二章~(6)桜の約束~
「本当に感謝してるよ。手術も受けるって言ってくれたし、手術後も薬の副作用やらなんかで苦しんでたけど、それでも最期まで桜華の目は生き生きしていたよ。里実ちゃんのおかげで、桜華の一生は輝いたと思う。」
耕作は桜華の遺影を見ながらしみじみと言った。
「私は何も。何も言わなくても桜華ちゃんはそうしたと思います。私なんかに一生懸命になってくれた華ちゃんが、自分の命に一生懸命になれないはずないですから。」
「手術の後、先生に奇跡的って言われるぐらい回復してたんだけど、去年容態が急変してね。緊急手術の最中に・・・」
「それも宮下君の大事な試合の日に、ですよね。」
「病院に来いって言ったんだけどね。和樹のやつ、病院にいても自分は何もできないから、自分にできることをするんだって試合に行ったんだよ。それで結局負けて、あんな事件起こして・・・」
「宮下君、もう野球はしないんですか?」
「たぶんもうしないんじゃないかな。桜華のことは、あいつが野球をしたくなくなるには十分だよ。あいつ、桜華のために頑張ってるみたいなところがあったからね。」
「私・・・約束したんです。桜華ちゃんと。」
・・・・・・私が死んだら、お兄ちゃんをよろしくね・・・・・・・・
「あいつそんなことを。」
「だから、宮下君にはもう一度野球してもらわないと。それが桜華ちゃんの望みだから。それに、私も野球してる宮下君が好きだから・・・」
『好きだ』と言って、里実は自分がその相手の父親に言っていることに気づいて顔を赤らめた。
「たっだいま~。」
その時、美咲が帰ってきた。美咲はたくさんの荷物を抱えている。
「はい、里実の荷物。わかんなかったから適当だけど、一応必要なものは揃ってると思う。」
「ありがとう。大丈夫だった?」
「全然大したことなかった。金、返してきたわよ。きっちり“利子”もつけてね。」
里実は“利子”の意味が容易に想像できた。
「でも・・・そんなことしたら、これから・・・」
自分の今後の生活に不安を感じる様子の里実に、美咲は「何とかするって言ったでしょ。」と、力強い言葉を投げかけるのだった。