第26話 ロジカル魔法☆ポインタアクセス!
――地上に落ちた影、動きが鈍い……
<おい、ボン子。聞こえるかの?>
念波で私に囁く声がする……
<え?ロム??>
<うむ。お前が煽るものだから現場時代を思い出し大変だったぞ。ワシが若い頃は……、うんぬんくんぬん……>
<うんぬんはどーでも良いから、報告は結論から云ってーーー!!!!!>
<む!今度は新人教育魔法『報連相』か!?どこまでワシを煽るのだ、ボン子よ!>
変なスイッチが入った管理職のオジサン(ロムのこと)を殴りたくなる気持ちを抑え、興奮するオジサンからの報告を静かに待った…… 優しいな私……。
<構造体解析の結果はの…… ずばり、この影の根源は番地変数という概念だ>
<番地変数??>
<うむ。コヤツの実体は別の場所に存在しておる。その場所を示している番地変数がこの影だ!>
ロムの構造体解析結果に困惑する私…… 話が理解できないのは普段、プログラミングの授業で寝てるからじゃないよね!?
<え?一体、どういうこと?>
<簡単に云うと、今この影は番地しか表していない。だからコヤツを攻撃しても別の場所に存在する本体はダメージを受けないということだの>
説明を聞いても全然、頭に入ってこない!授業、寝てゴメンナサイ!でもロムの話が理解できなくても私は悪くないよ、絶対!!
<ぐぬぬぬ。番地変数?場所……?意味が分からない!!>
<む。ワシの報告に不備か!>
<えーと、つまり…… 値(魂)がある場所はアドレスがあって>
<うむ>
<今、目の前にいる影は場所を示す番地そのものってこと??>
<そうなるの!>
<だから攻撃しても本体には届かないと?>
<ボンヤリしてても要点は捉えるの!>
もー、偉そうな奴は先ず報連相しろ!
っていうか現場の空気を読め!!
って、っていうか、私はボンヤリしてない!!!!
<ほら、あれじゃ。影の元になった小僧はお前に惚れておったじゃろ?>
<えっ?>
<それが少々、性癖をこじらせておってな>
<えっ、えっ?>
<お前の男装姿が好きだったようじゃわい>
<……>(シフォン、赤面中)
<男で《《女子の男装姿》》が好きとはの>
<……>(シフォン、赤面濃度上昇)
<ちなみにお前の女装姿は性癖対象外だったようじゃ。くっくっく!>
<!!!>(シフォン、殺意全開)
ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー……
落ち着け、私!!!
<奴は表面に見えているアドレスだけを見て惚れた腫れただの云って、結局お主の本質……、アドレスの先にある値(魂)に近づかなかったわけじゃ。それと同じだの>
<同じわけあるかーーーー!!!!>
思わずコンスタントシールドを持ち上げて振り回すシフォン。ロムに当たったら死んじゃうよ?たぶん……
<じゃあ、どうしたら??>
<ふむ。ワシのアイデアは高いぞ!>
<ね、ねえ?前回から思ってたけど、ロムも一緒にピンチなんだよ??>
<くっくっく!猫は何回でも生き返ることができるのだぞ。そんなことも知らんのか?>
<クソゲーのチートキャラか!!>
黒猫がドヤ顔を浮かべてるかのような錯覚を覚える。
<必殺『ポインタアクセス』じゃ!>
<必殺『ポインタアクセス』ぅ?>
<そうじゃ。その必殺技を用いれば本体が存在する場所に直接攻撃できる>
<あ、あのさ……、理屈は良く分からないから放っておくけど、魔法少女は必殺じゃなくて、魔法だよ?>
<ボン子は本当に少女趣味だの……>
<!!!>
傷ついた光翼で羽ばたきながら地上に降り立つシフォン。その場所に輝く羽が降ってくる。
目の前には落下のダメージを受け苦しそうに悶える巨大な影。足は折れ曲がり、元のように立つことはできない。そして砲台は沈静化し、新しいジャベリンは生成される気配もない…… しばらくすれば再生を始めてしまう。今がチャンスだ!
シフォンは影に向けて両手をかざす。
「「ロジカル魔法☆ポインタアクセス!!」」
シフォンとロムの声が響くと影の上に大きな魔法陣が形成される。魔法陣はぐるぐると回りながら、ゆっくりと下りてきて影を飲み込んでいく。
やがて魔法陣の上には実体のアドレスにいた花田透が引き離されて現れ、魔法陣から吐き出される。
「……やるな。さ、さすが俺のライバル……」
「ばーか、透じゃ弱っちすぎてライバルにもなれないよ」
疲弊した顔に薄い笑顔を浮かべる透。安心したのか、シフォンが手を差し伸べると力尽きて気絶する。
身体が崩れた透をキャッチして、地上に寝かせると制御を失った影に攻撃を行う!
シフォンがコンスタントシールドを立てたまま下部を地面に叩きつけると塔盾の上部から大剣の刃が伸びる。剣を仕込むには不釣り合いの巨大な塔盾、仕込んでおくには巨大すぎる刀身……
シフォンは再び上空に飛び上がり、コンスタントシールドを振りかぶり盾の尖端に伸びた刃を叩きつけ、影を一刀両断する!
「切り裂け!コンスタント・ソードぉーーー!!!」
巨大な影に線が走ったかと思うと線を起点に胴体が二つにズレていく。やがて互いを支え切れなくなった胴体が二つに割れて倒れていく。
ずどーーーーーーーん
片方の胴体が倒れた下には……
悪ガキたちの秘密基地が……
影の胴体は塵のようになり消えていく。
そこには無惨に潰れた廃屋だけが残されているのだった。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
緊張の糸が解け、それまで溜まっていた疲れが一気に吹き出し、肩で息をするシフォン。針が刺さった痛み、酷使し過ぎて光翼の根本がもげそうな痛み、巨大な塔盾を振り回した腕の痛み、どれ一つ取っても小学6年生の女の子が耐えられるものではないはずだが……
すたっ
背後で何かが着地する音がする。後ろを振り返ると破れかけたゴシックロリータの漆黒衣装、腕や足に針が刺さった時の傷、光翼もツインテールも精彩を失いボロ雑巾のような姿。
色彩魔法少女☆カラフル・ミルだ!
「シフォン、無事だった!?」
「ええ、何とか。魔力を注いで回復したから身体は傷一つなく……」
「ふふ。傷が付いたら智優ちゃんにセキニンを取ってもらうから覚悟してね。あは☆」
「え?え?えーーーーーー???」
冗談を云う詩芙音もフラフラの様子。
「で、でも詩芙音ちゃん。こう云っては何だけど未流ちゃんの身体、傷だらけだよ……」
「……」
「せ、セキニン取るのかな?」(ドキドキ)
「だ、誰が取るかーーーーーー!!!!」
詩芙音は未流の小さな身体で両手を上げて、ぶんぶん振って抗議するが、拳は智優の胸元くらいまでしか届かない。智優は我を忘れて、いつまでも詩芙音の頭を撫でているのだった。
――潰れた秘密基地の傍、影が消えた跡
傷ついた二人の魔法少女をよそにグリモワールの新たな1ページを咥える黒猫ロム。
(くっくっくっ!相変わらず盛り上げてくれるわい。『噂を操る者』に加えて移動式多脚砲台とはの。次は何が登場するやら楽しみだわい)
夜空に広がった七色の残像は消え、心地よい風が二人と一匹の間を吹き抜けていく。残像に隠れていた月が姿を現し、壮絶な戦いの跡を照らすのだった。




