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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第3章 どきどきスウィート☆シフォン
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第43話 聖地巡礼からの帰り道で

――夕方、防弾仕様のファミリーカーの中


 俺のコードネームは赤城あかぎ

 とうの昔に戸籍を捨てた戦場の兵士。



 結局、俺は子どもたちが帰宅するまで付き添うことになった。運転席からバックミラーで後ろの席を見ると鈴偶りんぐう智優ちゆ神埼かんざきしおり辻村つじむら拓人たくとの三人が疲れ果てて眠っていた。神埼と辻村に挟まれた鈴偶が寝苦しそうにウンウン唸っている。


 遠足の途中、有栖川重工業のアンドロイド試験機とマッド・サイエンティストに振り回された感があるが山登りを楽しむことができたのだろうか?ああ、今は聖地巡礼とか云うらしいな。一般人を止めて暫く経つが山登りの呼び方も変わるなんて不思議な感覚だ。


 今、有栖川重工業の研究所を出て三人の自宅に向かっている。車道のすぐ横には研究所の高い壁が何キロも続いている。監獄のような高さの無機質な壁が延々と続いているため、非常に圧迫感があり普通ならば息苦しい感覚を覚えるだろう。


 壁の向こうは射撃試験場となっており、壁は誤射した弾が当たっても貫通しないように衝撃緩衝材が何十層にも埋め込まれている。壁の向こう側を知っている人間としては新型徹甲弾が間違って貫通してこの車を直撃しないことを祈るばかりだ。幾ら防弾仕様でも、まあ新型徹甲弾は防げないだろう。


 研究所を出る直前のこと。


 マッド・サイエンティストこと有栖川ありすがわ東彦はるひこは子どもたちに有栖川ありすがわ藍銅あずと仲良くしてくれることと、研究所の来訪に感謝の意を伝え、握手を求めていた。


「いやー、今日はわざわざ私の仕事場まで来てくれてありがとう!うちの藍銅に良い友だちがいることが分かって安心したよ!」

「――藍銅ちゃん、大丈夫かな?」


 上機嫌の東彦を他所に子どもたちは友だちのことが心配な様子だ。


「おじさんがメンテナンス……、げふんげふん。看病しておくから安心だよ。月曜日には元気な姿で学校に行けるからさ」

「まだまだ藍銅ちゃんに説明してないこと、たくさんあるんです。おじさん、藍銅ちゃんのこと宜しく頼みますネ!」

「ハ・カ・セ!ヨロシク〜!!」


 きちんと相手をみて丁寧な口調で話す神埼に比べて鈴偶の砕けた口調が荒いこと、荒いこと。同じ女の子とは思えない違いだ。ん?同じ女の子……、で良いんだよな??


「女の子だよ!とりゃ!!」


 俺の視線に勘づいたのか正拳突きを繰り出しながら自己主張するが、アッサリと受けて手を捻る。いかん、身体が自然に動いてしまう。


「痛たたたた!!赤城おじさん、ギブギブ!!」

「あっさりギブするくらいなら攻撃するな」

「だっておじさん強いからさ〜。つい戦いたくなっちゃうんだよね」


 捻られた痛みで悲鳴を上げてたかと思うと今度はニコニコしながらキック、パンチを空振りしている。


 不思議なものだ。戦場しか居場所がないはずの俺が、スッカリ子どもに懐かれてしまった。鈴偶を見ていると自分に息子がいたらと思ってしまう。失礼。娘がいたらの間違いだった。



「じゃあ、赤城くん。彼らを家まで送っていってくれるかな?」

「あ、あの!」

「おや、どうしたのかな?辻村くん」

「先ほど恋のデータを採取しているって云われたじゃないですか」

「ああ、あの話か。まあ話半分で理解していれば良いと思うよ」

「実際、良いデータは取れているのでしょうか??」

「うん、それは心配ない。ログを見る限り順調。思惑通りだね」

「そ、それは僕のデータも?」

「いやデータは神埼くんが中心だな〜。君のは無かったはず」

「……」

「まあ、データ検出も完璧じゃないからね〜」


 東彦の答えを聞くと浮かない顔で俯く辻村だった。神崎は不思議そうな顔で辻村のことを眺めているが鈴偶は話も聞かずに大あくびの様子。勝手にデータを取られるのは不本意だろうが、何か心配事でもあるのだろうか?


 有栖川重工業の社用車、防弾仕様のファミリーカーに乗り込む。車内から外を見ると左手を白くない白衣のポケットに突っ込み、右手をヒラヒラと振る東彦が見える。子どもたちは窓を開けて東彦に手を振り、別れを告げた。


 車が走り始めると東彦の姿はどんどん小さくなっていったが、それでも東彦は手を振り続けていた。何というか、都市伝説の怪談に出てきそうな幽鬼を思い出すような姿を思い出したのだが、子どもたちの目にアレはどう映るのだろうか?



 車が走り始めて子どもたちが寝た後も俺は運転を続けた。


 柄にもなく行楽地から帰る父親のような気分になった。もしも色々な偶然が違う分岐をしていたら、俺も普通に暮らして所帯を持って家庭に収まり、子供ができて家族サービスなんてしたのだろうか?


 いやいや似合わない想像だ。俺には戦場と戦友が似合っている。早く新人歓迎会に合流して手羽先を食べなければ。



 辻村、神埼の二人を家に送り届けると最後は鈴偶の家へ向かった。神埼の家に近かったためすぐに到着した。


「おい、鈴偶。到着したよ」

「うーん、むにゃむにゃ。まだ食べれるぞ〜」


 声を掛けても起きる様子が無いので仕方なく車を降りて後部座席に移動し、鈴偶の肩を揺さぶった。


「おい、起きなさい。家だよ」

「むにゃむにゃ……。ん、あれ?パパ?」

「パパじゃない、赤城だ」

「むにゃ……、パパだっこ」

「こら!!」

「ぴっ!」


 軽くデコピンしたらビクッとして起きておデコを押さえている。


「ひーん、痛い……」

「あ、すまん。やり過ぎたか?」

「女の子の起こし方じゃないよ!ぷんぷん」

「ははは。すまんすまん」


 文句を云いながらデイパックを背負って車を下りる鈴偶。


「でもでも。赤城おじさん、今日はありがとう!」

「うん。お風呂に入って汗を流してゆっくり休みなさい」

「分かった!じゃあ、またね!!」


 お互い腕を上げると拳を軽く当てて挨拶をした。疲れも感じないような明るい笑顔だった。


 防弾仕様のファミリーカーの運転席につくとエンジンを掛ける。外では鈴偶が両手をブンブン振って見送っている。窓を開けて手だけを出して振るとゆっくり車を走らせ始めた。


 生活の明かりが灯る住宅街を抜けて国道に出るとソコは商業施設のギラついたネオンが煌めいていた。信号待ちで車が止まるとバックミラーに映った自分の表情が緩んているのに気付く。


(パパか……。ふっ、悪くないな。だが叶わぬ夢を望むなよ)


 信号が変わると俺は新人歓迎会の会場『セカイの邪馬やまちゃん』へ向かってアクセルを踏み込むのだった。

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