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多原くんの陰謀論  作者: 縞々タオル
初恋と失恋と
121/124

御三家

ーーどうしてコイツは、我が物顔でテレビ局にいるんだ。


伊勢と気の良い握手をしながら、新山はサングラスの奥で不審に思った。


あと、島崎の話だと今日は学校を休んだらしいのに、制服を着ているのも気になる。まるで全ての展開を読んでいて、言わなくても多原たちと同じ学校の生徒だと伝わるように、自分が“伊勢”だと新山に伝わるように、姿を現したかのようだ。


そこまで考えて、新山は「まさか」と自分の考えを一蹴した。


制服を着てるのは、テレビ局なんて畏まった場所に何を着て行ったら良いかわからなかったからだろう。まずテレビ局に突入するな、という話だが。


「奴らと会いました?」


目的語をぼかした言葉。周囲の人間が首を捻るが、新山にはばっちり伝わった。ああ、会ったとも。


「もしかして、枕崎が俺を探しにきたのは」

「新山さんのストッパー役をさせるためです。重役の方々には、心苦しい嘘を吐かせてしまいましたけど」


表情すら悪びれていない。もっと演技を磨け。


ーーつまり、ああ、そうだ。


総務省のお偉いさんが来るというのは真っ赤な嘘。

草壁夕雁への切り札を発見して暴走するであろう新山を、テレビ局へ連れ戻すための嘘だったのだ。


枕崎を睨むと、普通に驚いた顔をしていた。まあ、重役の方々には、とか言っていたので、ここに集まっている他プロデューサーも今知った事実なのだろう。

ついでに高寺編成局長も驚いている。なんか可哀想だ。


ーーまあしゃーないか。高寺さんは、言っちゃいそうだもんな。


新山が新人の頃に良くしてもらったプロデューサー。それが高寺である。本当は報道部に行きたかったらしいが、よくあるアレでエンタメ系に携わることになった(お堅い本を作りたかった人が漫画編集部になる現象)。


「新山を騙したということですか!?」


驚愕から怒りの表情になった高寺が、新山のために怒ってくれる。これだ、高寺は、恐ろしくテレビマンに向いていない。なんなら報道にも向いてなかったんじゃないかな、と新山は思うのである。


「あー、その件に関してはすみません。手段を選んでいられなかったんで……」


高寺の剣幕に、伊勢もタジタジだった。重役たちが高寺を宥める中、新山は、伊勢に向き直る。


「成果を知りたいってところか。どうする、別室にするか? ここうるさいし」

「いえ、お二人以外は用済みなので、出て行ってもらいましょう」

「え」






ということで、狭く感じた会議室Aにいるのは、新山と枕崎、それに伊勢の三人になり、逆に広く感じるようになってしまった。


人口密度が低くなってしまったせいか、寒く感じる。新山は、暖房の温度を高くして、席に座った。


「どうでしたか、多原は。アホだったでしょう」


伊勢が苦笑いしながらそう切り出した。こいつもそういう顔をするのだと、新山は意外に思った。

そして、一番聞きたかったことを聞いた。


「島崎を巻き込んだのは?」

「最初っから巻き込んでおけば、想定外の介入をされることはないと思ったので」

「ああ、なるほど」


芝ヶ崎の()()()()の特性もわかりきった上で、巻き込んだ、というわけだ。下手に知らせないで虎の尾を踏むより、最初から巻き込んで、自分の尻尾を持たせておいた方が良い。


伊勢としても苦渋の決断だったと思うが、島崎を怒らせて、計画が破綻することを考えれば、事前に知らせておいた方がはるかにリスクが低いと踏んだのだろう。


「……島崎が見た目に反しておっかない奴ってことは、知り合いに聞いてるんで。クラスメートとして見た時は人畜無害な奴なんですけどね」


どうやら、伊勢にも、枕崎に相当する芝ヶ崎関係者がいるらしい。


「まあ、芝ヶ崎本家の跡取りがそう言うので確かかなと」

「いや、本家かよ」


思わず突っ込んでしまった。本家かよ。隣の枕崎を見ると、机に突っ伏していた。


新山は、頬杖をつく。


「本家だったら、島崎? よりも強いんじゃねえの」

「それが、本家の人からも、“多原君を死なせないように”って言われてるんですよ。だから、アイツを危険な目に遭わせたら、本家からも怒られるというか…………」


不自然な沈黙。


「どうした?」

「いえ、ただ、なんか変だと思って。()()()()()()()()()()()()()()()のもそうですけど、俺がここでこんなことを言うのは、なんか、変なんです。動きが制限されているというか……」


軽い調子だった伊勢が、急に重々しい口調になって、何かを考え込んだ。こうしてみると、良いところの坊ちゃんだけあって、画になる男だ。塹江に引けを取らない。


新山は、いたずら心で、両手指でフレームを作って、その中に伊勢を収めた。伊勢が顔を上げる。


「なんですか?」

「いいや、なにも。何に引っかかったかはわからないが、島崎と本家の意見が一致しているのはわかりやすくて良いんじゃないか?」

「……ああ、そうですね、シンプルっていうのは、わかりやすくて良い事ですからね」


どうにも、釈然としてなさそうな返事が返ってくる。


「……」


枕崎も枕崎で、さっきから、何も喋っていない。眉を顰めて、伊勢と同じように、何かを考え込んでいる。ついていけてないのは、新山だけらしい。


「おい、どうしたんだよ枕崎」

「いや、何でもない。けど、本家か、本家……」


底抜けに明るくて嫌な奴だと思っていた伊勢がだんまりを決め込み、それにつられるように、芝ヶ崎で思うところのあるだろう枕崎も沈黙してしまう。これは面白くない。


何か、話題転換しなければ。


「そういえばさ、伊勢君の思惑、けっこう上手くいくと思うぜ」

「っていうと?」


食いついてきた。新山は、ニヤリと笑って、駐車場であったことを話した。これは枕崎に話してあることだから、枕崎はつられなかったが。


「……なぁんか、違和感があったんだよな。草壁夕雁は、最初は葉山の役人の話をしてたのに、俺が芝ヶ崎の話を持ち出した途端、そいつに聞けって投げたんだ。で、俺は、こいつに聞いて、草壁の恐ろしさを知った」


枕崎が頷いた。新山は続ける。


「葉山から芝ヶ崎に乗り換えたのは、手っ取り早く芝ヶ崎の関係者に代わりに脅してもらおうと思ったから。だが、最初に葉山の話をしたわけは?」

「同じ御三家である葉山を強調することで、芝ヶ崎との関係を悟られたくなかった……いや、そんなリスキーなことするか? 芝ヶ崎と葉山は、仲が悪いのに」


察しの悪い芝ヶ崎に代わって、「あ」と目の前の少年が口をぽかんと開ける。


「リスクがあるとわかってまで、葉山と関係があると偽ったのは、多原に、たどり着いてほしくなかったから……?」

「ビンゴ!」


か、どうかはわからないが、おそらくこの説で合っているんじゃないかと、新山は思うのだ。


ーーなんて奴だ、多原君。


あの、人の命をどうにも思ってなさそうな、おっかない女の子に、“弱点”と認識されているなんて。


「芝ヶ崎のことはどうでも良い、だが、多原君のことは知られたくない。だからこそ、草壁夕雁は、縁の深い芝ヶ崎よりも、葉山を匂わせたんだよ」


「……へぇ」


みしり、と音がした。


絶対零度の声音。新山は、声のした方に向いた。


扉を開けてきたのは、おそらく、一般人の少女。


肩にまでつく明るめの髪、質素な白いブラウスと黒いフレアミニスカート。スカートから生える脚は黒いタイツに包まれていて、すらりとしている。大量の砂糖を入れて作ったような甘い顔立ちは、目を細めることによって一層怖さを引き立てていた。


「……ぁあ、えーと、お嬢、これはですね……」


伊勢がしどろもどろになっている。


「お嬢?」


確かに、どこか良いとこのお嬢様な気はするが。


「あ、あ、伊勢君と知り合いってことは、もしかして……」


かわいそうに、チワワかってくらいに震えている枕崎は、今にも泡を吹いて気絶しそうだ。


ここで口を利けるのは、新山だけになってしまった。


「君は? どこの誰なの」


すると、謎の少女は、新山の方に向いてにこりと笑った。春の女神のような笑み。


「はじめまして、新山プロデューサー。私は、白川芳華と申します」


……。


新山は、首を捻った。あまり現実を受け止め切れなかったからだ。


「なあ、枕崎。御三家って、芝ヶ崎と葉山と、あと一つなんだっけ」

「……そちらにいらっしゃる方のお家だよ、新山君」

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