第18話 友だちならば当然のこと
――放課後、舞金小の6-2教室
かったるい授業に眠くなった目を擦りながら俺は東海林貞男の席に行き、放課後の予定を確認する。
「よう、今日は秘密基地来るのか、貞男?お前、いねーと食料(お菓子のこと)が足りねーって煩い奴がいるんだけど」
「悪い、悪い!最近、家の手伝いが忙しくてよ!!もうすぐ中学生だからってコキ使われてるんだわ。また、今度な?」
「んだよ、バックレればいいだろうが!?」
「よくねーよ。そんなことしたら夕飯抜きで餓死するわ!」
想定通りの答えを返す貞男をそれとなく、だが注意深く観察する。
いつもと同じ雰囲気のように見えるが、どことなく暗い感じがする。貞男とは1年生からの友だちだ。どこが暗いかと聞かれば困ってしまうが、とにかく分かるのだ。
(うーん、見えるところは変わらないか……)
「つれねーなー。小学生の最後に何をするか話し合いたいから次は絶対来いよ!」
「あ、ああ!もちろんだぜ!!」
そういうと貞男はランドセルを背負い足早に教室を出ていった。いつもならばこのまま秘密基地へ向かうところだが、今日は違う。
教室の窓の下に貞男が見えると急ぎ行動を開始した。貞男が後ろを振り返っても見つからない距離を保ちつつ後に着いて行く。免許の要らない無線機はオンのまま、片耳にイヤホンを突っ込んで別の場所から着いて行く樹と波阿斗からの連絡に耳を澄ます。
探偵ドラマによくあるやつ。そう尾行だ……
――街はずれの廃工場
貞男は小学校から出てから焦り気味に移動して住宅街に入る手前にある小さな廃工場へ入っていった。
廃工場の正面の壁から中の様子を窺うと何人か人がいるようで話声が聞こえてくるが、具体的な内容は分からない。
(おい樹、波阿斗、そっちから何か見えるか?こっちは何も見えないし、話の内容も聞こえないぜ)
(今、工場の裏側にいますが、こっちも同じく何も分からないですね〜)
樹が小声で状況を教えてくれる。貞男の他に誰かいることは確実なのだが、無事なのか!?そもそも危険なのか??
(おい、デブ!そっちはどうだ?)
(……腹、減った。動きたくない……)
(おいおい!終わったらヤック奢るからちゃんと報告してくれよ……)
(……ヤック。ハンバーガー7個……)
(!!!)
(……中学生の制服。貞男が頭を下げてる……)
案の定だ!不良中学生とツルんでる小学生は貞男に間違いない!でも頭を下げてるってどういうことだ??
俺が頭を捻っているうちに廃工場の中から人が動く気配がする。
舞金中の制服を着た4人が廃工場から出てくる。特に見た目がヤンキーというわけでも無く、格好はごく普通。でも目つきは弱い小動物を追い回す残酷な狩人のようだった。
貞男は4人が歩く真ん中に挟まれ、首に腕を絡まれ、真っ青な表情は今にも泣きそうだった。
(あの中学生は貞男の知り合い!?いやイジメられている??でも暴力を受けた様子も無い……)
俺がどうすべきか躊躇しているうちに4人の中学生と貞男は商店街に向かって歩き出すのだった。
(もしもし、透クン?)
(ああ、聞こえてる)
(貞男クン、どうした?)
(今、中学生に囲まれて工場から出てった……)
(どーする!?何かヤバいよ!)
(うるせーな、分かってんだよ!!)
(……)
無線機ごしに樹を怒鳴ってしまったことを激しく後悔する。貞男が大変なコトを知ってしまった。
俺が何とかしなくちゃイケナイ!
悩むことはない!友だちとして当然のことだ!
(樹、怒鳴って悪い……)
(いいっすよ。いいっすけど、どうする??)
(波阿斗と二人で……に状況を伝えて欲しい。俺はこのまま貞男の尾行を続ける。無線のチャンネルはそのままにしておくから商店街近くに着いたら連絡をくれ!)
(ラジャー!でも透くん、何があるか分からないから気を付けてくださいよ!!)
(ふん!任せとけよ!!)
強がってみせたが内心は不安で一杯。だがしかし親友の貞男に何かあってからでは悔やみきれない。俺は勇気を振り絞って4人の中学生と貞男の後を追いかけるのだった。
――舞金商店街の一角
近くに大きなショッピングモールができたために寂れた商店街。真新しさは無いが生活に必要な最低限のお店が並んでおり、ちょっとした用事ならば全て事済む便利な場所だ。
その商店街の中にある本屋。寂れた商店街に不釣り合いの大きさの店舗で品揃えも充実しており、小学生や中学生が頻繁に出入りしてマンガや雑誌、児童向けの小説やラノベが売れていく。
4人の中学生は本屋に入っていく。
少し遅れて貞男も一人、本屋に入っていく……
(ああ、嫌なことが起きようとしている……
聞いてた話のまんまじゃねーか!?)
俺は店の外で拳を握りしめ、彼らが何をするのか凝視するのだった。
◇◇◇
――もう一つの下校風景
賑やかな4人の女子が狭い道に広がって歩いている。
「ねえ、詩芙音姉さま!私、姉さまと二人で帰りたいですわ!!」
「いや」
「詩芙音ちゃん、未流ちゃんって可愛い妹みたいだね!うちはガサツな兄貴しかいないから羨ましいよ!!」
「いや……」
「ねえ、智優ちゃん。仲いい二人の邪魔しちゃ悪いから私たち二人で帰る?そういえば家に美味しいお菓子があるから遊びに来る??今晩、うちの親、帰りが遅いから二人っきりで……、ネ?」
「いやーーーーー!!それなら私も行くわ!!!」
未流ちゃんが転入してからというもの、詩芙音ちゃんは未流ちゃんにガッチリとマウントされ、死んだような表情が張り付いたままになっていた。
詩芙音の腕に絡みつきニコニコ笑顔の未流ちゃん。乱暴な兄貴に飽き飽きしていた私は未流ちゃんのような妹が欲しくて仕方ないのだ。
「ちょっと私のこと年下扱いしてない!?背が低いからって頭、撫でんな、コラーー!!」
「はっ!いけない、いけない……ついウッカリ!」
「つい?ウッカリ?1日何回も撫でやがって!ついもウッカリもあるかー!」
「まあまあ、未流ちゃん。智優ちゃんって天然の王子様だから怒ってたら身が持たないよ」
「ま、また酷いこと云ってない、栞ちゃん……」
「えへ☆だって本当のことでしょ?」
舌を出してウィンクする栞ちゃん。否定しないところが更に酷い……。ひんひん。
「だいたい私はお前のこと許したわけじゃないんだぞ!早く姉さまの貞操を返しなさいよ!!」
「貞操じゃなくて魔力!!話をややこしくしないで未流!!」
「で、でもコイツから漂う姉さまの雰囲気を感じてたら喪失感でハンパなくて……。すんすん」
(いやー、クールキャラだった詩芙音ちゃんが活き活きしてて未流ちゃんの存在ってスゴイな〜。まさに『尊い』感じだ!!)
「その『尊い』の使い方、間違ってると思うよ、智優ちゃん?」
「え!?何で私が思ったことが分かるの、栞ちゃん!?」
「えへ☆それはね……」
そんな話で盛り上がっていると、前方から血相を変えて走ってくる男の子たちが見える。
小さい方は小柄の割に足が遅く、太った方が意外と俊敏な動きだ。走っているように見えるのだが、二人の走る速さが違いすぎて全然速くない。というか鈍い……
ん?どっかで見たことがあるぞ。ああ、透が率いる悪ガキグループのメンバーだ。確か5年生の
金谷樹くんと座間波阿斗くんか。
「おーい、急いでそうな割に動きが鈍いけどどうしたー?」
「はあ、はあ、はあ。死にそう……」
樹くんは既に力尽きかけているようで私たちの前で止まると地べたに座り込んでしまった。
「おーい、大丈夫か〜。往来の邪魔だから端っこに寄りなよ〜」
「はひ、はひ……」
「そんなに急いでどうしたの?透がイタズラでヘマして怪我したとか??」
また悪ガキグループが下らないイタズラして逃げてきたんだろうと思って笑っていると、俊敏なデブの波阿斗くんが状況の説明を始めた。無口ゆえに簡潔な説明、グッジョブ!
説明を聞き終わり、目を瞑る私。
(私より弱いくせにカッコつけてバカな透!もー、しょうがないんだから!!)
「詩芙音ちゃん、未流ちゃん、ゴメン!!帰り道はココまで。用事ができちゃった」
「うん、いいよ〜」
「栞ちゃん、ゴメンだけど頼まれて。うちの兄貴が家にいるはずだから伝えてくれないかな」
「駆さんね。任せておいて!」
私の考えたことなんてお見通しの二人。爽やかな笑顔で答えてくれる。
「……ふーんだ!始めっからお呼びじゃな……、ぎゅむ!」
詩芙音ちゃんのアイアンクローを食らい黙るしかない未流ちゃんだった。




