鹿と僕
なし
暗闇に佇むメス鹿。その鹿はまるで、ジブリの「もののけ姫」に登場するオス鹿のように凛としていた。隆々とした筋骨は、有無を言わせない強い生命力を伺わせ、そして、寒い気候の中、その呼吸、その白透明な息吹は、上方にある空に向かい立ち上りながら消え行くそれは、まさに「命の証」であった。「こ、これは勝てない。怖い。絶対勝てない。」こんな足で生身にバックキックされたら吹き飛んで即死するでしょう。車から出る事は出来ないな。こりゃ。と勝手に恐れおののく。そして同時に、何らかの神々しさがあった。本能で生きる、野生の動物だ。人間界とは違う世界で、そう…それは鹿界?で生きている。僕は心で問いかける。「しかし厳しい世界であろう鹿界も…食べて行くのに。食べれてんのかな?」と、勝手に鹿界での生存に同情していた。
色々と考えを巡らして時間が経過する。しばらく道路を塞がれているため先に進めない状態が続き、僕は我に返る。「んー困ったな…全然っ鹿が動かない…車って、動物からしたらかなりの異物だぞ。怖くないのか…?」と、その鹿を凝視する。しばらくの沈黙の後、ええい!仕方ない!「カチカチカチカチ…」僕は、ハイビーム、ロービーム、ハイビームと、交互に素早く切り替えて、メス鹿を刺激する。「ホレホレどきなさいよっ」と、鹿に対して狂気を醸し出す。「俺。ヤバい奴だよ!何するかわからないよーゲヘヘー」と、ライトのみで演出する。すると、「ぷいっ」と不意に草むらに消えて行った。んん。行ったか…ホッ。と安堵。さあさあ、先を急ごう。「ブブブブブブ…ガタガタ…」僕はアクセルを徐々に踏み込んだ。車は下り坂にゆっくりと差し掛かり、先程述べた宝石箱に向かい直進する。やっぱり綺麗だな…。と、呟きながら右折に左折。そしてまた上り坂をたどり、配達先の家の前に到着するのであった。続く
空間を見つめて
その瞬間に現れる何らかを
掴んだんだ。
僕のそれはとても淡くて
薄透明で消えこぼれそうに脆くて
今日の朝には消えて忘れてしまうものだけど
だけどだけどそれは
少しだけ、いや、結構沢山の部分の
深夜の僕の心を癒やしてくれたんだよ
あなたの心
あなたの心を癒す何らかは
なんだろね
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