センタさんのセンタさんたる所以
なし
荷台を見つめて立ち尽くすセンタさん。僕は降車し、センタさんに歩み寄る。あれ?センタさん?あっ……センタさん…もしかして……やっちゃいました?と、心でセンタさんに話しかける僕。もちろん、僕は何も気付いていない空気を保ちながら、荷台を見つめて無言を保つ。現場にピーンと空気が張り詰める。残りの品物を数え始め、予定個数と合致しない事をあらためて確認したセンタさん。しばらくしてセンタさんがとうとう口を開く、「ちょっと、配り間違えた…かな…」とボソリと独り言のように小声でこぼす。「あっそうなんですね」と、なるべくセンタさんを傷つけないように僕が気遣う。しかし内心は動揺しており「リカバリーに時間かかるのかなぁ。帰りがあんまり遅くなんのやだなぁ…」と心でつぶやく。「君月さん…ちょっと時間貰ってもイイですか…?」とセンタさんが僕に初めて敬語で話しかける。「あ、大丈夫ですよ、数…合わないみたいですか…?」と僕。「そうなんですよ。ちょっと…戻り…ますね…」とセンタさん。「あ、ハイ…」と僕。あぁ…訪れてしまった…先程説明した、まさかの二度手間再配達の瞬間が今まさに訪れたのであった。漆黒の空から僕らに稲妻が突き抜けた…脳天から足先に満遍なく突き抜けた…。僕は…僕は…やはり僕でしかなかった。己の無力をただただ感じていた…。
「バタムッ…バタムッ」閉じるドアの音が重い。ヘッドライトが暗闇を刺す。「ブン、ブォーム…」走りだす車…そして加速。「グォー!ッ」「あれ?これ飛行機だっけ?」「グォーーッ!!」シートに身体がめり込む。「あれ?センタさん?センタさぁーーん!!センタ…ア、アーッ!!」「オオオォォォォオオオァァァァァアアアアーーーンッ!!!!」…………………時に人は常識を超えた振る舞いをする…それはさまざまな場面でその素顔を垣間見せる。当然それは車の運転においても同様であり、日常とは遠くかけ離れた、いわば尋常じゃない振る舞いを見せる場合がある。それはその走行速度とコーナーでのハンドリングまたは障害物回避のためのブレーキングで見られる。僕は…僕はセンタさんが鬼…いや、鬼神に見えた。見えてしまったのだ…。
恐怖である。まさにin恐怖NOWである。恐ろしいを遥かに超越した怖さ。生命の危機。走行速度がとうとう音速に到達したのだろう…と思う程の速度。「コレ…死ぬな。今ちょっとでもハンドリングをし損なったら確実に肉ダンゴだな。」と、僕は固唾を飲み、矢の如き走る軽自動車の助手席で家族の顔を思い浮かべていた…続く
なれるんだよなんだって
なれないものなんてないんだ
そう…いつだってそうしていきてきたんだ
これからだって…そう、あしたからだって
あさってからだって。だれだってなれるんだ
そう…あちらがわのせかいに
そう…そうだよそのとおりだよ
おんそくのせかいにいけるんだよ
BGM 別れの曲