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多原くんの陰謀論  作者: 縞々タオル
多原とヒロイン
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味噌汁陰謀論

定期的にヤンデレを書きたくなります。

昼休み。


弁当組と購買組に分かれる中で、多原(たはら)は熱心に、友人島崎(しまざき)に語っていた。


手には、お母さんの作ってくれた茶色の多い弁当。だが、食べ盛りな男子高校生にはそれくらいがちょうど良い。箸を止めることなく、真剣な顔で島崎を見る。


「つまり、この世で起こってることは全て陰謀なんだよ。ユーツーブで見た」

「まじかよ、お前の情報源やべえな」


島崎もまた、弁当を食べる手を休めずに、多原を可哀想なものを見る目で見てきた。失礼な。


「れっきとした証拠だってあるんだぞ。ほら!」


多原は、島崎にスマホ画面を見せた。ユーツーブを起動して、可愛い女の子の絵が動いてる解説系動画を見せてやる。可愛い女の子は、ちょっと機械っぽい声で喋った。


『はえ〜味噌汁が勝手に動く現象って、宇宙人の念力なんですね〜。一つ勉強になりましたぁ〜』


「な?」

「なにが?」


島崎の目は冷めていた。


「だから、この前俺の味噌汁が勝手に動いたのも、宇宙人の仕業ってわけだよ」

「味噌汁の熱で空気が膨張して、ちょっとお椀が浮くからだぞ」

「え」


島崎がカバンからスマホを取り出して、可愛い女の子など微塵も出てこない、検証動画を見せてくれた。


「水滴がついてるとやりやすいぞ。俺はだいたい五十回試した」


今度は、多原が島崎のことを可哀想な人を見る目で見る番だった。なんでドヤ顔してるんだろ、コイツ。


「何も味噌に限ったことじゃない、豚汁でも、シチューでもできた」

「お前、味噌汁用のお椀にシチュー入れたの?」

「お椀シチューも良い物です」

「そういうものかぁ」


弁当を食べ終わって、多原はぐでんと机に倒れ伏した。


「なんだ、味噌汁動く現象は、宇宙人の念力によるものじゃなかったのか」

「それをして宇宙人はどう得をするんだよ」

「そりゃそうか」


陰謀論なんて、あるわけがないか。


ユーツーブの味噌汁解説の終わりには、『この動画はあくまでジョークとして楽しんでください』という注意書きが書かれていた。


多原は目を伏せた。


「陰謀なんて、そこらへんに転がってるわけないかぁ」




なんて、考えながら下校していた時。


「きゃあああ!! 助けてください!!」


真昼間だってのに、バンに詰められそうになっていたのは、近隣の超有名女子校の制服を着た女の子。女の子を押さえつけようとしているのは、サングラスをかけた、怖そうな男たち。


「つ、通報通報」


多原は極めて冷静に、震える指でスマホのボタンを押し、無事に通報に成功した。


「だ、誰かに助けを呼ばないと。だ、だれかー!! 誰でも良いんで助けてください!!」


けれど、呼んでも呼んでも、誰かが来る気配はない。どっかの自動

車保険の宣伝くらい叫んだのに。警察の人が来るまで時間がある。


多原は、カバンの取っ手をぐっと握って、ぐるぐる回しながら走った。


「うおおー!! どうにかなれー!!」 


多原はとある事情であまり置き勉しない派だ。それが役に立った。教科書を中に入れた多原カバンは、鈍器として、偶然後ろを向いた男の頭に当たった。


「く、くそっ。覚えてろよ!!」


そんな台詞を残して、男たちは、バンに乗って逃げていってしまった。


「ば、番号番号っ」

「ありがとうございますっ!!」


多原がバンのナンバープレートを撮影しようとした時、ぎゅむっと柔らかな感触。見ると、目を潤ませた被害者の女の子が、ふるふるとチワワのように震えているではないか。


「ど、どうしたの? あっ、怖かったね!?」

「まだ震えが止まらないんです。抱きしめてもらってもいいですか?」

「いや、そんなことしたら今度は俺が警察に通報されるから無理」


紳士多原。女の子からぱっと手を離し、警察の人が来るのを待つ。




ようやく到着した警察の人は、多原にこう言った。


「本当なら、君を表彰したいくらいなんだが、この方は特別なお方でね。ニュースにできないんだ。すまない」

「別に良いですよ」


なんか、役得経験したし。多原がそう言うと、警察の人は、「君は勇敢な子だね」と褒めてくれた。多原は褒められるのが好きだ。ていうか、人間みんなそうだと思う。


えへへ、と笑う多原。ふと、気付く。

 

「俺、貴方とどっかで会いました?」

「初対面だと思うよ」

「そっか、なんかすみません。そうですよね、こんなイケメンな人、二人もいるわけないか」

「嬉しいことを言ってくれるね」


こうして、多原のちょっと特別な人助けは、幕を閉じようとして。




「あのっ、多原様っ」

「あれ、俺、君に名前教えたっけ?」

「どうしてもお礼したくて、さきほど、貴方様が書いていた書類を見てしまいました」


まいった。颯爽と、名もしれぬかっこいい男ムーブして消えるつもりだったのに。多原は、イケメンがやったら絵になるが、多原がやったらビンタされそうな仕草をした。前髪をしゃらんとかき分ける。


「ふっ、礼には及ばないよ子猫ちゃん。今度から、気をつけるんだよ」


小市民多原。一夏の思い出として(今は秋)、お金持ちの女の子と関わったことを留めておくつもりだったのだが……。


「あ、あのっ、私の家に、来ていただけませんかっ!?」






翌日。


「そういえば多原、あっちの方に住んでたっけ」

「あっちって?」

「みどり町の方だよ。知らない? あそこで、映画の撮影やってたんだぜ」

「えっ、まじで!?」


多原は、食べていた肉巻きを落っことしそうになり、慌てて掴み直した。


「撮影なんてやってたんだ。うわー、見たかったなー」

「それがさ、みんな、撮影のために通行止めされてるのを見ただけで、実際にどの俳優がいた〜ってのは見てないらしいんだよ。じきにロケ地として、ネットに上がるかな」

「上がるんじゃね? うわあ、楽しみだなあ」


自分の知ってる景色が映画館で観れるかもしれない。多原の心はウッキウキだった。それに水を差すように、島崎が半目で笑いながら言う。


「おやおやぁ〜? 多原くん、今日は“通行止めは陰謀!”とか言わねえの?」

「言うわけないだろ。俺はもう大人になったの。この世にな、陰謀なんてないんだよ!」

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