第34話 木村朋美の初恋ざまぁ
――放課後、舞金小の校庭の隅
これは昔からの言い伝えだ。
舞金小の校庭の隅っこには古い大木が生えている。樹齢は1000年ちょっとくらいだろうか?根本に立って見上げると大木の枝が広がり、お生い茂る葉が日差しを遮ってくれる。大木の下にはベンチがあり、夏は強い日差しから逃げるように子どもたちが集まってくる。
いつの頃からだろうか?こんな噂話を聞くようになった。卒業式の日に大木の下で告白して生まれたカップルは永遠に結ばれるのだと。
もしかしたら、この地に舞金小が建つずっと前から云い伝えられる伝説なのかもしれない。
ちなみに今日は卒業式ではないが告白を試みようとする輩が大木の下でソワソワしている。
木村朋美は緊張している。
普段は女子リーダーとして荒事を平然と成し遂げる剛腕の持ち主でも、今は緊張で少し汗をかいている。占いを頼り自分を勇気づけ、薬に望みを託して失敗の可能性から目を反らしても不安で仕方ないのだ。
何故、朋美は鈴木一を好きになったのか?ただ単に顔がカッコいいから。一の人間性なんて見えておらず、外見だけを見て好みだと判断し、好きになった。ただそれだけがキッカケの初恋だった。
朋美は自分の外見に自信がない。
他人を従わせるための威圧感が自分にあることは実感しているが、あわせて男の子を虜にする愛嬌は備えていないことも痛感している。どれだけ鏡の中の自分を見つめても神埼栞のような生まれ持った美と愛嬌には敵わないのだ。
そして鈴偶智優の行動力や清々しい美にも……
そんなコンプレックスを払拭するための初恋だったのかもしれなかった。
10分前に昨日、シフォンから購入した『完全勝利のモテ薬』を2本とも一気飲みした。開栓した瞬間に果物が腐る前に放つような甘い香りがしたが、口をつけると味は無く水を飲んでいるかのような飲みごたえだった。
(愛しの鈴木クンはまだかしら?薬の効果が切れないうちに告白しなければ……)
そんなことを考え、大木の表皮を見つめていると小走りに駆けてくる足音が聞こえてくる。振り返るとそこには朋美の想い人、鈴木一クンが。
「遅くなってゴメンね、木村さん」
「ううん、全然待ってないわ」
「あれ、今日の木村さん。頬が赤くて風邪っぽいのかな?でも何だか……、とても綺麗だね」
「え!」
朋美が一を見つめると、目が潤んでいることが分かる。普段の一くんからは覗えない表情だ。
(よし!このまま告るぞ!!)
朋美を見つめ、溜息をつく一。
(……)
下唇を噛み、羞恥に耐えるような一。
(……)
今にも朋美に大木ドン!しそうな一。
でも……
(あれ??何を告るんだっけ??)
朋美は大切なコトを忘れてしまった。
「ゴメンゴメン、鈴木クン。呼び出しておいて悪いけど用事を忘れちゃったみたい。また今度で良い?」
「!!!」
『完全勝利のモテ薬』の副作用だった。
初恋そのものを忘れてしまったのだ。
「やっば、みんな待たせてる!じゃ、鈴木クン。まったね〜」
呆然と立ち尽くす鈴木一。芽生えかけた恋心が昇華せずに消化不良の様子だ。だが……
「あっれー?俺、何でこんなトコに来たんだっけ?木村さんに呼び出されたような気が……。まいっか、あの子は範疇外だし」
首を傾げながら伝説の大木の元から去るのだった。
『完全勝利のモテ薬』の効果が切れた影響で前後の記憶を失ってしまったのだ。効果は本当に短い時間だった。
朋美の初恋は誰にも知られることなく、本人も忘れて消えてしまうのだった……
――少し時間を戻した6年2組の教室
いつもの女子グループメンバーに囲まれ流行りモノを追い掛けた話題が飛び交う中、木村朋美は野伊間詩芙音が登校するのを待っている。朋美の瞳には力強い光が宿り、鈴木一へ告白する勇気に溢れているようだった。
しばらくして安蘭未流に腕をガッチリと組まれ、朝から死にそうな顔色の不機嫌な……、いや口から魂がはみ出したような詩芙音が教室に入ってきた。二人はとても仲良しの様子だ!
二人が席に着くのを見計らってすかさず近づく。
「野伊間さん、おはよ」
「あ、えーっと……。木村さん!おはようだよ〜」
「む!木村さん、おはよ」
何故か敵意を感じる視線をよこす未流のことは受け流して本題を切り出す。
「昨日は本当に助かったわ。ありがとう、野伊間さん」
「???」
折角のお礼にイマイチ、ピンとこない様子でキョトンとする詩芙音に不思議な感覚を覚える。
「ほら、昨日の占い……」
「占い!?あー、占いね!!」
「ほんと、勇気を貰っちゃったから迷わないうちに今日の放課後、告ってみるつもり」
「うんうん、勢い大事〜。頑張って!」
真っ青な顔でファイト!のポーズを取る詩芙音を見ていると、逆に詩芙音の健康を応援したくなる朋美だった。
「ところで木村さん……」
「え?何かな、野伊間さん?」
「その〜、昨日の私だけど。木村さんから見てどう見えたかな?」
「どうって……。コスプレみたいな格好だったけど占いをやるには結構似合ってたと思うよ」
「あは☆良かった〜。雰囲気を出したかったんだよね。色とかどうだった?」
「うん、パステルカラーのピンク色が魔法少女っぽくてバッチリだよ」
(かなり攻めた衣装だったけど、本人は気にしていたのかな?)
「で、で、占いの方は……」
「あー、あの後調べちゃった!タロット占いっていうんでしょ、アレ?神秘的な図柄と詩芙音ちゃんの説明がマッチしてバッチリだったよ!」
「うんうん。木村さんに伝わって良かった!頑張って練習したんだよ」
「そっかー、本物の占い師かと思うくらい迫真の演技だったよ」
「木村さん、褒め過ぎ〜。照れちゃうな!」
詩芙音は血色の悪い顔色がほんのり赤く染まりハニカムような笑顔を作る。どれだけ顔色が悪くても素材が良い顔立ちは美人特有の余裕のある笑顔となる。朋美が自らに望んで止まない、そして決して得ることができない笑顔である。
「最後に……」
「『完全勝利のモテ薬』!今日は2本一気に飲んで頑張っちゃうから負けることないっしょ!」
「あは☆ホント、応援してるね!」
昨日の礼を云い終わり満足して女子グループの輪に戻る朋美。
「未流、聞こえて?」
「はい、詩芙音姉さま!」
「流した『噂』と合致して?」
「ええ、『噂』通りの内容ですわ」
「ふむふむ……」
詩芙音に胸を張って報告する未流。二人は何をやっているのだろうか?
「じゃあ、今すぐ内容を――に変えてちょーだい
!」
「は?今すぐって、ちょ……」
「返事は?」
「ひゃい……」
もっと褒めて貰いたい表情の未流を無視し、次の戦略を練っているかのような詩芙音だった。




