宝石箱
なし
この地域は土地が起伏しており、更に海沿いに町が発展を遂げている。なので、高地に居住している人々も割と多く、そこで眼下には夜景を垣間見る場所もある。暗闇を走り、配達をこなしながら、ふとした時に、その夜景を少しだけ見入る。海面に反射する夜景の光がキラキラと水面の揺れで輝きを放つ。冬季間は大気が澄んでいるため、それが更に鮮明に際立つ。白色と赤色が主体であるその輝きは素朴な彩りだけど、その風景がなんとも幻想的で美しい。「あぁ、何かイイな〜綺麗だなぁ」と、出発時に感じていた魔鏡の様な暗黒の異世界で蠢いた先で、偶然見つけた宝石箱の中に散りばめられた沢山の宝石を見るような、生涯の思い出に残る程の綺麗な真冬の風景であった。「このバイトを始めて良かったな」と思えた一例でもあった。
車に乗り込み、おもむろにシートベルトを装着する。そして少しの時間、思いを改める。「このバイトで俺は金を得ようとしている。理由はもちろん家族と共に幸せになるためだ」と、僕は内言語でつぶやく。「金だ…金が欲しいんだ。俺は稼がないといけないんだ。」「そのためには寝る時間を割いてもイイんだ。4時間いや、3時間でイイ。3時間寝れれば、本職に大して影響はないだろう…。」とブツブツ心で話す。「稼ぐなら、今しかない…。老体になれば無理も出来なくなるし…今しかないんだ。」と、更につぶやきながら車を走らせた。「ッ!!!」と、その時である!!いきなり暗闇から飛び出してきた何かに僕は激しく動揺するのであった!!ブブブ、ブレーキ!!とブレーキを全力で踏み締める僕。ハンドルを握る握力は既にMAX状態であり、鼓動が早まる。「ハァハァハァ……ゴキュリ。」僕は固唾を飲んだ。
「アァ!?何何何?何アレ!?」っと、今度は内心たまらず思わず外言語として独り言を言い放った。フロントガラスに顔面を近づけ、よくよく暗闇に目を凝らすと、四足動物と思われる大きい陰影、そして異様な輝きを放つ小さめの2つの球体…。それはヘッドライトでエメラルドグリーンに反射した何らかの目ん玉であったのだ。そしてそれは、そこに佇み微動だにしない。ギョロリと、ただただコチラに向いていた。「んん…鹿…か?」ハイビームで前方を照らすとそれが確定したのであった。それは見事な「大人のメス鹿」であった。続く
働いて働いて
働いても
我が暮らし楽にならず
金を欲し金を欲し
金を追いかけるも
それは自らの影を追いかけるようなもので
いつまでも掴めず
いつしか頭が白くなった
永遠に掴めない何かを
掴もうとする僕は
本当は何が欲しいのだろう