第47話 恋に抜け駆けは禁物?
――穏やかな朝、舞金小の通学路
うろこ雲が広がる空模様の朝、鈴偶智優、神埼栞、野伊間詩芙音、安蘭未流の仲良し4人組はいつものように揃って登校した。
詩芙音は週末、烏丸山ハイキングで起きた出来事に興味津々の様子だ。
「えー、超楽しそうなイベントだったんだねー。私も行きたかったよぅ!」
「また今度、一緒に行こうよ!その時までには栞ちゃんも運動不足を解消して山登りできると思うからさ」
「もー、智優ちゃん!一言多いよ〜」
笑いながら週末の話をする三人の横で未流は必死にスマホをタプタプしている。一体何をそんなに夢中になってイジってるのだろうか??
「結局、藍銅ちゃんは東彦オジサンのところに引き取られたんでしょ?体調大丈夫だったのかな〜」
「うーん、食べ過ぎって云ってたから消化できれば大丈夫、なのかな?智優ちゃんは何ともなかった??」
「うん!家に帰った後、藍銅ちゃんが心配でお腹が減ったから駆兄ぃの分まで夕飯食べたら本気の喧嘩になっちゃった。あっはっは!」
「さ、最近の智優って異常に食べるよね……」
「育ち盛りってやつだね!」
「その割に育たない部位があるのは個人差だから仕方ないね。あは☆」
「!!!」
気にしているところを突かれたのか智優は胸やお尻をペタペタ確認するが、ペタペタであることに変わりない! 智優の手を握り締めた栞は悟りを開いた賢人のような笑顔を作って頭を横に振るのだった。
(うーん、ひょっとして私の魔力を維持するのに暴飲暴食が必要なのかな〜。智優ちゃんって面白い素材だわ)
狭い通学路の横をいつものようにダンプカーが通り抜ける。つい先日、智優が危ない目にあったというのに通学路の改善は一向に進まない。またいつか事故が起きるのではないだろうか?
「ねー、未流ちゃん。歩きスマホは危ないよ」
「そうそう。学校に着いてからやれば良いじゃない?」
智優と栞の言葉に視線を上げた未流の目は半開きで充血して虚ろで、ひと目でスマホのやり過ぎだと分かるような状態だった。ゲームはほどほどが一番!スマホだったらWeb小説を読むべし!!
「……あと少し。マンアカまであと少しよ……」
「マンアカ??何ソレ?」
「まあまあ。私たちが周りに気を付けてあげればいいじゃない。だから大丈夫だよ、未流!」
「は、はい!詩芙音姉さま!!私、姉さまのために頑張りますわ!!」
「へ?詩芙音ちゃんのため??」
「あは☆未流ちゃん、何云ってるか良く分からないね、智優ちゃん!!」
狭かった道が徐々に広くなり舞金小の校門に近づいていった。校門を見ると信号機を思い出すようなカラフルな色立ちの女の子がランドセルのベルトに指を掛けて立っている。その表情には先日の苦悶は微塵も感じさせない、向日葵のような笑顔だった。
「あ、藍銅ちゃんだ!おーい!」
そう叫ぶと智優は藍銅の方へ駆け寄っていった。
「智優ちゃん、おはようデス!」
「藍銅ちゃん、おはよう!もう身体、大丈夫なの??急に倒れるから心配しちゃったよ〜」
「博士にメンテナンス……、げふんげふん。東彦おじさんに看病して貰ったから大丈夫デス!」
「そっかー。元気そうで安心したよ!」
お互いの両手を掴んでクルクル回る智優と藍銅。そこに栞が追いつく。
「藍銅ちゃん!心配したんだよ!!」
「栞ちゃん、ご心配をお掛けシマシタ」
「元気そうで良かった〜」
「また恋データを採取……、げふんげふん。また一緒に遊んでネ!」
「恋データも遊ぶのもウェルカムよ」
5人が教室に着くとクラスメイト達が落ち着かない様子でヒソヒソ話をしている。昨日から辻村拓人が行方不明になっている話題で持ち切りだった……
――放課後の旧校舎、準備室前の廊下
鳥海佳苗はスカートの裾を握り締めて準備室の扉を睨んでいる。持てる握力いっぱいに握り締められた裾は汗で湿り気を帯びて皺くちゃに近い状態だった。
部屋の扉には毛筆で『恋占いはじめました☆シフォン』と書いた札が下がっている。佳苗が聞いて回った噂と寸分に違わない。シフォンが《《四柱推命占い》》をやっているのはココだろう。
今は16:50を過ぎた。このまま16:51に扉を開けばシフォンがいるに違いない。
16:51、イロコイ、色恋……
出来の悪い冗談のような語呂合わせ……
『《《完璧必中の恋占い》》』も悪い冗談なのだろうか?
佳苗は鈴木一が好きだ。相対的な価値、学年中の男子と比べて誰よりもイケメンだから鈴木が好きなのだ。
そして佳苗は知っている。女子グループの頂点に君臨する女王、木村朋美も鈴木一のことが好きだということを。
木村朋美に逆らい抜け駆けすることは非常に辛い結果を招く。たとえ万に一つの可能性で鈴木一のハートを射止めたとしても、その後に受ける女子グループからの攻撃には見合わないだろう。
群れの中に自分の居場所を求めた者は保護を約束される代わりに同調圧力を強制される。その圧力は往々にして強者が決める。強者の不興を買えばどうなることか。群れに生きる者の定めと覚悟して鈴木一への恋は諦めていた。
だが転機は訪れた!
あの女王陛下が鈴木一への「恋」を忘れたのだ!今ならば女王陛下を出し抜いて鈴木一のハートを射止めることができる!そんな根拠のない妄想が佳苗を動かし、恋占いの部屋へと導いたのだ。
(もしも噂通りだったらシフォンちゃんに占って貰って魔法のアイテムで鈴木を落とすことができるわ!でも噂通りじゃなかったら?噂が不完全だったら?)
時計を見ると長針が51分を指したところだった。佳苗は占い係の扉のノブに手を掛け回し始める。
(あれ?おかしくない??そもそも占いで恋の行方が決まることなんて……、無いよね!!)
当たり前のことに気付いた時にはノブは回り切り扉が開き始めていた。扉を閉めて立ち去ろうと抵抗したが、既に身体は思い通りに動かず、扉の中へ進んでいる。
(!!!)
声を上げたくても声帯を震わすことができず、視界は霞がかり、意識が濁っていく。そして背後でガチャリと扉の締まるの音が聞こえた……




