第29話 『絶対成就の恋占い』の噂
――舞金小6−2教室、朝の風景
6年2組のクラスの中で辻村拓人は浮いている。
容姿は整っており、体型も普通。身長は平均より少し高いくらい。そしてクラス一、いや学年一くらい頭が良い。一聞すると好印象な男の子を想像するのだが、致命的な欠点がある。他人と上手くコミュニケーションが取れないのだ。
とにかく会話が続かない。話しているうちに余計なことを考えてしまう。それでも小学校に入った頃は、友だちを作ろうと頑張ったのだが少し仲良くなった頃に余計な一言を発してしまい、友だちは離れていってしまう。そんなことを繰り返すうちに友だちを作る努力をするのを止めてしまった。
自分を理解してくれない周りを見下すようになり、孤立を深めていった。拓人にとって小学校生活は無味無臭で無色の世界、ただ居るだけ居て、授業を聞いて、行事をこなし、時間を潰す。一片も寂しいとは思わなかった。
5年生のクラス替え。鈴偶智優との出会いは拓人にとって全身に電気が走るような衝撃だった。周りの世界が一気に色付き、味や香りを持ち始めたのだ。
彼女の横顔を見るだけで1日が明るくなる。人生で初めて大切なモノが現れたのだと実感した。
今朝も教科書を読みながら待っていると智優の陽気な歌声が聴こえてくる。
「トィンクル・トィンクル・メテオスター!スウィング・スウィング・モーニングスター!!恋の悩みは魔法少女☆トィンクルスターにお任せあれ!」
周りのことなんて気にせず鼻歌を歌いながら席につく智優。
「……おはよう」
「おっ!おはよう、拓人!!今朝も元気ないね!」
「お前が元気過ぎるだけで、俺も元気だぞ」
「そぉお?じゃあ、一緒に歌っちゃう!?」
「……いや。無理……」
朝から血管が切れそうなくらい元気な智優に圧倒される拓人。クールに振る舞うが徐々にテンションが上ってくる。
「こないだ貸した本、どうだった?」
「あー、あれ!?どストライクでめっちゃ面白いよ!!いや〜、人外の傭兵と美人魔法使いの組み合わせなんて美味しすぎる!特に傭兵のちょっとヒネた性格と魔法使いの世間知らずな雰囲気が噛み合わなくて良いね!」
「だろ?たぶん鈴偶のツボにハマるだろうなと思ってた」
「よく分かってるじゃん、拓人!あ、でもまだ読み途中なの。もう少し貸してくれる?」
「ああ、俺は読み終わってるから大丈夫だよ。その代わり感想聞かせろよな」
「もちの、ロン!」
拓人は内心ガッツポーズを決めていた。自分のチョイスが智優にハマったのが嬉しいのだ。
元気印の智優は刺々しかった拓人でもフェアに接してくれた。最初は鬱陶しいと思っていたが、徐々に相手を知りたいと思うようになった。拓人のコミュニケーション下手は智優と接しながら少しづつ改善していっているようだ。
「ところでさ。毎朝、歌ってるのって何の曲なの?」
「おー、良い質問だね、拓人くん!私を虜にするアニメ、『魔法少女☆トィンクルスター』のオープニングソングだよ!」
「???」
「えっ?『魔法少女☆トィンクルスター』を知らないの?」
困惑する拓人。家庭の方針でニュース以外のテレビを見せてもらえないのだ。その代わり小説は際限なく買ってもらえるので自然と小説好きとなっていった。
「いや、うちはテレビが見れないから知らないな……」
「なんだ〜。超面白いから、家のルール破ってでも見てみなよ!流行ってるんだよー」
智優は興奮しているが本当に流行っているかイマイチ分からないので近くの席の神埼栞に聞いてみることにした。
「なあ、神埼。『魔法少女☆トィンクルスター』って見てる??」
「え?『魔法少女☆トィンクルスター』なんて見ないよ〜。低学年の女の子じゃあるまいし」
「!!!」
「ん?どうしたの、智優ちゃん。顔、真っ赤だよ?」
「そ、そ、そ、そうだよね〜。低学年向けだよね……」
(そうか、そういうことね。でも鈴偶が好きなら一度見てみたいな。『魔法少女☆トィンクルスター』……)
真っ赤になってプルプル震える智優と、それを慌ててフォローする栞を見ながらそんなことを考える拓人だった。
キーンコーン・カーンコーン
チャイムが鳴ると騒がしかった教室は徐々に静かになり、自分の席についてホームルームの開始を待ち始める。
拓人にとって朝の楽しい時間が終わり、無限地獄のような退屈な拷問時間の始まりのような感覚だった。
(授業は退屈極まりないけど、鈴偶でも眺めて退屈をしのぐとするか……)
――同時刻、同場所
小学生の女子には目に見えない上下関係や派閥がある。連鎖の頂点に近い者は絶対で、少しでも下の女子を探し出して服従させる。それを繰り返すうちに集団が形成されていく。
学校行事を卒なくこなし、音楽や洋服などの流行を共有する、更には学校の中で発生するお互いの不利益から身を守るための集団。それが女子グループである。
6年2組で最大勢力を持つ女子グループのリーダーは木村朋美だった。
天然で少し茶色い髪の毛はクセがあり、毎朝一苦労して纏めている。キツい目つきは常に相手を睨んでいるような印象を与える。そして、小さな口は真一文字に閉じられている。
コーデは流行を取り入れたスタイリッシュな洋服と落ち着いた色の組み合わせ。
腕を組んだ彼女に見つめられると他の女子は争いを避けて素直に従おうとする。そんな風格を備えた女の子だった。
そんな朋美でも恋をしている。
同じクラスのイケメン、鈴木一くんが意中の人だ。鈴木のために頑張って空回りすればするほど周りの女子にキツくあたってしまう。女子を従わせる能力には長けていたが、男の子を従わせる能力は今のところ開花していない様子だった。
(ああ、鈴木くん…… 何故、あなたは鈴木くんなの?日本中に沢山いる姓だから??)
熱い視線を鈴木に送るが、鈴木本人は全く気付かない。いや気付かなくて正解かもしれない。
(何か。そう、何かキッカケがあれば鈴木くんをゲットできるのに……)
夢中で鈴木の所作を追い掛ける朋美にはグループの取り巻きの会話なぞ耳に入ってこない。だが、クラスの雑音の中から気になる会話が……
「詩芙音姉さま、恋占いが得意だったじゃないですか?今度、私のこと占って欲しいですわ」
「……高いわよ」
「へ?愛する妹のお願いに対価を要求するんですか??」
「……未流。あなたは私の妹ではないし、私はあなたを愛していない。そして、何かを受け取るならば、対価は必要。違って?」
「!!!」
野伊間詩芙音は安蘭未流を指差すと手のひらを返してポーズを取る。未流は目にいっぱいの涙を蓄えて詩芙音の手を握り締め、巨大なツインテールをゆらゆら揺らしながら抗議している。
(野伊間さん、厳しいな。でも安蘭さんには悪いけど二人のやり取りって面白い)
急に二人のやり取りが小声になる。
「もう、姉さまが『魔法少女』って《《聞いた》》のバラしちゃいますよ!ぷんぷん」
「……私を脅す気?」
「ふーんだ。みんなが《《噂してる》》『絶対成就の恋占い』をしてもらうまで譲らないんだから!」
(今、『絶対成就の恋占い』って云ってた!野伊間さんに占ってもらえば私の恋は叶うのかしら?とても気になる!気になるわ……)
詩芙音のアイアンクローに悲鳴を上げる未流。そんな悲鳴をかき消すようにチャイムの音は鳴り響くのだった。




