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第75話 修学旅行の夜に相応しい話

 真白と清水寺を堪能した後、俺たちは今夜泊まるホテルに戻った。

 ちなみに、俺はかけるくんと佐藤との相部屋で、帰ってくるなり「どうだった?」という質問攻めに遭った。


「俺のことはいいから、今は自分のことだけ考えろよ」

「それもそうか……」


 これから楽々浦に告白しなきゃいけないことを思い出したのか、かけるくんは気が重そうだった。

 それから少し豪勢な夕食と風呂を済ました後、俺たちは布団の頭をくっつけて雑談に興じていた。


「なっ、佐藤、お前に好きな人はいるか?」


 そう切り出したのはかけるくんだった。


「ッ!? なんだよ、急に」

「いいから、答えろよ」


 佐藤は少しモジモジしながら、


「栗花落さん……」

「お前今なんて……?」


 今度は俺が食いついた。

 まさか佐藤の口から真白の名前が出るなんて思わなかったから。


「あーもう! 二人ともいいか? このことは絶対に栗花落さんには内緒だよ!」

「小夏には話してもいいってこと?」

「倉木、お前、なかなかの性格してるな」

「いや、それほどでも」

「褒めてないッ!」


 そうか、佐藤は真白のことが好きなんだ。

 今更だけど、真白はかなりモテてるから、俺という恋人がいるからなりを潜めているだけで、心の中ではいまだに真白のことを想っている男子も少なくはないだろう。


「東雲、お前じゃなければ俺栗花落さんに告ってただろうなぁ」

「うん?」

「『ベーカー』のとき、栗花落さんがお前に告白したじゃん? あの目を見れば誰だって気づくよ、栗花落さんはお前じゃないとダメだってこと……っておい、どうした?」


 佐藤の言葉は本心からのものだろう。

 だからこそ他人にそう思われていることが嬉しくて、けれど、恥ずかしくて。


 今の顔を二人に見られたくなくて、俺は布団で顔を隠した。


「少尉のことはほっとけ。お前のせいでこうなってるんだよ」

「俺なんかしたかな」


 会話は途切れたタイミングで、俺たちは眠りについたのだった。




「少尉、少尉、少尉ってば!」


 誰かに揺さぶられて、目を開けるとかけるくんが俺の布団の前に座っていた。


「もう朝?」

「寝ぼけてるの? どう見ても夜中だぞ」

「……夜中になんで起こしたの?」

「お前にどうしても話しておきたいことがあるから」


 そう言うと、かけるくんはベランダの方を指さす。


「ちょっと月でも見ながら話そう?」




「夜は冷えるね」

「さむっ」

「で、何を話したいの?」

「少尉に手伝ってもらう手前、やはり俺と小夏のことを話さなきゃって思って」

「そういうことなら」


 かけるくんが言うには、彼と楽々浦は幼稚園の時からの幼なじみだった。

 いつも陽気なかけるくんと泣き虫な楽々浦。


 性格が真反対だからこそ、惹かれ合うものがあったのだろう。

 楽々浦はいつもかけるくんのしりを追いかけていた。


 最初はそんな泣き虫の楽々浦を鬱陶しく思うこともあったけど、段々と二人でいるのが当たり前になった。


 それは小学生になっても変わらずで、周りから見ても仲の良い友達だった。


 だが、中学生になってから、楽々浦は変わった。泣き虫だった楽々浦はいつしかクラスの人気者になっていた。

 それと引き換えに、かけるくんは昔のようにずっとガキ大将というわけにはいかなくなった。


 楽々浦はいつも成績上位にいるのに対し、かけるくんはぱっとしなかった。

 それはスポーツに関してもそう。


 次第にそれは劣等感に変わっていた。


 かけるくんは楽々浦を遠ざけるようになった。

 以前のように楽々浦から話しかけられても、かけるくんは素っ気なかった。


 今までずっと守っていた泣き虫が、今は自分にとって雲の上の存在になったからだ。


 かけるくんは悔しかった。

 だから、勉強もスポーツも頑張った。


 また昔のように、楽々浦が追いかけるような存在になりたいと、かけるくんは頑張った。

 ただ、かけるくんが自分に自信を持てるようになった頃には、かけるくんと楽々浦の接点はなくなっていた。


 その時、初めて気づいた。楽々浦のことが好きだったことに。

 でも、かけるくんは諦めなかった。


 放課後、楽々浦を校舎裏に呼び出して告白をした。

 ただ、楽々浦の返事はなかった。


 楽々浦はずっと泣いていた。


 それから、楽々浦を追いかけてかけるくんも古坂高校に入った。

 楽々浦は相変わらずクラスの中心にいるが、かけるくんは諦めなかった。


 頑張って話しかけて、いっぱい話しかけて、気づいたら普通の友達になっていた。


「はい、俺の話はこれで終わり……ってなんで泣いてるんだ、少尉」

「だって……だって……」

「もう、そんなに泣かれるとこっちが恥ずかしいよ」


 いつの間に俺は泣いていた。


 かけるくんと楽々浦の過去は俺が思ってるよりずっと切なかった。


 ――― 楽々浦はずっと泣いていた。


 かけるくんはその理由が分からなかったが、俺にはその答えがわかった気がする。

 でも、俺からかけるくんにそれを伝えるのは少し違う気がした。


 これはかけるくん自身がたどり着かなければならない答えだと思うし、楽々浦の口から話さないといけないことだ。


 俺は布団に戻って、これからの作戦を練り直した。

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