第23話 爆誕☆カラフル・ミル(難あり)
――舞金小近くの山の中、悪ガキどもの秘密基地の近く
「全く……。何で影化して急にこんな山奥まで来たのかしらね〜。すぐに襲いかかれば『魔女』の一人や二人、簡単に討ち取れたというのに」
『噂を操る者』たち、『魔女』に敵対する存在!
舞金小の臨時教員の笹塚愛美は腕を組みながら毒づいている。用務員の佐藤譲は愚痴っぽい上役に答える。
「はっ!それは影化する前の記憶が完全に消えない状態の時、本人が行きたいと臨んだ場所に導かれたのでしょう」
「やれやれ。お前の兵隊づくりは即席で便利な技かもしれないけど、改善の余地ありね。来週までに改善プランをレポートに纏めて報告なさい!」
(くっ、クソッ!コッチは徹夜でお前が用務員室を散らかした花びら片付けて、おまけに2時間積み上げた探知魔法をダメにして、お前が……、お前が……、ぶつぶつ……)
「何か云いたいことでも?」
「い、いえ何もございません、レディ!」
「よろしい」
喉元まで出掛かった言葉をグッと堪えてレディの足元に跪く佐藤だった。我慢こそ最大の処世術だ、佐藤!
グォーーーーーン
胴体から肘、膝までが異様に伸びて巨大な亀のような状態になった花田透の影。時折、雄叫びを上げながらゆっくりと山を登っている。既に透の意識は無く、完全に影に飲み込まれてしまっているようだ。
「今回の影は動きが遅いみたいだけど大丈夫かしら?」
「ええ、それでしたらご安心を!能力を確認する限り速度は遅いですが、防御力は今までの影に比べて格段に上です!」
「運用に困る影ね……。分かったわ!私も加勢するから、それで確実に『魔女』を仕留めましょう!」
「え!?こないだ暴れたばかりじゃ……。あんまり現場を乱すと……」
下っ端(佐藤)が云うことなぞ耳に入ってこない笹塚は既に漆黒の外套に包まれていた。辺りに花びらが舞い上がり、佐藤の嫌な記憶(徹夜のこと)が蘇る……
(だーかーらー!普通に変身できないのかよ!?まあ、今日は山の中だから花びらの片付けは不要だけどさ!)
外套を翻すと先ほどまでいた喪さい女は消え、極上の香りの漂う艶めかしいボディスーツの女が現れるのだった。
「ねえ、佐藤。奴らはどの辺かしら??」
「は!探索致します!!」
佐藤は両手を合わせ、手のひらの上に探知魔法を展開し、『魔女』たちの所在を探す。探知魔法のドームの中に現れた紫色の矢印は一瞬、細く長く伸びたかと思うと徐々に太く変化していった。
「レディ、魔女の奴ら、近づいてます!」
「あらあら〜、向こうから来てくれるなんて好都合じゃない。さーて、遊んであげなくっちゃネ!」
佐藤が目を凝らして街の方を見ると大きな光翼を広げた《《二つの物体》》が飛行してくるのが見える!
(ふん!この前のお返し、たっぷりさせてもらうからな!ロジカル・シフォン!!)
誰に云うでもなく、そう呟くと物陰に隠れて闇の中に潜むのだった。
◇◇◇
――会敵の少し前、野伊間家の詩芙音の部屋
「昨晩の敵は非常に強力……。例え私の魔力が元の状態だったとしても勝てたかどうか……」
怠そうに目覚めた詩芙音が率直な感想を述べる。いわんや交通事故にあった智優を助けるために魔力を使い果たした詩芙音では、強力な敵の相手にもならない。
「だが、そうも云ってられんぞ、詩芙音!敵の魔力は既に検知した。強大な敵を倒すために奇襲するならば今しかない!!」
「ええ、分かっているわロム……。でもこのまま智優ちゃんがロジカル・シフォンに変身しても……」
「……って、やっぱり戦うのは私!?」
「もち、のロン!」
詩芙音ちゃんの暗ーい笑顔が鈍く輝き、両手を広げて牌を倒す素振りを見せた。
(今度の女子会、麻雀だったら私でも勝てるかな〜。いや無い!負ける気しかしないゾ!)
「くっくっくっ!一人前に武者震いか、ボン子!戦いに絶対の勝利なぞ、無いことを知れ!」
黒猫ロムが偉そうに語る。
(あ、いやソッチの戦いじゃなくて『女子会の戦い』の方なんだけど……)
「敵が強力だったことは私も認めますわ!せめて私が詩芙音姉さまのように自在に魔力を操れれば良いのですが……」
二人の視線より少し低いところで大きなツインテールが揺れ、未流の呟きが聞こえてくる。
それを聞いた詩芙音は両手の指を一本づつ合わせて顔に近づけると独り言を呟き始める。その言葉はまるで倍速で音楽を再生しているかのような速さだった。
「そもそも……、……でしょ。だから、……した後で、代入すれば……。
あは☆イケるわ、未流!上出来よ!!」
「へ?」
ガバッと起き上がった詩芙音は未流の肩を掴み深淵の闇を思わせる瞳で彼女をじっと見つめる。未流は詩芙音からの突然の褒め言葉に驚きながらも素直に喜ぶことしかできなかった。
――静寂に包まれた部屋、二人&一匹は詩芙音に注目している
「じゃあ、ロム。こないだと同じ手順で準備でお願いね」
「うむ。問題ない。だが何を……?」
「まあ、それはこの後のお楽しみ」
ロムが人間に聞き取れない言葉で魔法を詠唱すると天井近くの空気が歪み、魔法陣が空中に浮かび上がる。そしてドサリと落ちてきたのはゲーセンのUFOキャッチャーのスペシャルプライズのような詩芙音ちゃん人形(二頭身バージョン)。
固唾を飲んで見守っていた未流だったが、詩芙音ちゃん人形を見るや否や我を忘れて駆け寄っていた。
「な、何ですの!?詩芙音姉さまの二頭身、かわ!かわ!!可愛過ぎ!!」
「……あら、そーお?」
――すっ
詩芙音ちゃん人形を抱き抱える未流に伸びる魔の手!詩芙音(本物)は音も立てずに未流の傍へ移動したかと思うとツインテールの片方を掴み上げ、固めた拳を未流のみぞおちにめり込ませる。
「ぐぁ!お、姉さま、そりゃな……」
云い終わる前に未流の口からポッケろと飛び出した値(魂)をテキパキと詩芙音ちゃん人形に移し込む。値(魂)が抜けた未流の身体は人形のようにプラプラしていた……
智優は瞬きするほどの間で何が起きたのか分からず、目を白黒させている。
「え?え?え?な、何をやってるの、詩芙音ちゃん?」
「これで準備完了っと!」
「怖くて聞きたくないんだけど、何の準備かな……?」
「あは☆私が未流の身体に入って
『色彩魔法少女☆カラフル・ミル』の爆誕だヨ!!」
「やっぱりかーーーー!!!」
――二人が変身を終えた後
無事にロジカル・シフォンへ変身した智優。
相変わらず少女趣味全開の衣装で赤面が収まらず、下唇を噛んでプルプル震えている。前回よりも短くなってしまったスカートの端を握りしめ……
「やーーーん、智優ちゃん、超可愛すぎ!!私以上に私の身体が活かされるなんて、ちょっと悔しい!」
「ほ、ほ、褒めないで!っていうかジロジロ見ないでーー!!」
大騒ぎの詩芙音はというと無事に未流の身体へ値(魂)を移し、カラフル・ミルへ変身していた!
小さい背丈に大きなツインテール、そして漆黒の衣装。身体そのものは本人と同じなのだが、衣装は乗り移った存在の保つ精神の影響を強く受けるようだ。カラフル・ミルの衣装はまるでゴシック・ロリータのようだった。全然、カラフルじゃないよ!
そしてシフォンと同じく背中から眩い光を放つ光翼が揺れているのだった。
「ふむふむ、これだけの魔力があれば何とかなるわね!」
ミルは手をグーパーしながら手のひらから『色彩の刃』が伸びるのを確認する!鮮やかな色に変化する刃はあらゆる属性に適合するかのようだった。
「くっくっく!値(魂)を玉突きでずらして変数(身体)に移す発想、さすが『ロジックの魔女』殿だ!さあ、準備は完了だ!敵を驚かせてやろうではないか!?」
――雲の上、月が輝く上空
シフォンとミルは光翼をいっぱいに広げ、敵の魔力を感知した山へと向かって飛び続ける。
眼下には住宅街の明かりが点々と広がっており、少し先を見ると舞金小がある。職員室の明かりが灯っており、教職員が残業をしているのが伺える。例の廃工場は暗いまま人の気配は感じられず、あの悪夢が終わったことを告げているようだった。
シフォンの腰にはロムが振り落とされないようにしがみついている。
段々と山に近づいて来る。
普段は存在に気付かなかった掘っ立て小屋が見え、その近くには巨大な影がこちらを睨み吠えている!!地上の影に気を取られると……
ギューーーーーン
地上から無数の鋭い糸が真っ直ぐに伸びて二人に襲い掛かってくる!
「ちっ!またか!!」
先日の交戦で攻撃に慣れていたミルは飛行の軌道を変え、身体を回転させながら追尾する糸の攻撃をかわしていく!
一方、初めての攻撃をかわすことができないシフォンは何本か糸が身体に突き刺さり、痛みのあまり飛行を維持することができず落下してしまう!
「シフォーーン!!」
落下するシフォンを助けようと追い掛けるミルの前に立ちはだかる者!漆黒の外套を纏い、両腕を組みながら、仮面の奥からシフォンを睨みつける女、『噂を操る者』よ!
「あらあら、目の前に敵が現れたっていうのにお仲間の心配?大した自信ね、若いっていいわ〜。アンタの相手はこの私よ!」
「ふ。ふふ!ふはは!ふははははははは!」
ミルが笑い声を上げると吹き出す魔力に辺りの空気が震え、山頂から野鳥が飛び上がっていく。
「この前と同じようにイクと思わないことね!《《小娘》》!!」
そう叫ぶと両手に『色彩の刃』を構え、『噂を操る者』へ突撃するのだった。
――シフォンが落下した場所
ロムを庇ったせいで受け身が取れず、地上に直撃したシフォンが苦痛で悶えている。
(ぐぅぅぅ……。落ちる直前で羽ばたいて衝撃を和らげたけどダメージが大きい……)
ぐぉうあーーーーーーー!
シフォンのすぐそばで自分のテリトリーを侵されたことに腹を立てる獣のような叫び声が響く!シフォンは落下のダメージを回復する猶予も無く、地上で吠えていた影の化け物と対峙するのだ!
(全く魔法少女も楽じゃないわ!ってあれ?この影、何処かで感じた気配がするぞ……)
影が巨大な腕を持ち上げてシフォンを叩き潰そうとするのを、痛みを堪えて起き上がり木の影に隠れてかわす。
(まさか、この影……。透なの!!??)
自我を失いかけた影は悲しそうに叫ぶのだった……




