表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多原くんの陰謀論  作者: 縞々タオル
芝ヶ崎内乱
85/117

魔法使いのシンデレラ

はじめ、多原は、こう言ってはなんだけど、時間に余裕を持って結婚式に割り込むつもりだったのだ。


朝早く起きてお母さんの作ってくれた美味しい朝食を食べ、「やっぱりやめない? キョウ君の好きなドラマの再放送あるよ?」という父の甘い誘いを切って捨て。

むしろ結婚式が始まったすぐ後に「ちょっと待った」をするつもりだったのだ。こういうのは、早い方が良いので。


「別に、結婚式の最中じゃなくても良くないか? これは前に言われた時も思ったけどさ」

『相手の意表をつくことが大事なんだよ』


てくてくと結婚式場までの道を歩きながら、多原は島崎とスマホで会話をしていた。あくまでも結婚式が始まってからの突入なので、時間調整が大事なのである。ここから多原は近くのカフェで精神統一する予定。


「ていうかお前、どうして電話できてるの?」


島崎は、楢崎さんちに軟禁されている。楢崎さんちは闇の組織側なので、多原との電話を許可するはずないのだが。


『あー、それな。どうやら、俺を通してお前がどこにいるかを知りたいらしい』

「ダイナミックな盗聴だな」

『で、悲報なんだがね多原君』

「なんだい島崎君」

『今からお前に追っ手がかかるから、めちゃくちゃ走れ』


ぶつっ、と通話が切れる。多原は、ちらっ、と背後を見た。人混みの中。明らかに目的を持った人たちが、まっすぐ多原の方に向かってくる。


「いやいや、いやいやいや」


言葉が出てこない多原。「いやいやいや」を連呼しながら、人混みを掻き分ける。だが、人混みが終わったらすぐに捕まってしまうだろう。


「俺ここの土地勘はないんだけど!?」


情けないことを口にしてしまう。まじでそうなのだ、多原はここの土地勘は、まったくと言っていいほどない。みどり町ならギリわかるが、みどり町にチャペルという上等なものは存在しない。


「地図……っを見る余裕もない!」


走りながら地図を見ることは不可能だ。チャペルまでの行き方は覚えているけれど、追手を撒くための道順なんかは考えていなかった!


「なんか無線みたいなの持ってるし、あれで連絡取り合ってるんだぁ!」


だめだ、声まで情けなくなってしまった。多原は長距離走が得意なタイプだが、それはあくまで短距離走と比べたらである。体力はあまりないタイプ。


相手は無線を持っていることからして、人海戦術を使っている。走ったところで捕まってしまうだろう。


「どどど、どうしよう、イチかバチか、駅の方に戻って交番まで駆け込もうか……」


多原がぐるぐる目で、ヤケクソなことを考えていた時だった。



「ーー困ってるみたいですね、多原君」 

「……?」



多原の名前を呼ぶ、おそらく女の子が、いつのまにか多原と並走していた。その子はフードの下にヘッドフォンをしていて、スマホを持っていた。


そしてその声に、多原は、聞き覚えがあった。


凛とした声。生徒会長戦という激戦を勝ち抜いた天上人。レイ姉ちゃんの後継者である。


「樋口、生徒会長!?」

「しーっ。私は通りすがりの魔法使いです」


興奮する多原を宥めるように、樋口生徒会長は、唇に人差し指を寄せた。


「多原貴陽君、貴方に魔法をかけてあげましょう。あの人たちから、貴方を見えなくする魔法です」

「そ、そんなことが可能なんですか!?」

「ええ。私はすごい魔法使いなので。えっへん」


凛とした生徒会長は、キャラ崩壊を起こしていたが、たぶんそのキャラ崩壊は、多原を落ち着かせるための計算なのだろう。


「で、でもなんで、会長が俺を助けてくれるんですか!?」

「その昔、私に魔法をかけてくれた方がいたんです。その人に恩を返したくて」

「じゃ、じゃあその人に感謝ですね! ありがとう会長に魔法をかけてくれた人!」


多原が感極まって、魔法掛け・掛けられの輪に感謝すれば、生徒会長は、くすりと笑った。


「多原君は、とても面白いですね。このまま二人っきりで話していたいところですが。貴方には、することがあるんでしょう?」


すべてをお見通しの生徒会長あらため魔法使いさんの言葉に、多原は頷いた。


そうだ、多原には、やらなきゃいけないことがある。


多原の頷きに微笑んで、魔法使いな生徒会長は、「それでは」と、スマホをタップした。


「御照覧あれ。人を透明にする魔法です」






『そうです、多原貴陽は、そこの路地裏に入りました』

「報告ご苦労」


無線を切って、此度のことに駆り出されている隊長は、「もうすぐだな」と心の中で思った。


もうすぐで、多原貴陽を捕まえることができる。かわいそうなことだが、これは本家の決定だ。自分達は粛々と従うしかない。


部下が無線で報告してきた路地裏に着く。すでに路地裏の出口は、両方とも塞いである。


「各位に連絡。発見次第、傷つけないように捕獲しろ」


野生動物のような扱いである。傷つけないように、というのは、本家の温情だろうか。


隊長自らも、部下の示した路地裏に入ろうとし、


『あ、あのっ』


その時だった。暗がりに足を踏み入れた隊長の耳に、信じられない声が聞こえてきたのは。


『自分は、今、隊長に別の場所を見張るようにと指示されていたのですが……』

「別の場所とは何だ」


無線の向こうにいる部下は、今、隊長達がいる地点とは違う場所を口にした。


そして、別の班から通信が入る。


『B班より連絡します、隊長がご命令された場所に、多原貴陽はいませんでした』

「……お前が命令された場所は?」


ここまで来れば、隊長もわかってきた。


ーー撹乱だ。


「何者かが、俺たちの無線を傍受し、割り込んできている。そして、俺の振りをし、お前達の振りをしているんだ。各自、一旦俺のところに集まるように」






「やっぱりそうなるよね」


会長は、小さく笑った。


「でも残念。それは想定済みだから、その命令を使ってと」

「楽しそうですね会長、あっ、助けてもらってるのにすみません」

「本当に楽しいから良いですよ。それよりも多原君、後ろを見てみてください。追手はいますか?」


言われて、多原は後ろを恐々振り向いた。そして、目を見開いた。


「いない、いないです! やったぁ!」

「油断するには早いですよ。申し訳ありませんが、私ができるのはここまでです」


本当に申し訳なさそうな会長に、多原は、ぶんぶんと首を横に振る。


「そんなことないです! すごく助かりました! この御恩は一生忘れません! 好きなものとかありますか!」

「多原君」

「はいっ」

「生徒を守るのは、生徒会長の役目です。ですから、お礼などはいりませんよ」


フードの下で、会長はウインク。多原は、この人が生徒会長になって良かったと思った。さすがは、激戦の生徒会長選挙を勝ち抜いた強者である。











「がんばってね、キョウ君」


小さくなる背中に、エールを送る。


言い慣れない「多原君」をたくさん言って、なんだか口がむずむずしていた。


ーー隊長さんたちの近くにいないと、ジャミングができないんだよね。


スマホの画面をタップ。そこには、私の分身である、二頭身の木通しをんが、意地悪い顔をして笑っていた。私もその顔を真似した。


ーー合流なんてさせないよ。私だって、結婚式を邪魔したいんだから。


鳶崎巳嗣は許せない。だけど、もう一人の恩人が、芝ヶ崎令が、鳶崎巳嗣と誓いのキスをすることも、私は許せなかった。


彼女のファーストキスは、キョウ君に決まってるんだから。

いくら鳶崎巳嗣を陥れるためっていったって、そんなの許せない。


これは、生まれの差なのかもしれないけど、女の子の唇って、そんなに安い物じゃないと思うんだ。


ライバルで憧れで恩人の彼女に、私は至極軽い口調でひとりごちる。



「だから、ごめんねレイにゃん♪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ