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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第3章 どきどきスウィート☆シフォン
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第36話 烏丸神社と水干装束の男

――JR烏丸山駅からすまやまえきから続く古戦場の狭路


 JR翔北線の舞金駅を出発して約50分、今は朝8時を過ぎた頃だ。烏丸山駅の改札を出ると4人は澄んだ空気を肺一杯に吸い込んだ。烏丸山駅は雰囲気のある田舎風景にポツンと在り、辺りを見渡すとセブン・レイブンと土産物屋が1軒づつあるくらいだった。


 土産物屋には『鬼國蒐集きこくしゅうしゅう』の大きなポスターが貼られ、プラ製の等身大のキャラクター看板が立っている。店頭はグッズやお菓子がずらりと並び、入口横にはスタンプ台が置かれており腐女子さま達が御朱印を希望して殺到していた。


 田園の中にポツンとポップカラーのアニメショップ(土産物屋)が建ち、不思議な格好の大人が群がっている。古戦場の歴史の趣き、山の持つ神聖さに比べて違和感MAX、シュールこの上ない情景だった……



 4人は烏丸山駅を離れ、駅すぐ近くから烏丸山に向かって伸びる狭路を進む。左右は急な崖に挟まれており、崖の表面には地層が見えていた。崖は頂上まで100mほどあり、地上から見上げても頂上の様子は伝わってこない。


 平安時代の反乱者、宇部そらべの兼頼かねよりはこの崖の上に潜み、藤原家の行軍を奇襲するつもりだったのだろう。本隊を強襲し、すぐに大将首を討ち取ることができたならば藤原軍は総崩れとなり寡勢でも勝利を掴めたかもしれない。だが結果は歴史の通りである。


「うーん、やっぱり空気が新鮮で自然って良いわ〜。ねえ、智優ちゆちゃん、藍銅あずちゃん!」


 神埼かんざきしおりは手を上げて伸びをしながら身体を曲げてストレッチしている。


「わー、すっごい崖!自然に削られてできたのかなー」

(ピッ!地層解析機能、起動!)

「ウーン。大昔にできた爪痕みたいデスヨ」

「え?何の爪痕!?恐竜でも抉れる大きさじゃないよ??」

「サ〜、Aliceシステムの解析機能ではそこ迄ハ……」

「Aliceシステム??」


 軽やかな足取りの女子3人の後ろから辻村つじむら拓人たくとがフラフラと着いてくる。重箱を包んだ風呂敷が重くて歩くバランスが取れないのだ。


(まっ、た、く!男はつらいよ、寅さん、助けて……)


「ほら、拓人!のんびり歩いてるとハイキングの時間が無くなっちゃうよ!」


 鈴偶りんぐう智優ちゆは心配そうに拓人の傍に駆け寄ってきて声を掛ける。


「だ、い、じょう、ぶ!闘志、いっぱーつ!!」

「ぷっ!教室で黙ってる時より元気あるじゃん。普段からそれくらい活発でハメを外したらな〜」

「ん?」

「何でもないよ!ほら手伝ってあげる!」


 智優は拓人と向かい合う形で風呂敷包みを持ち上げる。それまで拓人1人でギリギリ持ち上がっていた荷物が2人の力で軽々と支えられる。


(あ、手が……)


 風呂敷を持ち上げていた拓人の手に智優の指が触れる。見かけや振る舞いのガサツさに反して女の子らしい細い指先が拓人の太い指の間に挟まる。


(……くすぐったい。けど……)


「ほら、もう少しの辛抱だよ。頑張った分だけご飯が美味しくなるから、頑張ろーよ!ありゃ?顔真っ赤だぞ。拓人、大丈夫か??」

「……だ、大丈夫、だ……」



 狭路を30分ほど歩くと烏丸山の入口に到着した。本来、山に入口なんてありはしないのだが烏丸神社に続く鳥居群の最初の一つが烏丸山にとっての入口なのだと訪れた者に感じさせた。


 山道といっても烏丸神社までは無骨な石階段が整備されており、草を掻き分けて獣道を登るような不便な状況ではなかった。ただ石階段とはいっても平らになっているわけではなく、大小さまざまな石の凹凸が段々となっているような有様で踏み外して脚を挫かないように気を付けて登る必要があるのだった。


 鳥居をくぐり山を登り始めると空気が冷たく感じる。見上げると鳶が上空を旋回してるのが見える。耳を澄ますと木々の枝が揺れる音や、近くの藪の中を動く獣の足音。


 先ほどまで元気良かった4人は黙々と登り続ける。狭路を歩いた疲れに加えて勾配のキツく安定しない段差の石階段を登るのが身体に負担を掛けているのだろう。みな時折、石階段の先を見上げてはゴールに近づいているか確認しているようだ。


 拓人は連なる鳥居を眺めて朱色の壁に囲われた迷宮に入ってしまったような錯覚に陥る。ちょっと先を見やると鳥居の影から狐の面を付けた妖かしがこちらを覗いてるんじゃなかろうか?


「うーん、いい具合に疲れてお腹空いた!絶対、お弁当美味しく食べれるって!」


 幻惑の世界から一気に引き戻される智優の言葉。横を見るとツンツン髪の爽やかな少年……、いや少女が汗を輝かせて微笑んでいた。


「ほら、栞ちゃん!もう少しで聖地だよ!!」

「……」

「ガンバレ、栞ちゃん。もう少しダ!」

「……」


 いかん。言い出しっぺの栞はエネルギー切れの様子。顔色は赤を通り越して青に近づいている。気のせいか息切れを通り越して、静か過ぎて呼吸しているのかも怪しい。


「か、神埼……、休憩する??」


 無言で首を振る栞。体力は限界近いようだが心は折れていない様子。その瞳には紅蓮の炎が宿っているようだった。


「こんなところで止まったら楓御前様に申し訳が立たないわ!(性別を)諦めずにアタックした恋力こそが楓御前様の真の力よーーー!!」


 ま、腐の炎だけどね。



 幸いにして腐炎が燃え尽きる前に一向は烏丸神社の辿り着くことができた。大きな注連縄しめなわを飾った最後の鳥居をくぐり平らにならされた聖域に入ると栞はその場に座り込んで下を向き微動だにしなくなった。


「栞ちゃん、お疲れ様!いやー、良い運動だったね!!」

「ヲッ、聖地に着いた嬉しさで声も出ないカ??」

「だ、大丈夫だよな?神埼??」

「……」


 返事がない、ただの屍のようだ……

 腐の人だけに腐乱屍体か……



「おやおや、これは珍しい」


 動けなくなった栞をどうするか考えあぐねていると、神社の関係者だろうか?くすんだ色の水干すいかんを身に着けた青年が話し掛けてきた。


 背丈は180cmより上。彫りの深い顔で頬はけていたが、体格はがっしりとしている。朗らかな笑みを浮かべていたが、少し威圧感を感じるような重みのある声色だった。


「その子は大丈夫なのか?」

「ええ、少し休めば大丈夫だと思いますが、急に山登りなんてしたからバテちゃったんだと思います」

「……運動不足」

「生体反応確認、単なる疲労デース!」


「ふむ。これ、大丈夫かの?」


 そういうと男は栞の肩に触れて大事ないか確認する。だが、男の手が触れるや否や稲妻が落ちたように急に立ち上がる栞。


「貴様は鬼となった英霊、宇部兼頼!鬼恋丸榛綱おにこいまるはるつなよ、私の恋力で悪鬼を切り給え!!」


 叫び終わると電池が切れたように境内に倒れる栞だった。


「ふむ、元気が良いの。生きている証拠じゃ」


 呆気に取られた3人は動くことができなかったが、男は倒れる栞を素早く支え、お姫様抱っこで抱え上げるのだった。


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