第20話 全弾発射で森林火災?
――廃工場の戦いと同じ頃
智優と栞と別れた詩芙音と未流は二人で帰途についた。詩芙音の腕に絡みつき、この上ないほどベッタリと密着する未流……
未流の大きなツインテールが嬉しそうに揺れている。
「詩芙音姉さま、ようやく二人っきりになれましたわ!」
「いや」
「このまま二人で何処かへ旅立ちますか??きっと私たち二人なら最良のカタチのグリモワールが創生されると思いますわ!!」
「いや……」
「家に着いたらU-Tube動画配信が先?Svitchが先?それともワ・タ・シ??」
「いやーーー!もう離れてよ、暑苦しいー!!っていうか、絶対にうちの家に上げないからね!!」
詩芙音はアイアンクローで抱きつく未流を引き剥がそうと必死になるが、船底にへばり付いた貝のように離れない……
(……姉さま。姉さま、聞こえますか?)
未流は詩芙音にへばり付いたまま、念波で詩芙音に話しかける。
(ああ、聞こえている……)
(先ほどから我々に迫ってきている存在を後方に感じます)
(ん、遠いから気付かなかったのかな?……。敵か?)
(まだ分かりません……。ですが強力な魔力を持っているようです)
念波で話掛ける未流は腕に絡みついた表情を崩さない。周りからは仲の良い小学生の女子二人がイチャついているようにしか見えないだろう。
(ココは人通りがあってマズいわ。次の道を曲がって人気の無い森林公園に向かいましょう!)
(了解しましたわ、お姉さま!)
住宅街に向かう下校の道を曲がり、緩やかな坂を昇っていくと住宅街を見渡せる県立の森林公園がある。住空間と自然空間の調和、翔北市のニュータウンが掲げるコンセプトに基づいた公園だった。
二人が公園の森林に入ると『敵』は一気に距離を詰めてきた!
既に日は落ち、空には月の明かりが輝き、棚引く雲を照らしている。雲で月明かりが遮られた瞬間、のっぺりとした仮面を被り、大きな外套を揺らせたキワどいボディスーツの女が舞い降り、空中で静止している……
「あらあら、お急ぎだったかしら?まあ、ゆっくり遊びましょうよ!」
誘拐犯が掛けてきた電話から聞こえる変声器でフィルターしたような声。両腕は外套を広げ、足の先まで伸びた爪を光らせる女が不敵な口調で語りかける。
「お前は誰だ!?」
「私たちは……、そうね『噂を操る者』とでも名乗っておこうかしら」
「私たちを『モーダルの魔女』と知ってのろうぜ……」
詩芙音が皆まで云う前に得体の知れない女が攻撃を仕掛けてくる!
ひゅんっ!!
二人の後ろの大木が鋭利な切り口で両断されて倒れていく。そしてキラリと光る何本もの線。
外套の先から伸びた糸が凶器となり襲ってきているのだ!
だが詩芙音と未流はフワリと舞い上がって空中でバク転し、女の攻撃をかわすのだった。
(人間サイズの大きさの割に攻撃範囲が広い……。厄介な敵だわ)
(何とか懐に入れば糸が届かなくなるのではないでしょうか?)
(仮に懐に入れたとしてどうするっていうの?私は魔力不足で役立たず、あなたは魔力があっても戦闘向きの『魔女』ではない)
二人が頭を捻って敵に抗う方法を考えている間も攻撃の手は緩まない。
「あらあら、偉そうな『魔女』さまは一体どうしたのかしら〜。うふふ、私の攻撃に手も足も出ない??」
華麗に宙を舞い、女の攻撃をかわし続けるが反撃の糸口が掴めない……
(お姉さま!良いアイデアが!)
(未流のアイデアって嫌な予感しかしないのよね……)
(ひ、酷いですわ!でも何もできないよりはマシというもの!)
攻撃をかわし続けながら念波で会話する器用な二人。
(で、どんなアイデアよ?)
(私の魔力をお姉さまにお譲り致しますわ!そうしたらあの化け物を倒すだけの攻撃ができるはず!如何でしょうか!?)
(悪くない。悪くないけどどうやって……)
詩芙音が一旦、着地して次の跳躍に備えて上を向いた瞬間。
ふわりふわりと舞い降りた未流が詩芙音の目の前に迫り、唇に柔らかいモノが触れて、未流の温かい魔力が流れ込んで来る!
(!!!!!!!)
(ぷはぁーー。未流は果報者ですわー)
(こぉぉぉんのバカ未流!後で覚えておきなさいよ!マジでお仕置きだからね!!)
未流から魔力を受け取った詩芙音は大きく跳躍し、攻撃をかわしながら女の方へ落下をしていく。狙い通り、女の外套の下に着地し、攻撃しようとしたその時!!
ドクッ!ドクン!ドクン!!!
激しい動悸に襲われ、着地した場所で膝をつき、動けなくなってしまう。そこへ縦横無尽に伸びていた糸が無数の針のように降ってきて詩芙音の身体を貫いていく!
「短絡的だわー。この糸、本体の下は攻撃できないとでも思ったのかしら??」
(姉さまっ!詩芙音姉さまーーー!!)
必死に念波で話し掛けるが詩芙音の反応は無い。詩芙音の姿を確認すると口から白いモノを吐き出して白目を向いて痙攣しているではないか!?
(一体、お姉さまに何が??きゃっ!!!)
未流が油断したスキにピアノ線のような糸が襲い掛かり未流の身体も貫いていく。
「ぎぃーーーーーー!痛い!痛いですわ!!」
(くそ、詩芙音姉さまのグリモワール創生を半ばにして、こんな敵にやられるとは……)
「あらあら、若い子は諦めが早くて教育的指導の甲斐がないわね〜」
女がトドメの一撃を二人に向けて放った瞬間、はるか上空から雲を突き抜けて一閃の光が走り、糸を切り裂いていく!
=====Aliceシステム起動=====
<ターゲット異形『噂を操る者』確認。
兵装リミッター解除、攻撃体勢へ移行>
無機質な音声とともに背中、腰、足、およそ全身を覆うような巨大な兵装を備えた小学生くらいの少女が降臨する。
兵装に書かれた文字は『有栖川重工業』、
少女の胸元のプレートには
『対異形迎撃用アンドロイド
Asdf-506xx TypeGH』とある!
(な、何なのコイツは?味方?それとも敵??)
「あらあら、タイミングが良いところで新しいお客様!今日は面白いことだらけね。まだまだ死ねないわ〜」
<我、会敵す。攻撃準備を開始!>
ゴウン、ゴウン、ゴウン……
少女の肩から二の腕を囲う兵装がゆっくり開き、中に装填された無数の弾頭が顕になる。
(え?ウソでしょ!?アイツ、こんな場所でミサイルを撃つ気??)
<一撃必殺、全弾発射!!>
(んぎゃーーーーー!!!!)
未流は自分の倍近い背丈の詩芙音を必死で抱え、高度上空へ一気に飛び上がる!眼下では大きな爆発音が聞こえ、森林が燃え上がっている……
そこには二人に攻撃を仕掛けた女の姿は見えず、気配も消えたようだった。
(な、何なんだアイツらは!?)
そう呟くと未流はグッタリした詩芙音を抱えて野伊間家へ向かってヨタヨタ、フラフラと飛行するのだった。重くない、重くない……
◇◇◇
――廃工場、その後
鈴偶駆は不良中学生を叩きのめした後、気絶した妹の智優を抱え、血相を変えて消えていった。病院に連れて行くのだろうか?
俺の兄、花田業は引き連れた手下の中学生に命令して今回の犯人たち4人を連れて出て行った。
取り残された俺は床に転がった親友、貞男に声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
自分の吐瀉物に塗れた貞男が床に転がったまま上を向き、俺と目を合わせる。身体と心の痛み、泣きはらした目は光を失っているかのようだった。
「巻き込んでゴメンな、透……」
「気にするなよ。それよりお互い生きててヨカッタな!」
「ああ。でも鈴偶のヤツまで殴られて……」
また泣き出しそうになる貞男を励ます俺。
本音を云うと鈴偶を巻き込んだことへの後悔で泣き出したいのは俺の方だった。
「一体、何があったのか教えてくれるか?」
「ああ……」
上半身を起こして座ると貞男は話し始めた……
「最初に声を掛けられたのはゲーセンだった。暇だったら遊ばないか?って。ちょうど、秘密基地のリノベも終わって暇になってた頃だったし、新しい『遊び』を覚えたら皆とやれるかなと思って付き合ったんだ。そうしたら、あいつらの『遊び』ってモノを盗るスリルを味わう犯罪だった……」
貞男は拳を床に叩きつけて続けた。
「俺たちの秘密基地まで自分たちのモノにするぞ!って脅されて、一回だけの約束で『遊び』に付き合うと犯罪に加担したことを更に脅されて……」
貞男は吐瀉物で汚れた手で顔を覆い、ベソをかき始める……
「貞男、もういい。もういいよ。終わったんだ。あとは兄貴たちが何とかしてくれるさ。それよりもお互いヒデー顔だ。公園で洗ってマイホームに帰ろうぜ……」
帰り道の途中、懐かしい小さな公園で汚れた顔や洋服を洗い流すと、お互い少しだけ見れた状態になった。
どちらともなく、むかし二人で家出の夜に語り明かしたドーム状の滑り台の中に入っていく。小学1年生だった頃に比べて滑り台の中は狭く感じた。
「なあ、透……」
「あ?どうした貞男?」
「俺たち、あの時よりも大きくなったはずなのに『大人』に近づいてるのかな?」
「ああ、分かんねーけどよ。一度や二度の失敗で先が無ぇーみたいなことは思うべきじゃねーな!」
「透のくせにまともなこと、云うじゃんか!」
「あ?何だこのやろ!?」
貞男を小突いて笑う俺。
「なあ……?」
「あ?」
「お前、鈴偶のこと、好きなんだろ?」
俺は顔を真っ赤にして否定しようとしたが、次の言葉が続かず、ただ黙ることしかできなかった。
「分かるよ。あいつ、普段は男みたいな格好してるけど女装したら可愛かったもんな」
「……」
「いつもちょっかい出してたの、好きだからなんだろ?」
「……」
「今度、今日のこと謝る時に告っちゃえよ」
「違うんだ、貞男……」
「何が違う?お前、アイツのこと、好きなんだろ?」
「微妙に違うんだよ。俺が好きなのはアイツの……」
俺の言葉をかき消すような爆発音が遠くで鳴り響いた。全ての声が爆発音でかき消された中、貞男は理解を示すように頷いていた。
しばらくすると消防車のけたたましいサイレン音が聞こえてきた。公園まで森林の木の焼ける煙に覆われてきたので、俺たちは急いで滑り台から出て自宅に向かって走り出すのだった。




