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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第2章 三人協力、パワー全開!
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第17話 噂を操る者、人を操る者


――夜がけた頃、舞金小まいがねしょう用務員室ようむいんしつ


 学校から間借まがりした用務員が寝泊まりするための部屋は掃除が行き届いておらず、お世辞せじにも清潔とは云い難い。嗅覚きゅうかくが人並ならばどことなく部屋からただようカビのにおいにまゆをしかめるところだろう。


 用務員の佐藤さとうゆずる探知魔法たんちまほうを使って自分の手下となる『かげ』の適合者てきごうしゃを探すのに躍起やっきになっていた。先日、ロジカル・シフォンとの戦いで失った『影』を補うための適合者を探し、戦力を作り出すことが目下もっか緊急きんきゅうの課題だ。


(クソっ!!『影化かげか』の条件に合致がっちする人間を見つけるのも一苦労ひとくろうだぜ)


 じょりじょりと無精髭ぶしょうひげさすりながら、貧乏ゆすりが止まない。


 佐藤の手のひらには魔法で展開されたドーム状の羅針盤らしんばんが広がり、その中心には光の矢印が現れたり、消えたり、太くなったり、細くなったり、更に色も七色に変わりながら目の回るような変化を繰り返していた。


「ね〜え、私 退屈たいくつだわ〜。一体いつになったらロジカル・シフォンに戦いを仕掛けるのかしら??」

「っ!!!!!」


 無我夢中むがむちゅう。探知魔法に集中していた背後はいごから急に声を掛けられ、佐藤の心臓が止まりそうになる。


 メガネを掛け、なく髪の毛を束ねた女、臨時教員りんじきょういん笹塚ささづか愛美あいみが佐藤の横から割り込み、手のひらの探知魔法のドームを覗きみていた。


 笹塚のせいで集中力が切れて2時間苦労した探知が台無しになり大声で怒鳴りたくなるが、熱い思いをぐっと押さえ込み、なるべく丁寧ていねいに応対しようと静かに深呼吸しんこきゅうを繰り返す。大人の対応、大事!


「も、申し訳ありません!マダム!!今晩中にでも『影』の適合者を探して次の戦いに備えます故、ご容赦ようしゃを……」

「マダム?……」

「?」

「マダム!?……」

「ひっ!!し、失礼しました。レディ!!」

「勝手に年寄りみたいな呼び名を使わないで。全く油断もスキもあったものじゃない」


 呼称こしょう訂正ていせいする直前、笹塚からあふれた魔力が極細ごくぼそとげとなり、佐藤の目玉に刺さりそうになるギリギリのところまでせまっていた。女性の呼称、大事!


「まあ、『影』は『黄昏時たそがれどき告解室こくかいしつ』のうわさの効果を試し、ついでに『モーダル』の連中の相手をするためだけの駒。暇つぶしの実験に過ぎないから急がないわ、ふはははん」

「はっ!」


(くそ、人の苦労も考えずに簡単に云いやがって!これだから偉いヤツは……)


「何か云いたいことでもあるのかしら??」

「っつ!鋭意努力えいいどりょくいたします!!」


 鋭い指摘に……がしぼむような思いになる佐藤だった。


「それよりも重大な事案じあんは『英霊えいれいの復活』よ!こちらは昨日今日でぽっと湧いた噂で現実化できるものではないから、準備をおこたららないよう入念に頼むわ」

「その事案につきましても烏丸山からすまやまを中心に翔北市内へ『英霊の噂』を拡散中ですので徐々に現実化の力を帯びてくるものと思います」

「ええ、期待しているわ」


 笹塚の表情のとぼしい形だけの笑顔に冷水を掛けられるような思いを感じる佐藤だった。


 急に辺りに花びらが舞い上がり、バラの濃い匂いに包まれる。ハッと思い、顔を上げると先ほどまでそこにいたさい女は消え、全身に密着する黒いボディスーツに身を包んだ派手な女が立っていた。


「暇で暇で死んでしまいそう。だから退屈で死んでしまう前に自分の死に場所を探してくるとするわ!後のことは頼んだわよー」

「はっ!私めにお任せを」


 長いマントをひるがえして全身を包むと女の姿は消え、用務員室は花びらとバラの匂いだけが残されていた。


「何かというと上役うわやくって『頼んだ』しか云わねーな。それにしても大量の花びら……。誰が片付けるんだよ……。って俺しかいないか。頼むから邪魔しないでくれよ……」


 用務員室には呆然ぼうぜんと立ち尽くし、涙目なみだめになっている佐藤だけが取り残されていたのだった。


◇◇◇


――悪ガキたちの楽園、秘密基地


「全く分からねぇ……

 俺は鈴偶が好きなのか??

 でも女装した鈴偶を見ても……」


 小学校が終わった後、いつもように秘密基地に集まる悪ガキグループ。リーダーの花田はなだとおると5年生の金谷かなやいつき座間ざま波阿斗はあと。ただ、いつもと違うのはそこに透の親友、東海林しょうじ貞男さだおがいないことだ。


「ちゃーっす。あれ、今日は透クンだけっすか?」

「……ちわ。腹減った……」

「ああ、貞男のやつ、今日も家の手伝いがどうこう云ってさっさと帰りやがった。今まで欠かさず集まってたのによ」


 透はボロテーブルの上に足を投げ出した姿勢で文句を云っている。樹と波阿斗も定位置のボロ椅子に座り、ふんぞり返る。


「そりゃ、ツレないですね〜。貞男クン、どうしちゃったんだろ?家の手伝いっつっても商売やってるわけでもないのに妙な話ですネ」

「だよな〜。あいつがいねーと大切な食料(菓子のこと)がそろわねーしよぅ」

「ヒデー、貞男クンの心配より菓子の心配ですか?」

「だって、ほら」


 透が指した先には腹が減って我慢できなくなった波阿斗が既にポテチに手を付けてモリモリと食べ始めているところだった。


「全くリノベの後は何を作るか話し合いたかったのによー。もう卒業まで時間が無いっつうの」

「えっ?透クン、中学行っても秘密基地仲間じゃ!?」

「おいおい、中学行ってまで小学生の秘密基地なんて付き合えるかよ?」


 豪快ごうかいに笑う透だったが、樹は不満げに口をとがらしている。


「いつまでも悪ガキグループの仲間じゃないっすか〜」

「バーカ、いつまでも一緒なわけないだろ。お前たちは次の仲間を探して秘密基地を引き継いでいくんだよ」

「は、はあ」

「いつまでも終わらない悪ガキの城!な、いいだろ!」

「うわー、頑張って後輩を探さなきゃならんっすね」


 腕を組んでうなる樹の横でポテチを口いっぱいに頬張ほおばった波阿斗がブンブンとうなずいていた。


「ところで透クン……」

「あ、どうした?樹?」

「こないだ話した舞金中まいがねちゅうの不良グループの件」

「ああ、胸くそ悪そうな話な。何か動きでもあったのか?」

「うちの家、商売やってる関係で商店街の店の話が聞こえてくるんですよ。で、うちの親が聞いた話によると最近多いらしいんですよ、コレ」


 樹は人指を伸ばして鍵字かぎじし、クイクイと曲げた。


「やけに勿体もったいぶるな。コレって何だよ?」

「『川中様』ってやつですよ」

「はー、何云ってんだお前!?川中ってどこのどいつだよ!?」

「川中ってのは『買わなか、った』、つまり万引きのことをさす業界用語ひみつのことばですよ」

「はあ??」


 樹は一般人は知らないであろう業界用語を自慢したくてしょうがない素振りで透に説明していた。透は何の話が始まったのか分からず混乱するばかり……


「最近、舞金中の不良グループが商店街をウロウロするようになったらしいんですよ」

「ああ」

「店の中で集団で騒いだり、明らさまな動きをするものだから、どの店も中学生たちを警戒けいかいして監視かんししてたんですけど一向に尻尾しっぽをださない。まあ、思い過ごしかと思って放っといたら、売上と在庫の計算が合わない日が増えてきたみたいで」

「でも監視してても中学生は何もやってないんだろ?それでどうした??」


 中学生が何かやってる。それは直感で分かるのだが具体的に何が起きているのか、さっぱり分からず首をひねる透。


「で、ですね。おかしいと思って防犯カメラの録画を見ると中学生が騒ぐ日はいつも同じ少年がいるらしいっすよ」

「あー、そいつがグルやったんじゃねーか?で、どうした?」

「透クン、驚かないでくださいよ……」


 樹は身を乗り出して透の目の前に迫る。樹の表情は真剣そのもので、透は思わずツバを飲み込み次の言葉を待つ。


「……その少年っていうのが、どうも貞男クンっぽいって話なんですよ」


 透は耳を疑った。貞男とは散々、イタズラしてきた仲間だから知っている。彼は人に迷惑を掛けるイタズラこそすれ、人の物を盗ったり、人に重大な傷を負わせたり、犯罪者となるようなことは嫌っていた。いわゆる『一線』は超えない、それが俺たちの暗黙のルールだったのだ。

 それが何故……?


「いや、まだ貞男が関わっていると決まった訳じゃねえ!この件は俺が預かる!!」

「俺も貞男クンがやったとは思いたくねぇ。透クン、頼みましたよ!」

「……貞男クンの分の菓子、足りない……」


 空気を読まない波阿斗の頭をぱたく樹だった。


(貞男、一体何があったんだ?関係ないって云ってくれよ)


 貞男のことで頭が一杯になり、鈴偶のことで悩んでいたことなぞ、すっかり忘れてしまった透だった。


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