第28話 英霊の噂と新たな魔女
――下校時間の学生ラッシュ時、翔北市の少しだけ大きい駅
がやがや、がやがや、がやがや……
舞金南高校の下校時間、JR翔北線舞金駅のプラットホームには次の電車を待つ同じ服装の学生が溢れかえっている。参考書を読み耽る学生、友だちと歓談する学生、片思いの異性を観察する学生、今日の失敗に落ち込む学生、明日に期待を弾ませる学生、学生、学生、学生……
JR翔北線はM県の要衝を繋ぐ在来線で通勤や通学のピーク時は乗車率が150%に達するほど活気があった。舞金などの大きな都市以外にもM県の観光名所である烏丸山にも接続しており、休日は人気少女マンガ『鬼國蒐集』に登場するイケメン武将の足跡を巡る貴腐人で賑わっていた。
〜〜マルガレッタ連載中『鬼國蒐集』紹介より抜粋〜〜
――自分が征伐した鬼の呪いで男の姿に変えられた美少女剣士 楓御前。様々な武将に(男の姿で)恋をするが、悲しい結末しか迎えられない。
新月の夜、呪いの力が弱まった時間、少女の姿で一夜の恋。
楓御前は鬼の呪いの謎を解き、永久の愛を掴むことができるのか!?
『鬼國蒐集』の武将キャラのぬいぐるみアクセサリーだらけの学校カバンを下げた女子高生二人の会話。
「ねえ、知っとー?」
「んー、何がよ〜」
「ほら、烏丸山ってあるじゃん」
「うん、あるある。昔合戦があった観光名所でしょ?」
「そこで何かあるらしいんよ……」
「何がって??」
「聞いて驚くなやー!何と『英霊』さまの復活!」
「は〜、何云うとるん?子どもじゃあるまいし」
「いや、だから友だちから聞いた『噂』やけ」
「『英霊』って、なんてったけ??ほら……」
「悲劇の反逆者『宇部兼依』!」
「んで、その『英霊』さまが復活すると……」
「うん!」
「ありえんわ〜。『鬼國蒐集』にハマり過ぎ。ほら、電車来たんよ」
「もう、待ち時間、暇やったけ、盛り上げたんに」
がやがや、がやがや、がやがや……
――『英霊さま』?
――烏丸山の『英霊の復活』?
――『宇部兼依』って誰??
二人の女子高生の話を聞いていた周りの高校生たち。聞きかじりの『噂』を覚えて別の場所で披露していくだった……
駅のベンチに座り足を組み、高校生たちを眺める怪しげな男。会話に聞き耳を立てて『噂』の内容を確認している。
「やれやれ。拡散に時間は掛かりますが、内容は損なわれていない。順調のようです」
『噂』が間違った内容になれば『英霊』が弱体化する可能性もある。特に弱点などが混ざっては後々、厄介な事になる。逆に尾ひれが付いて思わぬ効果が得られれば想定以上に強力な存在となる。だからこそ『噂』の内容を慎重に見極めているのだ。
「先日のロジカル・シフォンとの戦いで機嫌を損ねた上役《喪女》に良い報告ができそうですね。次こそは負けないぞ、『魔女』たちめ!!」
生まれた『噂』は大きく育ち、どんどんと広がっていく。『噂』の力が強くなればなるほどに『英霊』のカタチが具現化し、『英霊の復活』に近づいていくのだった……
――魔女機関『モーダル』の本拠地
『不識の塔』
『モーダル』の部署の一つ『アイオニアン』を統べる第一階位の魔女、ロム卿の研究室は誰もが入れる場所ではなかった。
その部屋の片隅でロムは腕を組み、目の前に浮き上がった透明の文字盤を高速に流れる情報を読み取っている。そしてロムが文字盤から視線を外し、見上げたその先には……
研究室の真ん中には時折輝く液体で満たされた超巨大な透明のビーカーが鎮座している。傍には操作盤と思しき黒色の石板があり、背面に接続された光弦がビーカーの中に伸びている。ビーカーの中に浮かぶ光弦が繋がった先のモノ、それは生まれたままの姿で体育座りをしたポーズの少女だった……
「ふーん、その子が智優ちゃん?」
「……」
「随分と綺麗な子だこと」
音もなくロムの頬すれすれに顔を近づけ、ビーカーを覗き込む女が突如現れる。
ウェーブの掛かった薄青く長い髪は波打ち際を思い出させる。糸のように細いタレ目は何を考えているのか分かりづらく、見つめられた者に不安を与える。そして枕元で愛を囁くような甘ったるい声色。
『モーダル』の部署、『ロクリアン』を統べる第一位の魔女、ラム卿だ。
「私の部屋を訪れる時はノックしてくれたまえ、ラム卿よ」
「あら?あら?あららららら?うふ、親友に偉そうなこと云っちゃって良いの?」
ロムは溜息をつきながら険しい表情を緩める。ラムのほうが一枚上手の様子だ。
「だいたい、お前は無断で最高幹部会をさぼるし。ぶつぶつ……」
「ほら、ぶつぶつ云わない。綺麗な顔が台無しよ」
そう云うとラムはロムの瞳を見つめたまま、息がかかるほど近くまで顔を近づける。
「相変わらず高い鼻だな。眼の前に迫ると私の顔に当たるんだよ、全く」
「しっ!静かに。ね?」
ラムが呪文のような言葉を詠唱するとロムの口元から情報を閉じ込めた魔力が出力され、それをラムが吸いあげ、絡めるように読み取っていく。
「ん……」
「なるほど、なるほど!智優ちゃんもさることながらシフォンの動きも面白いな!」
「……だろう?」
「私も頑張って盛り上げないといけないな。おっと、私だって遊んでいるわけじゃないんだよ。『モーダル』の遊撃隊と云ってくれたまえ」
「成果を出せるなら文句はないぞ」
「流行りの成果主義ってやつだね。うふふ」
ラムはマジックのように手のひらからグラスを浮かび上がらせてロムに差し出す。受け取ると注がれていなかったはずのロゼが揺れている。
親友へ向けてニヤリと笑うラム卿、
ラム卿の奔放さに嫌な予感を感じるロム卿。
「……でも大丈夫かな?」
「ああ、もう少しで智優の身体は元に戻る。値(魂)を戻せば万事解決さ」
「ああ、いや。智優ちゃんの方じゃないのよ」
「???」
意味ありげなコトを云うラムを見ると、例の冗談を云う時の表情では無いことに気付く。
「私が気にしているのはシフォンの方だよ。周りの想像以上に智優ちゃんの値(魂)と一体化が進んでいて、このままだと元に戻れなくなっちゃうよ」
「な、何だと!シフォンは魔女だぞ。魔女がニンゲンに影響されて呑み込まれるなど、あり得ないわ!」
興奮するロムを宥めるようにラムが後ろから優しく包容する。目の前に小さいスクリーンが浮かび上がり、詩芙音の姿を映し出す。
「だってねぇ、ほら?こんなに智優ちゃんの少女趣味の影響を受けちゃってるじゃない……?」
そこに映る詩芙音の姿は普段のダークトーンの服装とは異なり、まるで本物の魔法少女のように色鮮かで、そして可憐な乙女だった……
〈To Be Continued〉




