一章~(3)最強のいじめられっ子~
俊平は葛城美咲がいると言われた保健室に来ていた。
ノックをし、中に入ると養護教諭の生駒香織が対応してくれた。
香織は養護教諭になりたての新人。背が低く、おまけに童顔なのも手伝って、まだ高校生ぐらいにしか見えない。
「あ、川神先生。」
「葛城美咲、いますか?」
「ええ、美咲さんならあそこに。」
香織の指差した先に、一人の女子生徒が見えた。17歳とは思えないほどの色気のある大人っぽい顔つきに、モデルのようなスタイルのよさは、香織とは対照的だ。もっと“いじめられっ子タイプ”を想像していただけに、俊平には意外だった。
「美咲さん、新しい担任の先生の・・・」
「川神俊平35歳独身、でしょ。別に言わなくても知ってるわよ。」
香織の言葉をさえぎって、美咲が口を開いた。
「先生、いきなりあの女にギャンギャンやられてたね。」
「ああ、葛城先生のことか。」
「葛城先生は美咲さんのお姉さんなんですよ。」
香織が口をはさむ。
「香織ちゃん、余計なこと言わなくていいから。」
美咲はあからさまに嫌な顔を見せた。
「なんか複雑そうだな。」
「そ、複雑なの。あんな女の言うこと、気にしない方がいいよ。」
「ああ。そうする。」
「あれ?もしかしてあんま気にしてない系?まあいいや。で、私に何の用?」
「いや・・・もういい。一応自分の生徒の顔ぐらいは見ておこうと思っただけだから。」
俊平は、美咲がいじめられて教室に来れないのではと考えて、美咲の様子を見に来たのだが、美咲を一目見て、その心配はないと判断できてしまった。
「もしかしてあたしのこと心配して来てくれたわけ?」
「・・まあ。」
「そうよ。私はいじめられてるの。いじめられて怖くて教室に行けないの。・・・ってそんな風に見える?」
「全然。」
「ま、あいつらはあたしのこといじめてるつもりかもしんないけど、あたしはいじめられてるつもりなんかサラッサラないから。」
「強いんだな。」
そう俊平が言うと、一瞬美咲の顔が曇った。
「・・・強くなんか」
「どうした?」
「ううん、何でもないわ。あたしはマジで強いわよ。喧嘩なら男子にだって絶対に負けないんだから。それに、ほんとのいじめのターゲットは3組の里実だし。」
(・・・・・里実・・・・・)
「関谷里実か?」
「あれ?先生、里実のこと知ってんの?」
「ああ、ちょっとな。」
「まあ、知り合いがいじめられてるって聞いたら助けたいかもだけど、いじめのリーダーがバカ理事長の娘の九条優梨だからね。あんま関らない方が先生のためだよ。」
「わかった。気をつける。じゃあな。お前も気が向いたら教室来いよ。」
そう言うと俊平は香織に一礼し、保健室を後にした。
(里実がいじめられている・・・)
俊平は、思わぬところで里実の情報を聞き出すことになり、ますます里実のことばかり考えてしまうのだった。
保健室。俊平の出て行った後、美咲が香織に声をかけた。
「ねえ、香織ちゃん。」
「何?」
「あの人、あたしのこと何も聞かなかったね。授業に出るようにって説教たれるわけでもなかったし。」
「そうね。」
「あの女がいうような、最低の教師ってわけじゃないっぽいね。」
美咲は俊平に興味を持ち始めていた。