第22話 未流の魔力度数ってMAX?
――同じく舞金小の放課後
6-2教室には鈴偶智優が同級生の花田透を待っているがいつまで経っても現れず一人、待ちぼうけ。自分の席で椅子にもたれ掛かり、どこまで仰け反れるか限界を試していた。
がっっしゃーーーん!!
「痛ったーーー!」
そして限界への挑戦は失敗に終わり、支えを失った身体はゆっくりと後ろに傾いていき、背中から椅子ごとひっくり返るのだった。学校の備品は大切に!
「透のやつ、私はすぐに帰りたいのに待たせて……。また新しい技の実験台にしてやるぞ!ぷんぷん」
その日、智優の親友、野伊間詩芙音と安蘭未流は学校を休んだ。担任の二宮先生に確認したが二人とも風邪を引いたんだそうな……。
昨日下校する時に詩芙音と未流は風邪など引いている様子は無かった。だから何か別の理由があって今日は休んでいるんだと直感していた。
そして何より昨日から智優の身体の調子がおかしいのだ。例の廃工場での喧嘩祭りで不良中学生に殴られて気絶したダメージは確かにあったはずなのだが、駆兄ぃに担がれて病院に行ったり、家で寝かされたりして、ドタバタと1日が終わって朝起きると、自分でもビックリするくらい怪我が跡形も無く治っているのだ。
その代わりに全身を針で刺されたような痛みの跡を感じるのだ。あまりに激しい痛みだったのですぐに痛む場所を確認したが、傷跡らしい傷跡は見当たらない。第一、昨日の喧嘩祭りで針を刺された記憶も無い。
つまり自分ではなく、魂を分けた友だち。詩芙音ちゃんに何かあったのではないかと予感するのだ。
(あと5分待って来なかったら詩芙音ちゃんのお見舞いに行こ!)
窓からオッサン声が聞こえてきたのは、そんな決意をした時だった。
「おい、ボン子!」
「だから私はボンヤリしてな……。え!?今、ボン子って云った??」
「ボンヤリしてる子→ボンヤリ子→ボン子。やれやれ説明しなければ伝わらないとは嘆かわしい……」
「略すなし!つうか私、ボンヤリしてないし!!くきぃーーーーーー!!」
開いた窓の枠に手足を揃えてチョコンと立つ詩芙音の飼い猫(?)、黒猫ロム。ここは3階なのに一体、どうやって入ってきたのだろうか??
智優が怒髪天で地団駄を踏み睨んでも涼しい顔、相変わらずオッサン声で智優を誂って止まない。だがしかし……
「詩芙音と未流が敵にやられた!早く来い!」
「え?何がどうしたの??」
「ボンヤリしている暇は無い!良いから早く野伊間家へ向かうぞ!」
憎たらしい黒猫を窓の外に突き落としたくなる衝動を必死に抑えてランドセルを背負う智優だった。ここはボンヤリ我慢だ、智優!
――学校の帰り道を走る智優と黒猫
カモシカのような細い手足をブンブンと振りながら走る智優。横には黒猫ロムが小走りでスタスタとついてくる。
「昨晩、お前たちが別れた後、正体不明の敵が襲ってきたのだ。返り討ちにしようにも詩芙音はお前に魔力を与えた影響で魔力不足、未流は魔力はあっても戦闘向きではない」
「で、どうしたの!?」
「反撃のチャンスを伺って攻撃を避け続けたのだが、アンポンタンの未流の作戦のせいで詩芙音は……」
「!!!」
思わず息を飲みこむ智優。っていうか今、未流ちゃんのことアンポンタンって云ったよね、ロム?周りに敵が多いと後々、大変なコトになるよ。次の女子会は皆でお仕置きだ。覚えてなさいよ!!
「次の女子会があれば良いがの!」
「!!!」
くっくっくっ!
(な、何故!私の考えていることが伝わるんだ?栞ちゃんといい、私の周りは化け物だらけか!?)
恐ろしさを振り払うように走りながら頭をふるふる振ると電柱に激突しそうになる智優だった。
「で、詩芙音ちゃんは無事なの??」
「今、『空間の魔女』殿に手伝ってもらって治療をしているところだ」
「『空間の魔女』??」
「相変わらずボンヤリしておるの〜。ほら、お主の学校に保健医がおるだろ??アレだ、アレ」
「え、私ボンヤリして……?え、安藤先生のこと??その情報って初めて聞くんじゃ……」
「うむ。初めてかもしれんの!」
「そんなん、分かるかーーーー!!!」
クソ猫ロムと楽しい会話をしながら走っているうちに住宅街を抜け、大きな屋敷が見えてきた。
1家族が賃貸するには大きすぎ、そして豪華すぎる館。それはまさに『魔女の館』……
つい最近、くぐったばかりの門を抜け、野伊間家の中に入るとエントランスに敷かれた絨毯には黒いシミが点々と付いている。前回、お邪魔した時には無かったシロモノだ。
そして2階から未流ちゃんの泣き声が聞こえてくる。智優は慌てて2階に上がり、声が聞こえる場所、詩芙音ちゃんの部屋に行く。そこにはボロボロの詩芙音ちゃんと横で泣きじゃくる未流、そして詩芙音に手をかざして人間には聞き取れないコトバを詠唱する安藤先生がいた。
「あらあら、遅かったわね〜。ようやく真打ちの登場だわ〜」
「もう、遅いんだよバカ智優!!」
ワケも分からず未流に罵倒される智優。
「昨日、受けた二人の傷を治療していたんだけど皆んな揃ってシフォンの魔力と相性が悪いから治すことができなくて難儀してたのよ〜」
「え?え?え?だ、大丈夫なんですか!?詩芙音ちゃんは!?」
「私がシフォンの抗体反応が出ない程度の微量な魔力を流し込んで治療しているから、今のところは大丈夫だわ〜」
「……ヨカッタ……」
ベッドで眠る詩芙音の顔を見ると普段から血色良くない顔色が更に悪くなっているような気がした。ただ安藤先生の治療が効いているせいか、苦しそうな様子は無い。
「それで私はどうしたら!?」
「ん〜。簡単に云うとあなたの中の魔力を抜いてシフォンに移すわ〜」
「魔力って血液みたいなものなんですね……」
「ふふ。液体では無いけど、そうかもしれないわね」
智優は詩芙音の横に寝かされる。
安藤先生が片手は智優の腕に触れ、もう片方の手を詩芙音の腕に触れ、先ほどと同じように言葉とも云えないような言葉を詠唱すると、智優の腕に一瞬痛みが走り、そして身体の中に在る何かが少しづつ抜けていく感じがした。
詩芙音の身体は一度びくんと跳ね上がり、小刻みに痙攣しているようだった。
「……ごく微細な空間を創り、あなたとシフォンの身体の中を繋いだのよ……」
遠くなりそうな意識を必死に保ち、横の詩芙音を見つめる。柔らかそうな髪の毛と形が良い耳、目を瞑っていても分かるほど長いまつ毛、綺麗な曲線を描く鼻、そして少し開いた小さな甘い唇……
酷く血色が悪かった顔が、元の顔色の悪さに少しづつ戻っていくのだった。
◇◇◇
――詩芙音の夢のなか、未流との思い出
シフォンが目を覚ます。
(いつもの天井だわ……)
六角形の部屋の真ん中に置かれたベッドのうえ、見上げるとゼロとイチ、数字と英字が書かれた紙が何枚も貼り付けられている。
シフォンは全く新しい概念の魔法の研究に明け暮れている。既に存在する魔法ならば全ての仕組みを習得したため、今やどのような魔女にでもなれるというのに、シフォンは新しい魔法に挑戦しているのだ。
シフォンが必死で確立しようとしているのが『ロジック』をベースにした魔法だ。
目覚めからしばらく経ちノックが聞こえ、2つのグラスを持ったロムがシフォンの部屋に入ってくる。
「まーた徹夜なの??身体壊すようなマネだけは止めてよね。昔と違って魔女機関も煩いんだからね」
「ははは。でも新しいグリモワールの創生はロム卿の念願でしょう??」
「それはそうだけど貴女が倒れたら戦力組織に訴えられてしまうわ」
「その時は部下が勝手にやりました、ってね」
「その方が重大問題だわ!」
そんなことを云いながら笑っていると部屋が振動で揺れ、魔法研究室の外で膨大な魔力が溢れ出しているのがビリビリと伝わってくる。
「な!?コレは一体!!」
窓の外を見ると小さな背丈の少女がツインテールを逆立たせて両手を上下にブンブン振っている。ツインテールの先端からはあらゆる色に変化した魔力が吹き出しているのが分かる。
「ひーーーーー、ちょ、ちょっと!魔力が止まらないですわーーーーー!!!!」
目を丸くしているロムにシフォンが問い詰める。
「ロム!だからあの子に魔力制御の練習はまだ早いと云ったのに!!」
「は?何なのあの魔力の量は??」
「あの子の魔力は並の魔女とは比べ物にならないほど強力なの!」
「で、で?」
「そして自分で自分の魔力を制御できないのよ、あのアンポンタンは!」
そういうや否やシフォンは飛び起きるとフワリと舞い上がり、自室を飛び出してミルの元へ向かう。
「もう、相変わらず制御が下手クソね!」
「な、なんですの貴女!大きなお世話……、って、きゃーーー」
魔力の暴走に収集がつかなくなっているミルのツインテールの片方をむんずと掴み上げ、もう片方の手で握り締めた拳の一撃をミルのみぞおちにお見舞いする!
「ぐっはぁ!!」
ミルの『値(魂)』が口からポッケろと吐き出されて『変数(身体)』はグッタリと動かなくなる。ただツインテールの先端から間欠泉のように吹き出す魔力は止まることがない……
そこへすかさずシフォンが乗り移ることで魔力の暴走を止めるのだった。
ミルの魔力の暴走は無事止めることができたのだが、その後、ミルの魔力を飲んで悪酔いしたシフォンは酷〜い二日酔いに悩まされることになるのだった……
――再び、詩芙音の部屋
ふふ……
皆に見守られる中、詩芙音が目を覚ます。
「あ、詩芙音姉さま、笑った?」
「こぉんのバカ未流がーー!あんたの魔力なんて飲めたものじゃないわ!!また二日酔いになるところだったじゃない!!」
起きがけに未流の広いおでこにチョップする詩芙音だった。
「痛っ!ひ、酷いですわー!!」
「ふん、やれやれだ!
ホッとしたところで悪いがの。敵の魔力を検知したぞい!」
詩芙音の部屋に黒猫ロムのオッサン声が響くのだった……




