ籠もっているようじゃ。表に見せている顔と本当の顔の歪みから生まれた影、と云えば分かるかの?>
<そんなこと、誰にでもあるんじゃ?>
<程度の差こそあれ、誰にでもあること。じゃが、少年には深刻な悩みだったようだの>
<――少年?>
<ほれ、主の友だち。辻村拓人じゃよ>
影は居合の構えのまま摺足で間合いを詰めるように近づいてくる。背後の球体が見えない銃口をこちらに向けながら、真剣勝負を強要する。なんて不器用な戦いのスタイル。これが拓人の
影なのね……。
<でも私は拓人と仲良くしてた!小説を通して分かり合っていたよ!>
<そこが彼奴のややこしいところ。表面的に誰かと付き合っても、誰にも心を開いていなかったのじゃよ>
<そ、そんなこと、な……>
<ない、と言い切れるか?>
悔しい。クラスで孤立する拓人と仲良くなって仲間になりたいと思ってた。最近は良く会話するようになってた。だから少しづつ前進していると思ってたのに。
何より私は拓人と話すの楽しかったのに……
<じゃあ、どうしたら良いの、ロム?私はどうしたら良いの?>
<ふむ。先ずは敵を倒すこと。少年の真意の確認はその後で良かろう。落ち込んだなら気持ちを戻すのじゃ。ソレは敗北に繋がるぞ>
<そ、そうだね!たまには良いこと云うじゃん>
<いつも良いこと云ってるが、主はボンヤリして聞き逃しているのじゃよ。くっくっく!>
<いつもは云ってない!!!>
<良いか、シフォン。少年の本質たる変数は少年の中でしかアクセスできない状態じゃ。だから変数宣言を上書きする>
<変数宣言の上書き?>
<そうじゃ。内向的(ローカル変数)を外交的(グローバル変数)に修正する。コレで他者でも否応なく少年の本質と触れることができるハズ>
<拓人、大丈夫かな……>
<事後は主がサポートするんじゃろ?>
<うん!だって友だちだから!!>
ロムの言葉に続いて私も詠唱をする。影の立つ地面に魔力を集中させると8つの三角錐が現れて魔法陣を描き始める。あまりに高速だったため影は反応できずにその場に釘付けになって動けず震えている。瞬く間に魔法陣は完成し、ゆっくり地面から浮かび上がると影を閉じ込めていく。
<良いか、シフォン?>
<うん!いっくよー!!>
<<ロジカル魔法☆デクレア・リライト!!>>
3つの流れ星が魔法陣に衝突すると辺りは眩い光で満たされていく。そして魔法陣のヴェールからずり落ちる人影。私は瞬時に魔法陣の場所まで移動して倒れる拓人を支える。
「もう大丈夫だよ、拓人!」
「変な格好だけど鈴偶、だよな??助けてくれてありがとう!あと、いつも本当にありがとうな!!俺、本当にひん曲がってるから鈴偶の気遣いが嬉しくて嬉しくて。でも上手く伝えられなくて」
「良いよ、だって友だちだもん!!」
やつれてグッタリした拓人の目に大粒の涙が浮かぶ。いつものクールな優等生の顔ではない。自分の欠点に悩み、失敗し、でも掛け替えのない友だちと一緒にいたいと思う。小学6年生の不器用な男の子が見せた素直な表情だった。
「表面的な気持ちじゃない!本音だって同じなんだよ!」
「ん?どした??」
「俺の本当の気持ちもお前のことが……、好きなんだよーーー!!!」
「えーーー!!!」
私は驚きのあまり拓人をぶん投げてしまった!
どすん!!
頭から変な角度で落下した拓人はうんともすんともいわなくなってしまった。
話す→拓人「……返事がない、ただのシカバネのようだ」
男の子だから大丈夫!のはず。たぶん……
意表を突く言葉に胸のドキドキが止まないけど今は目の前の敵を倒すことに集中だ!
主から切り離された影は小刻みに震え、崩壊の兆しを見せているが、手元の剣は下ろさず構えたまま。最後の最後まで剣士として戦い抜く迫力を感じる。
だが影本体の勇ましさとは裏腹に背後の黒球体は暴走を始めているようだ。大きく揺れて変形すると光線を当てずっぽうに乱射し始めた。影が真剣勝負の邪魔になった球体を真っ二つに斬ったところで。
私は剣を構えて影の死角となる真上へジャンプするのだった!




