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第72.5話 雪の中でマフラーを巻いてあげた子と……

 これは時を遡って、俺が中学一年生だったときのこと―――




 東京にしては、珍しい雪だった。


 12月25日に雪が降るのはいささか不思議な気分だ。

 街灯と車の明かりに照らされている街は、聖夜独特の空気を纏っていた。


 行き交う人達の顔はどこか幸せそうで、足早に帰宅する人もたまに立ち止まって雪を見上げていた。

 木に飾り付けてあったイルミネーションは時に雪に遮られて(まばた)いてるように見える。


 積もる雪の上に足跡を刻みながら俺は先程受け取ったケーキを手に家路についていた。

 寒かったので、空いてる方の手をポケットに差し込んで、ふーふーと息をする。


 車とすれ違う瞬間に風が強くなり、その度にマフラーを巻き直す。

 

 冬は好きだ。

 四季の中で一番好きな季節を答えなさいという質問をされたら、俺は迷わずに「冬」と答えるだろう。


 ただ、何故かと言われるとそれは分からない。

 冬の落ち着いた空気も好きだし、家族で取り囲む鍋も美味しくて好き。


 でも、だからといって、それが理由かと言われるとはっきりと答えることが出来ない。

 曖昧で不透明、だけど確かにそこにあるなにか。


 俺はそんな冬が好き。


 そんなことを考えていると、街灯の下にぽつりと佇んでいる人影が見えた。

 見た感じだと俺と同じ中学生の女の子が、呆然と雪を見上げているのだった。


 そっと通り過ぎろうとしたが、その女の子の姿に思わず目を奪われてしまった。

 栗色の髪に琥珀色の瞳。切れ長な目に華奢な唇。


 ―――すごく綺麗だと思った。


 ただ、女の子はなんとなく無機質さを感じさせるような雰囲気を纏っていた。

 まるで、人形のようだった。


 よく見てみると、女の子の髪や肩には雪が降り積っていた。

 自分に降りかかる雪を振り払うのも忘れていたくらいに、ずっと茫然とここにいたのだろう。


「じっとしてて」


 なぜだか分からないが、気づいたら俺は女の子の前へと歩いた。

 そして、彼女の肩をぱらぱらと叩いて、雪を振り払う。


「え?」


 女の子は視線を俺の方に向けるが、どこか心ここに在らずという感じだった。


「嫌だったら捨てていいから」


 俺の首からマフラーを外して、そっと女の子の首に回す。

 この時初めて女の子の目に生気が灯ったように見えた。


 彼女からは渚紗と同じようなフローラルの香りがして、少しどきどきした。


 そろそろ行かなくちゃ。

 そう思ってポケットに手を突っ込んで、女の子から離れようとした時、


「私を拾ってくれませんか?」


 女の子に呼び止められた。


「拾うって?」

「ううん、言ってみただけ……」


 そこからのことはあまり覚えていない。

 ただ、女の子の寂しそうな顔は胸を締め付けていた。




「凪くん、おはよう」

「おはよう、真白」

「どうしたの? こっちをじっと見て」

「いや、まさかなと思っただけ」


 そう都合よく、その子が真白なわけがないか。

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