第31話 そうだ!烏丸山へ行こう☆
――舞金小のお昼休み
新しいお友だち、有栖川藍銅と、鈴偶智優、神埼栞はすっかり仲良くお話ししていた。智優の明るい性格は周りの空気を明るくし、和ませるような空気感を持っているからかもしれない。
「いやー、私以上の量を食べるなんて藍銅ちゃん、やるね〜」
「ハイ。体内分解処理を高速化……、げふんげふん。消化が早いからたくさん食べられマス」
椅子にふんぞり返ってお互いの勇姿を讃える智優は相変わらず女の子と思えない行儀の悪さ。一方、藍銅は姿勢を崩さず、見た目の美しさと同じようにまるで人形のように座っている。
「ねえ藍銅ちゃん。もしかして智優ちゃんの真似していっぱい食べたの!?普通の子が食べる量じゃないんだから無理しない方が良いよ……」
「え!?栞ちゃん、私って普通じゃないの……?」
「……えへ☆」
「笑顔だけで答えがないよ!!」
(ピッ!登録データ『神埼栞』。AI学習 進捗率0.3%……)
藍銅は頭に装備したカチューシャ型の感情センサーで状況分析をしながらAI学習を進めていく。AIは様々な友だちと接すれば接するほどに学習が進んでいく。つまり藍銅が小学校生活を送れば自然と学習が進んでいく寸法だ。
「有栖川さんって話せば話すほど普通じゃん。勢い余って立候補したけど、有栖川さんのお世話って何すれば良いんだろうな?」
横で話を聞いていた辻村拓人。
三人が席を寄せて話していた場所の横の席に着き、コミュ障のはずが智優&栞&藍銅の輪に割り込んで話し掛ける。拓人も智優がいれば他の同級生と会話するキッカケを掴みやすいのだろうか?
「そうだよねー。藍銅ちゃんが学校に馴染むように最初の友だちになるってことかな?藍銅ちゃんにとって初めての友だち、拓人にとっても初めての友だち。なんてね!」
「やなこと云うな…… 当たらずとも遠からずだから返す言葉もないけど、もう本貸してやらねーぞ!」
「言葉返してるじゃん!本当に私以外に友だちいないじゃん!」
「そ、それは……。鈴偶しか興味ないから……」
俯いて自分の手を弄りながら、小さな声で口ごもる拓人の言葉は智優には届かない。少年のような澄んだ瞳で拓人の顔を覗き込まれると息苦しくなり次の言葉が出てこなくなった。
「アッ、そういえば……」
何か思い付いたように声を上げる藍銅。藍銅は顔を16度ほど上向きに見上げ、左の手のひらに右手をグーにしてポンッと叩く。さすが天下の有栖川重工業が開発した女児型AI搭載のアンドロイド。(セリフが若干棒読みではあるものの、)完璧な所作である!
「藍銅ちゃん、どうしたの?」
「ハイ。私はこの周辺に慣れていないので学外でも色々なところに連れて行ってくれると嬉しいデス」
「おっ、藍銅ちゃんいいねー。じゃあ、今度の休みどっか遊びに行く?ショッピングモールとかどう??」
「みんなで烏丸山に遊びに行こう☆」
それまで穏やかな表情だった栞の目が急に鋭く光り、明らかに興奮した様子で身を乗り出してきた。気のせいだろうか、肌の色もうっすら紅潮している。
「みんなで烏丸山に遊びに行こう☆」
「え?何処そこ?っていうか2回も云う?」
「……」
「栞ちゃん、ショッピングモールのほうが遊んだり、買い物したり、スイーツ食べたりできて楽しいよ〜」
「智優ちゃんは黙ってて!!」
「ぴっ!」
栞の豹変っぷりに怯えた智優はリスのように小さくなってしまった…… 豹とリス……
「あー、たぶんアレだ。神埼は『鬼國蒐集』に夢中なんだろ?」
今度は拓人の呟きを聞き逃さなかった智優が拓人の脇腹を突いて小さな声で尋ねる。
「……『鬼國蒐集』って何??」
「……元は小説から始まって徐々に流行り、今はマルガレッタで連載中のマンガだろ?そのマンガの聖地が烏丸山なんだよ」
「へ?拓人のくせに詳しーじゃん!男子のくせにマルガレッタなんて読むの?」
「マンガなんて読まないよ、うちじゃテレビと一緒の扱いなんだから。そうじゃなくて、小説の方を読んでるから詳しいんだよ」
「何、コソコソ、話してるの、かな?」
「ぴっ!」
「ね?智優ちゃんも烏丸山、行きたいでしょ?」
智優の肩に栞の手が乗せられ、薄ーい笑顔でとっても涼し気な視線が送られる。
(ぴっ!し、栞ちゃんの目が怖い……)
「あのね、智優ちゃん。あくまで世間一般の話しなんだけどね」
気の成果、智優の肩に添えられた栞の手が恐ろしく重い気がしてくる。痛くはないのだが全く身体が動かせない!
「『鬼國蒐集』っていうマンガに出てくる美少女剣士 楓御前に男になる呪いを掛けた鬼がいてね、正体は日本の歴史に登場する悲劇の反逆者『宇部兼依っていう武将なの。ほら『英霊』って云われてる人。でね、英霊の没後1200年の節目に復活して楓御前の呪いを解き自らの力を取り戻すっていう噂があるの。だから楓御前信者は聖地で『《《早く復活して》》楓御前の呪いを解いて』と祈りを捧げなければいけないの……」
……ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺら
「……だから聖地巡礼は必要!」
まさに狂気の光。栞の瞳はハートマークでキラキラと輝き、ここでは無い世界を見つめるようだった。智優は言葉の洪水に溺れてしまい、ぐるぐると目を回している。
「ハイ!私は烏丸山へ行ってみたいデス!」
藍銅の不意打ちの返答に、先ほどと打って変わって本物の笑みを浮かべる栞。
「そう!?藍銅ちゃん、わっかる〜。じゃーあ、烏丸山に行くまでにみんなで勉強だね!」
「え、栞ちゃん、勉強ってなんの?」
「日本史《鬼國蒐集》の勉強に決まってるでしょ?」
「あははは……」
不穏なオーラを発していた栞だったが烏丸山に行くことが決定し、飛び上がらんばかりの上機嫌に化けたのだった。あまりの豹変ぶりに拓人は高度コミュ障スキル『触らぬ神に祟りなし!』を発動!智優は目を回したままだった。
(でも何だか変な噂だな。呪いを解いて本来の力を取り戻した後ってどうなるんだ?まあ現実あり得ないからどうでも良いか……)
「じゃあ、当日は私、頑張って皆んなの分のお弁当作っちゃうね!」
「わーい、やったー!!神埼家特製のウマウマ唐揚げが食べられる〜」
「ワーイ、やったー、デス!」
いつものコミュ障で少し暗い顔になっている拓人。普通の人には簡単な言葉でも、コミュ障の拓人にとっては先に「もしも拒絶されたら?」などと考えてしまい、言葉にするのが非常に厳しい。
だが少しだけ勇気を振り絞って切り出す。
「……なあ、俺も」
「拓人は男の子だから荷物持ちだよ。一緒に藍銅ちゃんのお世話するんでしょ?」
「……ああ、任せとけ」
上目遣いで拓人を見つめる智優。天然の智優に助けられてホッと胸を撫で下ろす拓人だった。
=====Aliceシステムログ=====
<ピッ!キーワード『烏丸山』検索完了。異形発生率50%、なお上昇中>
<ピッ!キーワード『英霊の復活』、噂急速拡散中。警戒レベル上昇>
<ピッ!初恋AI学習 進捗率……>
……




