一章~(6)対峙の瞬間~
「先生!」
見回りをしていた俊平と香代に、清条学園の制服姿の男女二人が駆け寄ってきた。
「あなたたち1年ね。こんなところで何やってるの?」
「俺達もう帰るとこだよ。それより・・・」
男子生徒が答える。
「どうかしたのか?」
「たぶんうちの生徒だと思う。2年か3年。向こうで怖そうな人にからまれてて。」
「わかったわ。先生にまかせて。あなたたちも気をつけて帰りなさいよ。」
香代は生徒たちが示した方向に走っていった。俊平も慌てて後を追った。
「あの、この辺で女子高生がからまれてたって・・・」
俊平と香代は周辺の人に聞いた。
「ああ、さっきの二人の女の子ね。それだったら、何か大丈夫だったみたいですよ。でもその人たち、黒滝組がどうのって言ってたから、気をつけたほうがいいですよ。」
「わかりました。で、その二人はどっちに行きましたか?」
「ああ、それならあっちです。ゲーセンに入っていったかな。あ、今ちょうど出てきたみたいですよ。」
香代が目をやると、二人の女子高生の後姿が見えた。
「ありがとうございました。」
二人はその女子高生を追っていった。
「ちょっと待ちなさい。」
香代が声をかける。
「今度は何なのよ。」
美咲はそう言いながら振り返った。里実も同じく振り返った。と、顔を見合わせた途端、4人が4人とも固まった。
「美咲、あなた何やってるのよ。家飛び出したまま帰らないし、学校来ても授業出ないで。」
佳代が強い口調で言った。
「あんたには関係ないでしょ。あんたはあたしの担任じゃないんだし。」
「何よ、その言い方は。それにさっき黒滝組がどうのって聞いたわよ。よくない連中と付き合ってるんじゃないでしょうね?関谷さんもこんな子と付き合ってないで・・・関谷さん?」
「・・・ふざけないでよ。」
里実は怖い顔をしてにらみつけていたが、その視線の先は俊平にだけ向けられていた。
「ちょっと里実、どうしちゃったのよ。」
この急変に、さすがの美咲も動揺を隠せない。
「今ごろ私の前に現れて何のつもりなのよ!あんたのせいで・・・あんたのせいでパパとママは・・・この人殺し!!」
そう言い放つと、里実はその場から逃げるように走り去り、美咲もその後を追っていった。
俊平は呆然として、何も言えないまま立ち尽くしていた。
香代は何が起こったのか理解できないでいた。
「どういうことよ。ねえ、説明してよ。あなた一体関谷さんとどういう関係なのよ?」
「・・・あいつは、里実は俺の姉貴の娘だよ。」
「つまり、あなたが関谷さんのおじさん?」
「ああ。」
「人殺しって??」
「それは・・・里実の言った通りだ。」
「でも関谷さんのご両親は事故で亡くなったって・・・」
「俺が殺したんだよ!俺が・・・俺が・・・」
俊平は少し涙ぐんでいるように見えた。
ただの暴力教師だとしか思っていなかった男に、想像もしなかった弱い一面を見た香代は、それ以上何も聞くことができなくなってしまった。