第39話 背中合わせのお風呂
「やっと腹を割って話せますね」
「割るのはホルモンじゃなくて俺のガラスのハートだけどね……」
「焼肉食べたくなりましたね♡」
「俺の心臓に食欲を反応させるな」
俺と真白は、背中合わせで小さな浴槽に二人して膝を抱えながら浸かっている。
恥ずかしさのあまりに、心臓が破裂しそうになる。
真白がタオルを無言で解いたあと、俺も心を無にしてタオルを取った。
簡単にシャワーを浴びたら、どちらからともなく足を浴槽に踏み入れる。
ホテルの浴槽と比べたら確かに小さいが、真白の家の大きさにふさわしいくらいには、広かった。
示し合わせたわけでもなく、お互いの背中をぴたりとくっつけて、しばらく二人とも黙っていた。
雨で冷えきった体に、ほどよい温度のお湯は体に染み渡る。
背中から感じる真白の体温は心地よくてとても落ち着く。
やはり、真白も普通の女の子なんだね……。
最近の真白を見ると、羞恥心を落として、今頃交番で拾い物扱いされているのではないかとも思ったが、どうやら裸は恥ずかしいらしい。
そこは普通の女の子の反応なんだなって少しほっとした。
きっと今のやり取りも、照れ隠しに違いない。
この状態でも俺をからかってくるなら、真白は俺が思っている以上に肝が座っている女の子かもしれない。
「私に隠し事はありませんか……?」
真白からのいきなりの質問に、思わずドギマギしてしまった。
「えっと、俺はプリンを食べた犯人じゃないぞ?」
「それ、私がこっそり食べたから知ってますよ」
「俺が今まで証拠隠滅に手を貸した労力を返せ……」
どうやら茶化しても無駄のようだ。
少なくとも、真白は自首覚悟で俺に真剣に尋ねているらしい。
「真白に手を出さない理由か……?」
「……はい」
「言わないとだめ?」
「だめ」
別に後ろめたいことじゃないけど、その理由を打ち明けるのは告白するのと同じくらい恥ずかしくてくすぐったい。
「真白への想いが変わるんじゃないかって不安なんだ……」
「私への想いが変わるの?」
「いや、そうじゃなくて……その、真白と……え、えっちしたら……真白への感情が変わるんじゃないかって話だよ」
「……」
真白から返事が返ってこないが、背中から感じる彼女の振動は俺に続きを促しているのが分かる。
「君の少し天然の入ったところ、案外独占欲が強いところ、温かくて優しいところ、いたずらっぽいところ、そして、俺だけにひまわりのような笑顔を見せるところ全部含めて、俺は栗花落真白という人間が好きだ……この想いは俺にとってほんとにほんとに大切なものだよ……だから、性欲を上手くコントロールできない思春期の俺は、君とそんなことをしてしまったら、きっとこの想いが変わってしまうのではないかって……すごく怖いんだ……」
渚紗のことを真白に初めて告白した時と同じように、俺はこの三ヶ月間思っていることを彼女に全部話した。
臆病と思われても、いくじなしと思われてもいい……真白は俺の本音が聞きたいのなら、俺はもう彼女に隠し事はしない。彼女に起こされた日から、そう決めたんだ。
「ひまわりのような笑顔?」
「あっ、ごめん、そこは忘れて……」
思わず内心で思ってることを全部ぶちまけたから、その言葉ももちろんこの小さな世界で木霊する。
「そう感じてるのなら、私への想いが変わるんじゃないかって、不安に思うことはないと思うよ?」
「え?」
「私が凪くんだけを見つめていると感じてるのなら、それはきっと凪くんもそう感じられるほど私のことだけをずっと見つめているからだよ?」
はっとした。
たまに真白の言葉に心を揺さぶられることがある。
背中越しに感じられたお湯だか真白の体温だかな温もりは彼女の声とともに、俺の心に届いて離れようとしない。
俺がいつも考えていることは自分が作った独りよがりの世界でしかないことを、真白はまたしても気づかせてくれた。
そうか……俺も、真白のことだけを、見つめていたんだな……。
「ひまわりの花言葉知ってたんだね」
「はい、女の子だから、知ってます」
「そうか」
「そして、女の子だから、大好きな男の子といつも一緒に寝て、抱きしめられて、体が触れ合ってるのに、その男の子が何もしてこないのは辛いです……」
「……ごめん」
「凪くんは……私に触れようと……思わないんですか?」
真白の言葉に心臓を掴まれたような感覚がした。
「私は凪くんに触れて欲しくて……頑張りましたよ?」
最近感じた真白の違和感の正体が今になって分かった。
女の子も、男の子と同じように、時間とともに、距離が縮まっていくのとともに、相手に触れたいという想いが芽生えるものなんだろう。
出会った時、まだお互いのこともよく知らない時から、身体を重ねて添い寝をしていた。
それが付き合ってからも続いて、半年ほど経過した。
俺と真白の物理的な距離は最初からゼロで、心の距離はゼロに近づいてきた。
俺でも真白とのスキンシップで理性を保つのに必死だったというのに、なぜ真白も同じ気持ちだったのに気づかなかったのだろう。
俺はどこかで女の子を自分の理想に嵌めようとしていたのかもしれない。
普通の女の子の定義もあいまいなまま、真白を普通の女の子にしたいって思ってた自分が少し恥ずかしく思えた。
「だから、私を抱いてくれますか……?」
震えている声を絞り出した真白を、振り返って後ろから抱きしめて―――
「うん」
と、愛しさを込めて返事する。
真白の言葉でちゃんと分かった。
真白だけを見つめていた俺なら、真白への想いは変わらない。
真白はまた俺に新しい世界を気づかせてくれた。
第1章ラストを記念して、本日一挙2話投稿致します!!ぜひブクマ登録して、更新通知が届くようにしてくださいね〜
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次回、凪くんと真白ちゃんは初夜を迎える。




