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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第3章 どきどきスウィート☆シフォン
40/90

第40話 赤城VS智優、運命の5分

――烏丸山頂上、有栖川セキュリティサービス、エンゲージ地点


 俺は子どもが苦手だ。泣いているならば尚更だ。だが大人として事態の収集に努めなければならない。それが本来の業務範疇テリトリーを超えていたとしてもだ。


 有栖川セキュリティサービス、通称ASSの窓際部署、異形対策係が緊急出動した理由が分かったのは烏丸山で泣いていた子どもたちを輸送ヘリに収容し、有栖川重工業研究所へ移送した後のことだった。今は内心、疑問符が湧き上がるのをグッと抑えてプロらしい行動を取るのだ。



「赤城少佐、ポイントから若干外れましたが全員無事に着陸を終えました。状況を開始します」


 骨伝導スピーカーから加賀チーフ淡々とした報告が入る。


「了解。私もポイントへ向かう。おい、メンバー聞こえているか?」

「「「「「「はい、少佐!」」」」」」

「遠足は始まったばかりだ。ポイントで元気な顔を見せてくれ。くれぐれも遠足途中の山道には気を付けるんだぞ」

「「「「「「ラジャ」」」」」」

「加賀チーフ」

「はい、少佐」

「新人のサポートを頼む。まだ新人歓迎会が終わってないからな」

「そうでしたな、がっはっは!では後ほど」


 加賀チーフの豪快な笑い声が響くと無線が切れた。パラシュートを切り離し、降下用ジャケットを脱ぎ捨てるとゴーグルデバイスに表示された情報を確認する。自分の位置からターゲットまで約1km、周辺に敵対勢力の反応は無し。他の隊員の位置を確認するが、どうやら自分の場所が一番ターゲットに近いようだ。


 背中に手を回し、腰に備えた巨大なマチェットナイフを抜いて構える。木の枝などを薙ぎ払うための装備だ。静かに深呼吸をして呼吸を整えた後、素早く走り始めた。マチェットナイフを器用に振り回しながら走る技術はレンジャー隊にいた頃に身に着けた技術だ。芸は身を助ける、最もなことだ。


 進路に付き出した枝を薙ぎ払いつつ、小走りに進行を続けていると林の木々に邪魔されて途切れていた日差しが差し込む場所に辿り着いた。そこには……


 異形などという得体の知れないモノは無く、泣いている少女とそれを支える少年、そして倒れている《《少年》》と少女らしきモノの4人がいるだけだった。


 私はマチェットナイフを腰の鞘に戻すと少年、少女たちに話し掛ける。


「おい、君たち大丈夫か?」

「ひっく、ひっく、友だちが大変なんです。あそこ。助けて下さい!」

「あ、あの。急に同級生の女の子が泡を吹いて痙攣してしまって……」


 少年の指さした先に横たわる少女らしきモノを見る。ゴーグルデバイスで照合すると間違いない。有栖川重工業製アンドロイドの試験型、我々が保護回収を命じられたターゲットだ。


 アンドロイドに近づき状態を確認したが口から吹き出した泡は収まっており、たまに軽い痙攣をするくらいで沈静化しているようだった。


「君たち、彼女のショック症状は収まりつつある。大丈夫そうだよ」


 それを聞いた先ほどの少年と少女はホッとしたような表情に変わったが、すぐに慌て始めた!


「お、おじさん、それ本物の銃じゃ!?も、もしかして……」

「あー、慌てないように。君たちに危害を加えることはしない」

「もしかして自衛隊ですか??」


 ずこーーーーーっ!!!


 救急車の前に自衛隊が派遣されるものか!?内心ズッコケながら、だが余計な混乱を招きたくないので似たようなものだと説明して納得してもらった。


「ところで君たちは?」

「私は神埼かんざきしおり、舞金小6年生です」

「俺は辻村つじむら拓人たくと、同じく舞金小6年生……」


(小学6年生というと12歳か。もし私に子どもがいたら……)


「うん。私が到着したからには安心して欲しい。近くに着陸した仲間もすぐに合流するからね!」

「……はい」


 安心したのだろうか。栞と名乗った少女は再び両手で顔を覆うとすすり泣きを始めた。拓人少年の方は努めて冷静を装い、辺りを見ながら情報収集しているようだった。



(ん?ターゲットの横にもう一人いるぞ……)


 俺はターゲットの近くに倒れている《《少年》》の安否を確認するために、軽く肩を叩きながら揺さぶってみる。


「少年!少年!大丈夫か?助けに来たからもう大丈夫だぞ!聞こえるか、少年?」

「わ……」

「わ?」

「私は……だーーー!!!」


 ツンツン髪の少年はガバっと起き上がると俺に向かって叫ぶのだが肝心の部分が聞き取れない。全く年は取りたくないものだな。


「ああ、すまない少年。私も慣れない任務で動転しているのだ。まあお互い落ち着こうじゃないか」


 少年は端正な顔を真っ赤にして拳を握り締めている。なるほど!少年は私の格好に憧れて叫んだんだな。分かる!分かるぞ、少年!確かに子どもの時は兵隊ごっこに憧れるものだ。本物が目の前に現れたんだ。感動も一入ひとしおだろう。


「憧れの兵隊に興奮するのは分かるが先ずは落ち着こう、少年よ!」


 私が少年の肩を叩こうと近づいた瞬間、少年が拳を繰り出す!殺気を感じた私は無意識に防御の姿勢を取る!身体に染み付いた戦いの習慣が身体を動かすのだった。


 鋭い右拳の突きをガードすると間髪入れず左拳の突きがガードに刺さる。とても少年とは思えない力に姿勢が崩れそうになるのを耐え、更に繰り出された右拳の突きを受け止める。


 三連撃が終わったかと思うと少年が背中を見せる。まるでスケート選手のように回転しているのだ。遠心力で反動を付けた最後の蹴りが水平の弧を描き、私に炸裂するが……


「ふん!!」

「あ!」


 少年の蹴りをガードして、脇にガッチリと抱えるとそのまま柔道の受け身を取るように身体を回転させて少年を地面に叩きつけた!ドラゴンスクリューだ!!


「痛ーーーーーーっ!ひんひん!!」


 少年の、少女のような甲高い声が辺りに響く。


「なかなか良い!機関車のようなコンボだったぞ、少年!」


 地面で頭を抱える少年に手を差し伸べると、強く跳ね除けて私を睨み叫ぶ。


「私は女の子だーーーー!!!」

「へ?」


 やっと肝心なところが聞こえた。やれやれ年は取りたくないものだ。へ??


 あっという間の攻防は約5分。私と彼女の運命の5分だった。



 有栖川セキュリティサービス 異形対策係のメンバーが到着するまで少年のような少女、鈴偶りんぐう智優ちゆの文句を聞く羽目になった。娘ほども年の離れた少女に両手を合わせて謝るうちに、次第に打ち解けて親しくなっていくのだった。それは拳を合わせた人間同士が共有する絆のようなものだろうか。


「少佐、遅くなりました」


 他メンバーと一緒に合流した加賀チーフが私に語り掛ける。


「問題ない。ターゲットはそこでスリープ状態だ。輸送ヘリを回して研究所へ戻ろう」

「その子たちは?」

「ああ、ターゲットの学友のようだ」


 私と加賀の会話を聞いていた栞が心配そうに訴えかける。


「あの!藍銅あずちゃんは大丈夫なのでしょうか!?」

「これから緊急搬送して手当を行う。先ほど生体反応を確認したが命に別状は無い。だから安心して欲しい」

「良かった!じゃあ、また一緒に遊べるってことですね」


 私は保証できないことは応えない主義だ。復帰は間違いないだろうが、沈黙を持ってやり過ごした。


 輸送ヘリへ格納が終わり、残された少年少女たちへ別れを告げ、有栖川重工業研究所へ飛び立とうとした、その時……


 ざー……

「アルファからオレンジへ」


(アルファ!?研究所の本部から通信!)


「こちらオレンジ、どうぞ?」

「そこにいる少年少女はAIの学習データの採取対象だ。確認したいことがあるから一緒に研究所へ帰投するように」

「民間人ですよ?」

「民間人でも、だ」

「……。ラジャ」


 でっかいタンコブができた智優の肩に手を添えると不思議そうな顔で私の方を見返した。


「すまない、やはり藍銅さんの件で一緒に来て欲しい……」

「藍銅ちゃんのことだったら喜んで!大切な友だちだからネ!!」


 もう少しだけ、この少年と付き合いが続くようだ。痛っ、防弾スーツの隙間からつねるな!

 ああ失礼、少女だった……。てへぺろ。


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