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第23話 文化祭デート

「疲れた……」


 うちのクラスの出し物である演劇―――『ロミオとジュリエット』が盛大な拍手によって終わりを飾ったあと、俺は三宮にメイクを落としてもらって、制服に着替えた。


 体育館を出て、ほかのクラスの出し物を眺めながら遅々(ちち)とした足取りで教室に戻ると、思わずやさぐれ気味に呟いてしまった。


 だって、演劇初心者の俺に主役は大変だったし、最後は無茶ぶりでアドリブをさせられた。そりゃ、ため息のひとつやふたつも出るわ……。


「少年よ、くたばるにはまだ若すぎるぞ!」

「少尉、お前は英雄になれる男だと思ってたよ!」

「すごくフェロモン出てたわ〜」


 まるで俺を待ち伏せたかのように、楽々浦、さぶろう、もとい、かけるくんと三宮が出迎えてくれた。言ってることの意味は分からないが、楽々浦以外は褒めてるのがなんとなく分かった。

 他の生徒も賞賛の声を送ってくれる者がいるが、最後の人形姫の頬へのキスを根に持っている男子も少なくない。

 肝心の人形姫だが、彼女もメイクを落とし制服姿に着替えて、隅っこの椅子に座ったまま、心ここにあらずで(ほう)けている。


「お前ら、俺を嵌めたな」

「何を言う! 『敵を(あざむ)くにはまず味方から』って言葉があるじゃないか!」

「お前は一体誰と戦ってるんだよ!」


 精神的疲労のおかげで、いつもより勢い三割減の一太刀(ひとたち)は楽々浦にダメージを与えられず、逆に「この世界だ!!」というスケールのデカすぎる返事によって、俺はさらに疲弊していった。


「まあ、少尉、ちょうど昼の時間だし、栗花落さんを誘って文化祭を回ってきたらどうだ?」

「それはちょっと恥ずかしいかも……」

「E〇だから〜?」

「それは断じて違う! 発情してないと女の子に話しかけられない変態では決してない!!」


 仮にも花の女子高生がそんな言葉を口にするのはどうかと思う。

 でも、ここはやはり、かけるくんの心遣いに甘えることにしよう。


 教室の時計を見ると、12時を少し過ぎたところだ。

 確かに人形姫と校舎を回って、屋台の食べ物を昼飯代わりにするのも悪くない。


 考えがまとまったから、俺は人形姫のところへと歩いた。


「栗花落、一緒に文化祭を回ろうか?」

「ひゃいっ!」


 いつもの感じで人形姫に声をかけると、なぜか彼女は奇声を上げて、目を大きく開いたまま俺をちらっと見ては、視線を落とす。

 まるで今まで自分を散々改造してきたマッドサイエンティストに怯えている哀れなモルモットのようだ。


「いやならいいけど……」

「い、いやじゃないです!」

「じゃ、行こうか?」

「う、うん……」

「二人共! なにぐずぐずしてんだよ! たこ焼きが冷めちまうだろうが!!」

「他のクラスの屋台が不良品みたいに言うな!!」


 俺と人形姫がなかなか動かないのを見かねたか、楽々浦は俺と人形姫の背中を押して、無理やり教室から追い出した。

 



「……東雲くんって、演技上手ですね」

「なんでそう思った?」

「だって、最後はほんとに泣いてるみたいだったから」

「死んでるのに見てたの!?」

「はい……目を少しだけ開けて……」


 校舎を出て、吹き出した息が少し白くなるのを感じながら、俺は人形姫の歩幅に合わせてゆっくりと歩いた。

 教室からここまでの道のりで、人形姫が珍しくずっと沈黙していたと思ったら、急に思い出したように彼女は口を開いた。

 それは間違いなく観客が聞いたら炎上しかねない舞台の裏話である。


 俺はあくまで素人だ。舞台の上で咄嗟に泣けるわけがない。

 それは()()()()()()()()()姿()を見たゆえの涙だということを君は知らない。


「っていうか……まさか栗花落まで楽々浦とグルだったとはね」

「何の話ですか?」

「俺だけ台本が違う話」

「あっ」


 バツが悪そうに、人形姫はぷいとそっぽを向いた。

 だが、そんなことで俺が追及を緩めるはずもなく……。


「普通、毒殺しようとした相手と手を結ぶものなのか?」

「ほら、楽々浦さんも言ってたじゃないですか? 『敵を欺くならまず味方から』だって」

「お前も一体誰と戦ってんだよ!!」


 この平和の日本で、人知れずに戦っている人は少なからずいるようだ……。


 くすくすと笑って、人形姫はポンと俺の肩を軽く叩いた。


「東雲くん、ほら、あそこにたこ焼きがありますよ」


 楽々浦に言われたからか、人形姫はたこ焼きの屋台を興味津々に見ている。

 人というのはほんとに不思議な生き物で、他人に言われたことに惹かれるのはある意味、人間が社会的動物である裏付けなのかもしれない。


「食べたいのか?」

「……」

「言わないと買わないよ?」

「東雲くんの……いじわるぅ」


 食べたいなら、ちゃんと自己主張しないとダメだよ……欲しいと言わないと、誰かが察してそれをプレゼントしてくれるのは幻想に過ぎないのだから。

 ただ、欲しいって言ったからと言って、必ずしも手に入るわけでもないのが現実の残酷なところだ。俺はそれを死ぬほど思い知らされた。


「……食べたい、ですぅ」

「よく言えました」


 少し丸まって独りごちるように呟いた人形姫の声は、注意して聞かないと聞き取れないほどに小さかった。

 ただでさえ、華奢な彼女の体は、より可憐に感じられて、心が、心臓が、彼女から離れたくないと叫んでいる。




「美味しいです!」

「そりゃよかった」

「ねぇねぇ、東雲くん」

「なに?」

「タコとイカってどこが違うの?」

「うーん、吸盤があるかどうかかな?」

「そんないやらしい言葉をいきなり言わないでください!!」

「吸盤のどこがいやらしいんだ!!」


 俺はオタクじゃないけど、普通にアニメとか漫画とかラノベが好きだ。それなりに色んな世界を見てきたつもりだが、吸盤がいやらしいという発想には至らなかった。


「分からないならいいです……」

「めっちゃ気になるけどね」

「し、東雲くんの変態!!」

「理不尽すぎる冤罪だよね!!」


 興味を示したら、人形姫は耳まで真っ赤にして瞳を伏せて、パンパンと俺の肩を叩いてくる。

 拗ねても可愛いのは女の子の特権なんだなとふと思った。


「東雲くん、あーんして」

「あーん」

「美味しい?」

「うん、吸盤が舌に吸い付いて美味しいよ」

「……変態!」


 そんなことを言ってたら、人形姫は凍りついたような目で俺をじっと見つめてきた。

次回、いよいよ『ベストカップル大会……』略して『ベーカー』が始まります。


というわけで、『文化祭』編の最後を最高の出来でみんなに送り出せるように、この作品を気に入って頂ければ、『☆』を送って頂けると作者は死ぬ気で書き続けます!一応第二章の構想もできましたので!


これからもよろしくお願いいたします!

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