第12話 魔女機関『モーダル』
魔女機関『モーダル』、人間の記憶が始まり、文明を持つ遥か以前から存在する組織の一つ。
ここ最近(約4000年くらい)では人類の歴史の裏舞台にたびたび登場し、影響を及ぼしてきた。時には人類に過酷な試練を与えて試し、時には強大な力を行使し人類の存続を支えてきた。
今夜は不定期の最高幹部会の日だった。
『モーダル』の本拠地がある生と死の狭間『不識の塔』最上階の会議室の中は何処まで部屋の空間が続くのか分からないような漆黒の闇に包まれていた。
闇の中に浮かぶ2つの存在、それは『モーダル』の内部を分ける7つの組織の組織長、第一階位のモノたちだった。
『アイオニアン』第一階位、ロム卿に話しかけるモノがいる。
「やあ、ロム卿!ご無沙汰でしたね、相変わらずお早い到着だ」
「これは『ドリアン』第一階位、バイオス卿。もう何十年ぶりだろうかの?」
「ふふふ、既に時間の概念など意識しておりませぬ故、何ヶ月前なのか何百年前なのか分かりませんな」
「我々は否応無くニンゲンと関わる故、時間の概念は捨てない方が良いですぞ」
「有難きお言葉。心得ましたぞ、ロム卿」
(相変わらず食えないヤツだ。さっさと本題を切り出せば良いのに)
長い口ひげを丁寧にさすり、勿体つけながら本題を切り出してくるバイオス卿の姿勢にロムは苛立ちを覚える。
「ところで……
風の噂で現在、進行中の『案件』は順調と伺い安心しておりました」
「くっくっくっ!
噂の出元の魔女に助けてもらったからの。
極めて順調と云えるわ」
「それは喜ばしいことでございますな!」
(何を云わせたいか分かっておるわ、若造め!)
「貴卿の部下、『空間の魔女』殿には過分の支援を頂いた。うちのシフォンに代わり礼を云う」
私が頭を下げかけると流石のバイオス卿も悪巫山戯が過ぎたことに気付き慌ててフォローをするのだった。
「止めましょう、ロム卿。我々の目的はグリモワールの新作を完成させること。『モーダル』に属する魔女が支援するのは当然でございましょう」
バイオス卿との戯れに興じているうちに他の組織の第一階位が揃ったようだった。
『アイオニアン』のロム卿と『ドリアン』のバイオス卿、そして続く『フリジアン』『リディアン』『ミクソリディアン』『エオリアン』の第一階位の魔女たち。
(相変わらず『ロクリアン』の第一階位は不在か。自由奔放も困りものだな)
「定刻となった。これより魔女機関『モーダル』最高幹部会を始める。ではまず私からグリモワールの新作の進捗状況を……」
私は高く掲げた両手を眼前に印を結び、諸卿への敬意を表す詠唱を唱えた後、進捗状況の説明を始めるのだった。
――魔女機関『モーダル』最高幹部会終了後
『静寂の間』
『フリジアン』第7階位の魔女、ミルは自分の結界で爪を齧りながら空中を睨んでいた。
「シフォン姉さまがニンゲンと融合?あり得ないわ!」
「まあ、グリモワール創造に必要ならば止むなしではないか?」
「お父様は黙って聞いていたの!?私のシフォン姉さまがニンゲンの小娘に奪われたというのに!」
『フリジアン』第1階位の魔女、メムは愛娘ミルの口の悪さに苦笑いをしながら応えた。
「まあ、融合といっても臨時のことに違いあるまい。それで新作グリモワールが完成に近づけば重畳というものだ」
「誰も彼もグリモワール、グリモワールとおっしゃりますが、私にとっては愛するシフォン姉さまが全ての中心でございますことよ!」
『モーダル』の意向に対して身も蓋もないことを云う愛娘を止めるだけの気概はメム卿にはなかった。(年頃の娘に嫌われるのが怖いから)
「分かりました!お父様!!」
愛娘の「分かりました!」は嫌な予感しかしない。次の言葉を遮ろうと口を開いた瞬間、予感は的中するのだった。
「私、ニンゲン界に行ってシフォン姉さまが融合なんてしないようにお手伝いしてきますわ!!」
「は?い、いやお前が行ってシフォン殿の邪魔をしたら私のメンツが……」
「くだらないメンツだったら捨ててくださいまし。必要だったら冷蔵庫に入った2倍濃縮でも使ってくださいな!」
(そ、それはメンつゆだよね……)
危うくツッコミそうになるのを喉元で止めて息を整えるメム卿。ミルの目には星が輝き、既に何も聞こえない状態になっていた。
いつの頃からかな〜、ミルがお母さんそっくりになってきたのは。あのお母さんの娘だもの、止められるわけないよな〜。
あーあ、ロム卿になんて説明すれば良いのやら……
ズキーーーン
急に襲ってきた胃の痛みにお腹を擦るメム卿だった……
――同じ頃、有栖川重工業 舞金試験場
拡散したレーザーを一点集中して攻撃対象を破壊する試験を終えたアンドロイドが煙を吹いている。レーザー射出用バレルが出力の負荷に耐えられなかったようだ。
ガラス張りのデータルームから実験結果を眺める有栖川東彦上席研究員は良好だったレーザーの威力と不良だった事後経過に複雑な心境を示していた。
「レーザー射出試験完了。収束率72%、対象破壊レベルクリア」
「うーん、もう少し収束率を上げられれば威力が増すんだけどな〜。レンズで調整するか……」
対異形迎撃用アンドロイド『Asdf-506xx TypeGH』
小学生くらいの少女を本体として背後、両手、腰下に巨大な兵装デバイスを装着している。展開した兵装デバイスがあまりに大きいため、少女はデバイスにすっぽりと包まれて浮いているような形になっている。
先ほどのレーザーは背後の兵装デバイスから伸びた6本のレーザー射出バレルから一斉発射されたのだった。
ビーーーーーーーーーーー!!!
『Asdf-506xx TypeGH』から警告音がけたたましく鳴り響く。
「メモリ不足発生、メモリ不足発生。
兵装デバイス収納失敗、OS再起動シマス」
コンパクトに変形して身体の各部位に収納されるはずの兵装デバイスがぐちゃぐちゃに絡み合って雁字搦めになっていた。
「あちゃ!ソフトにも問題ありか。OS再起動したって兵装デバイスを畳んでは仕舞えないだろうが……
こりゃ徹夜作業になるな……」
有栖川東彦はタバコを咥えて火を点けると頭を掻きむしりながらぼやいた。だが、その言葉とは裏腹に科学者としての目は鋭く光り、試作機完成に向けた狂気を讃えるのだった……
――そして放課後、舞金小学校の校舎裏
「君の気持ちは嬉しいけど……
ゴメンナサイ!」
ひゅん、スパーーーン!
風切音に続き、乾いた音が鳴り響く。
(痛ったーーーーーい。ひんひん……)
鋭いビンタが飛んだ後、私の胸に身を寄せてくる。顔を埋める直前に見えた目には涙を一杯に貯めていたが、大声で泣き出すことはプライドが許さないのだろうか、ぐっと堪えているようだった。
ふに
(あ、柔らかい……)
気丈な態度を示しても本音は隠し切れず、ショックを受けていたのだろう。少しすると小刻みに震え、嗚咽が聞こえてきた。
智優はそっと肩を抱き、頭を撫でて応えるのだった。
「うーん、30点かな〜」
「あは☆あれじゃ0点でも良いくらい」
栞ちゃんが準備してくれた濡れタオルで強烈なビンタがスマッシュヒットした私の頬を冷やしていると、横から厳しい採点が聞こえてくる。
「え?え?えーーーーー!?
ひ、酷くない?栞ちゃん、詩芙音ちゃん……
私、ちゃんとラブレターの返事したんだよー」
「えへ☆
だって智優ちゃん、最後に肩を抱いてたでしょ?おまけに頭まで撫でて。あれじゃ、もうワンチャン期待しちゃうって」
「だねー」
(ワンちゃんって何?犬が期待されるの?従順キャラってこと??)
「にゃーー(ボンヤリして何も考えないからだぞ、ボンヤリ子)」
「だから、ボンヤリしてないってばよ!」
校内に紛れ込んだ黒猫ロムが意味ありげに鳴いているけど、どうせいつものセリフでしょ!
「それで智優ちゃん、あと何人残ってるの?」
「あ、あと30人くらい……」
「モテる王子様はツライね〜」
「本当にね。全員に返事するまでに、またワンチャン狙いで告白されて待ち人数が増えてるんじゃない?」
「あは☆智優ちゃんアルアルだね!」
「そんなこと!ないアルよーー!!」
悲鳴を上げる智優と、それを茶化す詩芙音、栞、そしてロム。
今回の事件は無事に解決し、親にちょっと遅い帰宅を咎められる程度で済んだ。影との戦いで壊れた旧校舎は保健医の安藤先生が『空間の魔女』の能力を使って違う空間に分離していたため、実際のセカイでは破壊されておらず元の形のままだった。
しっかし、安藤先生も『魔女』なの?魔女って一体、どれくらい存在するの??
舞金小学校に魔女が集うのは偶然?それとも何か原因が……
奇妙な縁で結びついた4人(3人+1匹?)を巻き込む事件は続くのだった。
そう、新作グリモワールが完成するまで……
〈To Be Continued〉




