続 センタさんからの引き継ぎ
なし
時間の経過に従い、予定された配達件数が熟される。センタさんも、ある程度配達が済まされた安堵感が出てきたためか。はたまた、ようやく僕という人間像を把握しつつあるためなのか。徐々にセンタさんからの雑談も多くなっていた。センタさんから「本職は何してるの…?」と質問が飛んでくる。「センタさん…割といきなり重要情報を聞くねぇ…どうしようか……あんまり言いたくないけど正直に言うか?…まぁセンタさんなら大丈夫だろう!言うか!」と、僕が簡単に答える。「あぁそう…それねぇ…」と、意外にリアクションが薄くて、ちょっと驚く。「まぁ、害はあるまい」と僕は胸を撫で下ろす。そんなこんなで、やり取りは続き、センタさんなりの僕についてのプロファイルが進む。センタさんも自身の個人情報を少しずつ話す。
そんなやり取りしながらでも、加速車両は現在進行中である。センタさんの運転は僕の頭にあるブレーキのタイミングと合わないため未だに怖い。会話が途切れないように、「そうなんすよねぇ、センタさんは?」みたいな感じで相槌を打つも、両足は固まり、視線は進行前方に釘付けだ。7:3で運転に意識が向いているため、時折、会話がしどろもどろになっている。手にはスマホを握りしめている。
いつしか車内の窓に結露がいくばくか目立つ様になり、まさに曇りガラス状態になっていた。時期は真冬もド真冬であり、極寒の中の配達である。当然ながら、車内はONヒーター。そして配達を熟すたび当然ながらON発汗。更には身体のデカい男2人でのON軽自動車……当然狭い。そしてそして……そう、世の中ON hard CORONA。である。当然マスクしてます…。「あぁ、マスクの中が結露でビタビタで気持ち悪い…というか目地が結露で詰まり、呼吸がかなりし辛い…苦しいぃぞぉぉ、更にメガネも曇ってるぅぅ」車内は車内でコレもビタビタの結露で何だかビチャビチャギトギトである。センタさんに目線を向けると、いつの間にかマスクを外していた事には「うへぇあ!?」と心で驚いた。
センタさんは今現在は無職であり、求職中の身の上だった。次回採用が決まるまでの小遣い稼ぎとして、このバイトをしていたとの事で、つい最近、採用が内定したので、どうやら開始から3ヶ月と、割と早めに辞める事になったらしい。そして同い年である事が会話の中で分かった。「おっと、同い年かあ…何か親近感が半端ないなぁ…」「この人は僕と同じ時間軸で過ごして、同じような地域でここまで生きてきたんだぁ…まぁ仕事は全然畑違いだが」僕は何だか訳の分からない感慨に耽っていた。そして「同い年なら、敬語使うの面倒いな」と、ちょっと不敬な思いも頭に巡り、僕のこずるい?性格が見え隠れしていた。
そうこうする間に、次の配達先に到着。センタさんが体よく配達をパッパと終える。「さて、お次はどこかなっと」、僕が助手席に乗車しシートベルトを装着する………?。センタさんが乗車してこない……。「あれ?…センタさんの気配を感じないぞ……?」僕が荷台の方を振り返ると………続く
曇りガラスにある水滴
それは小さな水溜まり
車内の揺れと重力に従い、その水滴は一筋の小川となる
その流れに抗う一滴
まだだ…
まだやれる
まだやれるんだ