第52話 レディVSカラフル・ミル!
――崩壊した舞金小の瓦礫の山
『噂を操る者』の一人、笹塚愛美ことレディは魔法少女カラフル・ミルの繰り出す『色彩の刃』の猛攻を受けて苦戦している。
ミルの両手、そして巨大なツインテールの先端に構えた『色彩の刃』は四刀、攻撃も防御も全て刃で行う好戦的な戦闘スタイル。空中で舞いを舞うように剣撃を繰り広げてレディを圧倒する。
新しい外套は石のような硬さの殻でレディを包んでおり直接のダメージは受けていないが幾度も斬りつけられた外套は徐々に傷が深くなっていった。このまま攻防を続ければいずれ石殻の装甲は破られてしまう。焦り攻撃の手数を増やすが度重なる戦闘でレディの攻撃に慣れてしまったのか、カラフル・ミルは間隙を縫うような飛行でレディの繰り出す糸による攻撃をかわし続ける。
「ふ!ふは!ふはははははははははは!!」
「くそ!何がおかしい、カラフル・ミルよ!!」
「攻撃が単調で欠伸がでるわ。新しい玩具が全然活かせてないのね」
実際にその通りである。
糸の操作に専念するあまり本体の動きが緩慢となり、ミルの攻撃を石殻の盾で防御するばかり。石殻を変形させて武器とし、近接戦闘に切り替えをすれば戦いのテンポを乱して敵にスキを作ることができるかもしれないのだが、レディは動かないのだ。いや動けないのだ。
「くそ!くそ!くそ!くそ!くそーーー!」
「あは☆小娘、諦めたらソコで終わりだよ!」
「黙れ、小憎らしい魔女っ子め!!!」
糸を伸ばし過ぎて懐にスキができたのはレディの方。糸の攻撃をかわしたミルが高速飛行で接近してくる。レディが目線を下に向けると『色彩の刃』の至近距離まで近づいたミルと目が合う。獲物を追い詰める猫のような瞳と、同じ人間とは思えない角度まで口角を吊り上げた微笑みに狂気を宿す。
同じ?人間?それは違う。明らかに人間の規格から外れている!
糸の制御を中断して石殻のヴェールを重ね、『色彩の刃』による重い剣撃をガードする。
ガキィーーーーーーン
ミシ……
石殻の盾から嫌な音がした。
(いつもそうだ。私は戦えずに負けてばかり……)
戦闘のさなか、レディは昔のことを思い出していた。
笹塚愛美は平凡なサラリーマン家庭の長女に生まれた。何か特技となるような突出した才能もなく、勉強や運動を頑張っても良くて平均以上で止まってしまい成績上位に食い込んでいくことができない。そんな子どもだった。
そんな自分を良く理解していたので愛美は真面目に振る舞って生きることで個性を出そうと頑張った。才能こそないが誰よりも真面目。そんな女の子だ。
愛美には一つ年下の妹がいた。
妹は我道をいくタイプで好き勝手をやっては家族や周りに迷惑を掛けていた。そんな妹の世話をすると親に褒められ、良い気分になる。多少の優越感を持って妹の面倒を見続けてきた。
怒られるのは妹、褒められるのは姉である愛美。大学を卒業するくらいまで、そんな役割分担が続いていた。
大学生となっても真面目だけが取り柄だった愛美は、その性格を活かして教職員を目指すようになる。だが狭き門を叩く者の定め。教職員の採用試験を受けても受けても合格できないまま何年も過ぎた。
急な話。妹に子どもができて結婚することが決まると周囲の評価は一転し、安定しない私を見る目は非常に厳しいものに変わっていった。
正式採用を目指して臨時教員を続けて早○年。方向転換して別の人生を歩もうとするには気力も体力も衰えを感じざるを得ないことは愛美本人が一番分かっていた。
自分を変えるための一歩踏み出すことができない。不惑の果てに気付けば『噂を操る者』の一員として『英霊の復活』に向けた活動を行うようになっていた。そして、今……
カラフル・ミルはレディに重い一撃を食らわせると再び上昇して距離を取った。伸び切った糸を外套に巻き戻して次の攻撃に備える。
(先程の防御で石殻にヒビが入ったかもしれない。あと何回も忌まわしい魔法少女の攻撃を受けることもできないわね……。ならば!)
意を決したレディは外套から石殻を切り離して自身の周りに浮遊させて攻撃体勢に取る。今まで外套と石殻を一体にして扱うことで防御力を高めていたのだが、2つを切り離すことで石殻は近接用の武器へと変化したのだ!
(石殻は4つに切り分けた。4つあればミルが構える『色彩の刃』と互角に戦える!全ての刃を抑え込んだ瞬間に糸で穿けば勝てるはずだ!)
自らの身長くらいの長さがある石殻に魔力を注ぎ動かしてみると想像していたよりもスムーズに振り回すことができる。即席のアイデアにしては上々だ。
「さっきの攻撃で力尽きたか、小さな魔法少女よ!」
「あは。あははは。あははははははははは!まったく笑わせるわね。満身創痍の姿で何を云ってるのかしら?」
「く、まだよ!まだ戦える!!」
「あら、そうぉ?」
上空にいたカラフル・ミルの姿が消える。今まで以上の速度でレディに向かって接近しているのだ!残された魔力を石殻の剣に込めて立ち向かう。
一刀目、ミルの右手の刃を弾く。
二刀目、左側のツインテールから伸びた刃を防ぐ。
三刀目、回転して繰り出された右ツインテールの刃を受け止める。
四刀目、突き出された左手の刃の剣筋を反らしてかわす。
全ての刃をかわすことができた!!
私に勝機が訪れたわ!!
だがピンチになったはずのミルの目は怯んでいない。負けを覚悟した者の目ではなく、勝ちを掴み取る勢いの目だ。
なぜ奴は挫けない?何かあるのか?
ミルの顔が見える角度まで身体の向きが変わろうとしていた。そしてヤツの目の輝きが意味していたコトが分かった。
ミルの口には第五の刃が咥えられていたのだ!!
コマ送りのように『色彩の刃』がレディの首筋に伸びてきて思わず目を瞑ってしまう。
(私は負けたのか……。折角、頑張って変わろうとしたのに)
死を覚悟して身体を硬直させたが斬られた痛みは一向にやってこない。おかしい。私はミルに斬られて負けたはずだ。
恐る恐る目を開けるとそこには……
「市役所。これが終わったら書類の提出に行くのでは?」
『色彩の刃』を背中に受けて司祭服を真っ赤に染めた男が苦笑いをしていたのだった。




