第45話 コミュ障のミステリィな恋
――お昼休み、舞金小6-2教室の女子グループが集う一角
鳥海佳苗は困惑している。
先日から女子グループのリーダー格、木村朋美から刺々しい態度が消えて丸くなってしまったのだ。今まで誰彼構わず放たれていた敵意が全く無くなり、とても穏やかで老成してしまったかのような振る舞いだ。
もしや鈴木くんと付き合うことになったのでは!?いやいや鈴木くんも人の子、朋美のような容姿と中身の女子と付き合うくらいなら他にもっとマシな女子は幾らでもいるはずだ。第一、鈴木くんはモテるのだから付き合う女子なんて選り取り見取りのはず。じゃあ、何が起きたというんだ。
いつものように机を寄せて女子トークに華を咲かせる中で朋美はニコニコしながら佳苗や、もう一人のメンバーである須藤美波の話に相槌を打っている。付き合いやすい朋美は、はっきり云って不気味だ。
「あはは!8TSが解散したら次はどんなアイドルが来るのかな?」
「次もK-POPじゃない?歌もスタイルもクォリティ高いし」
「もー、男は見た目じゃないっしょ?」
美波の意見に綺麗事を返す朋美。
今まで見た目を重視してアイドルやら好きな男子を追い掛けてきたのに、一体どういう宗旨変えなのだろうか?私は思わず聞いてしまう。
「でもでも、朋美ってイケメン好きじゃん?やっぱアイドルもイケメンっしょ?」
「やだ〜、私ってば顔に拘らないよー。やっぱ男は中身が大事なんじゃない?どっかに良い男でも転がってないかな?」
「中身は分からないけど、男ならほら。クラスにも転がってるっしょ?」
「だから外見より、な・か・み!クラスの男子の中身なんて多寡が知れるわ」
ケラケラ笑う朋美から嘘っぽさやわざとらしさは感じられない。だが、目の前にいる朋美は先日までの朋美とは違う人。偽物っぽいのだ。
「ね、ねえ。じゃあイケメンの鈴木くんなんてどーよ?顔良し、勉強良し、性格良し、文句なし?」
「あー、パスパス。顔は良いけど絶対、女子を泣かすタイプだわ」
「え?朋美って鈴木くん推しだったはずじゃ……」
「ぷっ!何それ、ウケる。あんな顔だけで中身が薄ペラの男なんて眼中にないわ」
「朋美、云い過ぎ〜。鈴木くんに聞こえちゃうよ」
「聞こえたらどーよ?」
爆笑する朋美と美波に合わせて私も笑うが背筋に嫌な汗が滲んで止まらない。
だって朋美が鈴木くんに熱愛中だったの、隠してても私にはバレバレだったもの。そしてこんなにあっけらかんと受け流せるほど、朋美は器用じゃない!
「ん、どーした佳苗?顔色が悪いよ??」
「何でも無い。給食が合わなかったかも」
「大丈夫〜?保健室に行くなら付き合うよ」
「んーん、大丈夫……」
「ところでさ、朋美っち」
「どした、美波っち?」
「こないだ野伊間さんの占いのこと、聞いてたじゃん?あれから行ってみたの??」
「え?占いって何の話だっけ?」
「もう、忘れてるよ。折角、教えたのにヒドイな」
両手を合わせてペコちゃんみたいに舌を出す朋美。あの朋美が人から聞いた話を忘れるはずがない。何故ならいつでも揚げ足を取れるように人の言動は逐一覚えているからだ。ましてこの女子グループの中のこと、絶対に忘れるはずがない。
「占いって興味あるけど占って欲しいようなこと、ないしな〜。でも野伊間さんと仲良くなりたいから占いごっこに付き合ってもいいかもね」
「れ、恋愛とかは?」
「ナイナイ。先ずは相手探しだわ」
「鈴木クンがダメなら、あそこの辻村拓人はどーよ?『かしこ』だから中身も詰まってるんじゃね?」
陰キャの辻村は指さされてから、ちらりとコチラを見て、すぐに読んでいた本に視線を落とした。顔もスタイルもソコソコ良いのに暗い性格じゃどうにもならないかな。
「中身って勉強できる頭のことじゃないから!ほら、もっとあるでしょ?王子様的なやつ」
――待てよ。
先日、野伊間さんの占いのことを聞いてから、この変容ぶり。まさか占いで何かあったのでは??ちょうど良い。私も気になる男子がいるから野伊間さんの占い係、行ってみるか。
そういえば最近、何だか噂の内容が変わってた気が……
――同時刻、同場所
向こうの席で女子たちが煩い。自分のことが話題になったようなので思わず顔を上げてしまったが、相手は木村朋美が率いる女子グループ。触らぬ神に祟りなし、読書を再開して自分の世界に戻ることにした。
「ねえ、辻村くん。今、話し掛けても大丈夫?」
「ああ、神埼さん。大丈夫だよ」
前の席に座りキューティクルが輝く髪をかき上げながらこちらの様子を伺う美しい女子。クラスのアイドル、神埼栞だ。
「先週末は色々とゴメンね、迷惑掛けちゃって」
「色々とあり過ぎて何を指して迷惑と云っているのか分からないけど、多分大丈夫だよ」
「もうイジワルな云い方。もっと素直に云えないのかな?」
神埼に指摘されるまでもなく、自分の態度や話し方に問題があることは承知している。そして、だから他人と上手く付き合えないことも……
「で、どうしたの?」
「ちょっとね。引っ掛かることがあって」
神埼の中で引っ掛かること。それは俺の中でも引っ掛かることと同じだろう。週末から心に刺さって抜けない棘のようなこと。
知性的な神埼の瞳が曇っていることが分かる。俺は心配されているのか。
「私ね、辻村くんは智優ちゃんのこと好きだって聞いてたからソレを信じて応援しようと思ってた。本当だよ。だって《《恋愛はフェアに勝負したい》》じゃない」
「うん」
「おかしいなって思ったのは有栖川東彦さんの恋データ収集の件」
「あれな。勝手にデータ取るなんてヒドい話だよ、全く」
「ううん、データ云々はどうでも良いの」
正面に座る神崎は真っ直ぐ俺のことを見つめている。話の続きを聞く前にこの場所から逃げ出したい気持ちで一杯だ。
「最近、智優ちゃんの件で私と話すようになったじゃない」
「うん」
「私ね、辻村くんって他人と話ができない人なんだと思ってた。でも私が話し掛けたら会話、できてるよね」
「……うん」
「智優ちゃんって困ってる人、助けちゃう王子様じゃない。だから孤立している辻村くんを助けようと話し掛けてくれたでしょ?」
「知ってる」
「あのね。有栖川さんの恋データ収集、辻村くんのデータは取れてないって」
一瞬の沈黙。
聞こえていたクラスの雑音が消え、静寂となる。他人の声が聞こえなくなる俺の処世術。
「本当に辻村くんは智優ちゃんに恋をしているのかな?」
俺は神埼の言葉を聞き終わる前に本を閉じ、ユラユラと教室から出ていった……




