第51話 高高度上空、藍銅&未流の死闘
――舞金小、高高度上空
一人の少女が空中に浮かんでいる。
両肩の部分にはミサイルを格納していた箱のような装備。今は発射済みとなりぽっかりと穴が開いているのみだった。
背後から胴体、足を覆うように囲む巨大なプロテクタには何本もスリットが入っていて内部に近接用の兵器を潜ませているようだ。
そして仏像の光背のような円盤が後ろに控えている。光背の端には鋭い鉄柵のようなモノが一周を何本も生えており、何らかの攻撃が行えることを伺わせていた。
有栖川藍銅。
いや対異形迎撃用アンドロイド『Asdf-506xx TypeGH』
少女は正真正銘の兵器だった……
舞金小学校の校舎を見下ろすと多弾頭ミサイルの直撃を受けて建物が真っ二つに割れて崩壊していく姿が見える。スローモーションのように一つだった校舎は分離していき、やがて砂煙が舞い上がり沈んでいく。
「やるじゃない、ポンコツ!ちゃんと校舎に命中したみたいよ!!」
野伊間詩芙音が考えた作戦は遠距離射撃による撹乱と奇襲。
敵の探索魔法に検知されづらい高度で飛行しながら接近し、ポイント到着後に速やかに体内にセットされた遠距離攻撃用の兵装を展開。一緒に飛行してきた2D詩芙音ちゃん人形(配役:安蘭未流)が敵の位置を確認した後、攻撃ポイントを指示して多弾頭ミサイルを発射!二人が担った役割はそんなところだ。
「敵の状況は確認できますカ、未流ちゃん?」
展開した兵装の隙間に挟まって落ちないように固定が掛かった人形に話しかける。
「ちょっと待ってね〜。ん?おかしいわね。地上には2つ分の魔力しか感じられないわ」
「ン?確か3つだったはずでは??」
私たちが静止している空中にパラパラと何かが落ちてくる。
「――何よ、コレ?こんな上空に一体何が降ってきているの?」
「解析完了!コレは紙キレのようデス!!」
「嫌な感じがするわ!とにかく動きなさい、ポンコツ!!」
「――遅いな」
高速で飛来したカードのようなモノが藍銅のプロテクタに刺さったかと思うと爆発した。小さな爆発だったが静止体勢を崩すには十分な衝撃で藍銅の身体が傾き落下しかける。慌てて飛行体勢に移行して身体を持ち直そうとする。
上空を見上げると3つ目の魔力の持主、仮面を着け司祭服を纏った者が空中に浮かびながら両腕を組み、こちらを見下ろしている!
「ヤラれる前にヤッちゃえ、ポンコツ!」
「アイサ!!」
そう叫ぶと藍銅は腕部のプロテクタを変形させて出現させた8つの銃口を敵に構えるや否や、射撃を開始する!8つの銃口は凄まじい速さで回転しながら弾を発射し、薬莢を排出していく。
「意外とハイスペックなロボ子?とにかく良い感じよ!!」
「全弾発射なら任せてクダサイ!」
「いやいやいや、弾切れはマズイから待って!やっぱりポンコツじゃん!!」
放っておくと全弾発射し終わるまで射撃を続けそうな勢いの藍銅に慌てて待ったを掛ける。
敵の周辺で煙が上がるが直撃したか分からない。未流は注意深く魔力を探索するが、煙の上がる場所には敵の魔力は検知されない。
「ふっ!何処を狙っているのですか?」
探索していた場所と全く逆の位置から司祭服の男が現れ、先ほど同様にカードを投げつけて攻撃してくる。今度は2,3枚刺さったのか、先ほど以上の爆発の衝撃が二人を襲う。
「ポンコツ、逆よ!!」
「アイサ!」
崩した体勢を整えながら腕のガトリング銃を構え直して発射する。だが先ほどと同じく敵に当たった手応えが感じられない……
「おかしい。奴は移動している。だが移動した素振りが見えない。一体、どうやって??」
風で銃弾が巻き起こした煙と先ほどから飛来する紙キレが流れていく。
(紙キレは武器じゃない?なら何で不必要にばら撒くの?税金じゃあるまいし)
高高度の上空から見ると雲の海は遥か真下。遮るものが無い月の明かりが私たちと紙切れを照らす。
(光?照らす??)
「ポンコツ、分かったわよ!月よ、月の明かりよ!」
「月の明かり……、ソウカ!月が綺麗ですネ!?」
「告白かよっ!!ちげーよ、《《影》》だよ!!ですわ!」
未流のヒラメキを藍銅に伝える間もなく次の攻撃が藍銅のプロテクタに直撃して爆発する。小さなダメージだが徐々に蓄積されていき、少しづつ藍銅の装甲を破壊していく。敵は小さなジャブを繰り返しながらリスク少なく確実に仕留めるタイプなのだろう。
「クッ!チクチクと厄介な敵だ。ポンコツ、大丈夫?聞こえて?」
「装甲能力50%まで低下。若干、厳しいデス!」
「ジリ貧ね、何とかしないと……」
藍銅の兵装の隙間から周囲を確認する。相変わらず紙キレが間断なく降り続く。風は止む気配が無く、紙キレを運んでいく。時折、吹く向きを変えて……
「そうか、分かったわ!!良く聞いてね、ポンコツ」
「アイサッサ!」
「恐らく敵は月の影を使って瞬間移動しているのよ」
「ヤダナ、こんな上空に影なんてないデスヨ〜」
「だから聞けよ!だからポンコツなんだよ!この紙キレに影ができるんだよ!!ですわ!」
「おー、そういうことデスカ?でもソレが分かっても一体、どの紙キレの影に現れるヤラ」
「風が吹いた後を狙うのよ!クッ!!」
作戦会議の間も敵の攻撃は止むことが無い。また刺さったカードが爆発して藍銅はダメージを受ける。表情の乏しいアンドロイドだが、兵装を見れば蓄積したダメージが深刻なレベルになりつつあることが伺える。兵装の防御力の限界も間近だろう。
「次に風の向きが変わった時、紙キレが流されてひとまとまりになる瞬間がある。その時、その場所に全弾発射よ!いける、ポンコツ!?」
「アイアイサッサ、アイサッサー!」
爆煙が晴れて藍銅と司祭服の男が対峙する。
「くっくっく!そろそろ限界ですかね?他にやることがあるので次の現場に向かいたいのですが」
「まあ、そう急がずに。早過ぎると嫌われますわよ?色々と」
「減らず口を!!」
ガトリング銃を発射した瞬間、カードが突き刺さり爆発する。先ほどと同じ応酬の繰り返し。だが……
風向きが変わり、紙キレが流れていく。周辺に拡散していた紙キレが風によって纏まってしまう。
藍銅はその瞬間を逃さない。光背に生えた複数の鉄柵が一斉に紙キレの方向を向く。鉄柵の尖端が微細な光を吸い込んだかと思うと一気にレーザーを射出する!
放たれたレーザーは目標地点に到達する前に拡散し、狙いを広範囲に捉える。紙キレの影から現れた瞬間に直撃すれば……
「なるほど、良い作戦ですね」
藍銅の背後から司祭服の男の声が聞こえる!
「確かに影を使って瞬間移動していましたが、飛行することもできるのですよ。スキができれば気付かれないものです。ほら?」
「しまった!避けろ、ポンコツ!!」
だが藍銅は腕部のプロテクタに仕込まれたブレードを抜き、振り向きざまに斬り倒そうとする。狙った通りのモーションで振り向いたが、敵の姿は無くブレードは空を斬るだけだった。
「ちぃ!折角のチャンスだというのに!!」
司祭服の男がそう叫ぶと身を翻して下方に向かって飛び去っていった。
あとには傷ついた藍銅と未流だけが残されていた……
「あ、危なかったーー!大丈夫、ポンコツ?」
<自動修復限界到達!Aliceシステム、緊急シャットダウン開始>
藍銅は急に静止すると、そのまま落下を始めた!!
「んぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!」
高高度上空に未流の叫び声が虚しく響くのだった……




