二章~(3)もう一人のサクラ~
「ここよ。」
美咲が指差した家の表札を見ると『宮下』と書いてあった。
「・・・・ここって?」
「“今の”あたしんちよ。」
「ひょっとして、宮下君の?」
「そういうこと。あっ、言っとくけど、付き合ってるとかじゃ全然ないから。幼馴染みってやつ。」
美咲は家出して、幼馴染みの宮下和樹の家から学校に通っていた。宮下和樹は、里実と同じクラスであり、里実は和樹に好意を持っていた。
「そんなとこでしゃべってないで、早く中に入りなさい。」
玄関のドアを開けて二人を迎えたのは、和樹の父、宮下耕作だ。
「突然、すみません。ご迷惑じゃないですか?」
「そんな気にしないでいいよ。うちなんかでよかったら、好きに使ってもらっていいから。」
里実が恐縮している様子なのを気遣い、耕作は笑顔で答えた。
「まあ、誰もいなくなったら、この家男二人だけだし、ただむさくるしいだけだもんね。そういや和樹は?」
「さっき出かけたっきりだよ。いっつも黙って出て行って夜遅く帰ってきて。あいつ全く、何やってんのか。」
「そっか。じゃあおじさん、里実のことよろしくね。」
「よろしくって美咲ちゃん、これからどこか行くのかい?」
「ちょっとやらなかきゃなんないことあるから。あ、あたしがいないからって里実に手出したらぶっ殺すからね。」
「そんなことあるわけないだろ。何馬鹿なこと言ってんだよ。俺は天地神明に誓って・・・」
「はいはいわかったわかった。じゃ、よろしく~」
そう言うと、美咲は里実を残して行ってしまった。
「もう、勝手だなあ。里実ちゃんも振り回されて大変だねえ。」
「そう言いながら、おじさん嬉しそう。」
「何だかんだあの子には世話になってるからね。美咲ちゃんがいなかったら、和樹と二人だけだし、葬式みたいな暗い家になっちゃうからね。家内が死んで、桜華が死んで、美咲ちゃんにどれだけ救われたか。」
「あの・・・。」
「どうしたんだい?」
「お世話になるのに、私何も出来ないんで、せめて二人にお焼香させてもらってもいいですか?」
「え・・・もちろん大歓迎だよ。二人とも喜ぶよ。」
耕作は、今時の高校生にしてはしっかりしてるなと感心したと同時に、そんなことを言われると予想していなかったので驚いていた。
仏壇の前に座り、手を合わせている里実を見て、耕作はあることを思い出した。
「ひょっとして、君じゃないのか?」
里実が振り返る。
「やっぱりそうだ。桜華の言ってた“お姉ちゃん”は君だよね?」
「はい。」